少女世界
ニートやフリーターで溢れた世界になってしまった日本。「せーしゃいん」に採用されるのが極端に少なくなり、採用されたとしても長続きせずに辞めていく若者たち。
そんな中、ゆり(ペンネーム)という女子(23)はフリーターをしながら漫画家を目指すという明らかに「バクマン。」を読んで影響を受け、漫画のようなものを描いている女の子がいた。
ゆり(ペンネーム)は一応多くの人に希望や夢を持ってもらおうとして漫画を書いていた。
ゆり(ペンネーム)の友だちの「すずね(ペンネーム、女子、23)」も同じような事をしていると最近知った。
すずね(ペンネーム)は人間の負の心を漫画で描こうとしていた。ハンターハンターなんかで時折描かれる、あのグロイシーンをメインにして、デスノートみたいな頭脳戦を加えた、グロい漫画だ。
今で言う「未来日記」みたいな「未来が分かる」部分を「寿命を掛けて戦う」に変えて、命の取り合いなんかをゲームみたいな感覚でやる、ちょっとイかれた漫画だ。本人が言うには、「アイデアは湯水のように出てくるんだけど、絵が描けない」そうだ。
もう一人の友達も同じような境遇に立ち、漫画家を目指すと言って来た。
彼女の名前は「リンダ(ペンネーム、女子、23)だ。」彼女はギャグ漫画を描きたいと言ってきた。
リンダ「ねえ、ゆり。」(漫画家になる意識を高める為に、普段からペンネームで呼び合うことにした。)
ゆり「何?リンダ。」
リンダ「私、ギャグで行こうと思うの。」
ゆり「ええギャグ!?」
リンダ「うん!!私、芸人さん達大好きだから。特にFUJIWARAの原西のギャグなんかは・・」
ゆり「(話しが長くなりそうなので、割って入ることにした。)ね、ねぇ。」
リンダ「ん?」
ゆり「ギャグはやめたほうがいいんじゃない?」
リンダ「え??どうして!?最高ジャン!!原西!!」
ゆり「は、原西が最高なのであって、リンダの描くギャグ漫画が最高な訳じゃないんじゃないかな・・・。」
リンダ「え?」
ゆり「ギャグっていうのは、人によって好き嫌いがあるし、万人受けしにくいよ・・。辞めた方がいいんじゃないかな(汗)」
リンダ「・・・・」
それから、リンダ(ペンネーム)は黙りこくってどこかへ行ってしまった。
私はそんなことで友情に亀裂が入るなんて、思いもしなかった。
―ゆりと漫画―
ゆりは今度持ち込みするために漫画を描いていた。絵もセリフも独学で、好きな漫画や映画、アニメなんかから技術的な事を盗み出し、自分の漫画に自分なりに応用しながら描いてみた。
ついに完成したので、編集部に持ち込んでみた。有名なS社に持ち込んだ。
すると・・
編集A「うん!そうだね!面白いよ!!」
ゆり「ホントですか!?」
編集A「うん!もっと書き続けてまた持ってきてよ!」
ゆり「はい!分かりました!!で、次はいつぐらいまでに持ってくれば?」
編集A「できてからでいいよ。それじゃあね。」
ゆり「はい!ありがとうございました!!」
ゆりは家路へと急いだ。
その後・・・編集部にて。
編集B「どうだった?さっきの新人。」
編集A「駄目ですね・・。自分の好きなこと詰め込んだだけの、他人から見たら何の興味も持てない漫画ですよ。」
編集B「まぁそういうなよ。そういう漫画が好かれるって事もあるだろ?まぁまた来たらちゃんと見てやれよ。」
編集A「ウィーーっす」
ゆりは家に着くなり、友達に電話して回った。まずはリンダに電話した。
ゆり「私、編集さんに漫画面白いって言われちゃった。」
リンダ「へーそうなんだ。で、なんであたしに電話してきたわけ?」
ゆり「・・・えっ?」
リンダ「あたしにはどうせ漫画の才能なんかないわよ。好きなギャグ詰め込もうとしてただけよ!それの何が悪いの!?」
ブッ
「ツーツーツーツー・・」
切られてしまった。
ゆりは何気なく言ったあの言葉でリンダを深く傷つけていたことに気づいた。
ゆり「リンダ・・・。」
ゆりは今度はすずなに電話しようとした。漫画に深い理解のある彼女なら、ゆりの漫画の「面白さ」がどれほど優れているか分かると思ったからだ。
ゆり「すずね?」
すずね「ゆり?どうしたの?」
ゆり「編集部に持ち込んでみた漫画見て欲しいんだ・・。」
すずね「持ち込んだの!?どうだった!?」
ゆり「面白いとは言われたけど・・。簡単に追い返されたような気もする。」
すずね「・・・。そう・・。」
ゆり「今度の日曜お願いできる?」
すずね「わかったわ。あたしも漫画描いてるけど、駄目ね。ストーリーしか思い浮かばないわ。」
ゆり「・・・すずね。」
すずね「何?」
ゆり「あたしが絵を描いて、すずねが話を考えるのはどう?」
すずね「それだと、あなたの書きたい話が描けないと思うけど、あなたはそれでもいいの?」
ゆり「・・・いい。漫画の為なら。」
すずね「わかったわ。一応考えておく。でも、ゆり。あなたのことよ。どうせ自分の書きたい話でないとモチベーションがあがらないとかいって結局描けなくなるかもしれないけど、それでもいいの?」
ゆり「うっ・・。ちょっとわかんない。やってみないと・・。」
すずね「ふぅ。まぁいいわ。とりあえずやってみましょう。次の日曜までに話を考えてもっていくわ。キャラクターはその時考えましょう。」
ゆり「わかった。ありがとう、すずね。」
すずね「どういたしまして。じゃぁまたね。」
来週の日曜にすずねと会う事にした。
ゆりは考え始めた。そもそも漫画って何?なんでここまで入れ込んでやってるんだろう・・。
ゆりなりの定義では、漫画は「自分の世界観を表現したもの」。
自分の世界観に共感、リンクしてくれる人がその漫画を買ってくれて、生活ができていくハズ。
ゆりは、大ヒットとはいかないまでも、自分の生活が出来るぐらいの収入が得られる仕事にしたい、と考えていた。
しかし、才能がなければうまくいかないのは勿論、辛くても辞めてはいけないものになるし(当然であるが)、メディアミックスが展開されてアニメにまでなってしまうと、もう自分だけの作品ではなくなる。簡単には終わらせられなくなる。
難しい仕事であることはわかっていたが、生活の事を考えると、そろそろ諦めて就職先も探しつつ、漫画を描く事になっていた。
ゆりはただ「漫画家ごっこ」をして遊んでいるだけなのでは?と思い始めた。
リンダを傷つけ、すずねに迷惑をかけて、自分の「ごっこ」に付き合わせているのでは?
しかしゆりは先の見えない時代の中で、希望を持って生きるには「漫画家ごっこ」しているのが楽しいとも思っていた。「ごっこ」でも十分に楽しかったからである。
趣味でやっている・・・。それが今のゆりの立ち位置であった。漫画家なんてプロ作家になるには、遠すぎて普通諦める位置である。「夢」を見るのが好きだった。「夢」を見ているのが好きで、現実にしてしまおうとは思わなかった。この世界の漫画家という職業を知るまでは。