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昏黒鬼譚  作者: 谷村真哉
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第三話(三)

これで第三話一幕の終了です。


主人公しゃべりすぎ!って感じですが、後ほどもっとしゃべる場面があります。

「ちょっと待て、仕込み暗器! どうしてそんな事が判るんだ?」


 その質問は予期していた笠場は、一瞬の遅滞もなく説明を開始した。


「前半部分は写真を基にした推論です。服装を見ると、明らかに二人の傾向は異なる。通常ならば対立する二人ですが、写真の中に緊張感はなくむしろ親愛の感情を読みとれる。

 小学校高学年から中学生の発達段階において生活環境が極端に異なる二者が深い友愛を抱くことは稀ですので、それ以前に関係性が確立されたという推論が成り立つ。

 さらに安藤さんらしき女の子が友達の陰に半身を隠すように立ち、前の少女は鞄を持っていない方の肘を曲げて庇うようにしている。しかし表情から外敵に対する緊張感は認められない。よって日常的にそうだったと想像できます」


「御両親が反対されていたっていうのは?」


「少なくとも私だったら、娘がこんな恰好の中学生と付き合うのを喜ばないので」


 少々無礼な発言も、立て板に水といった調子で語る笠場には誰も文句が言えない。


「では後半部分は?」


「それは・・・・」


「私でしたら構いません」


 笠場が確認するのに先んじて安藤が許可を出す。それに軽く頭を下げて、


「後半部分に関しては事態からの逆算によってです。幾つかの情報によって今回の話は竹中に関するものであるとの予想が付きました。

 ここからさらに疑問が発生します。一体どのような理由で、安藤さんが、竹中について、幽霊が危害を加えたかという調査を、大学生である私に持って来たのか? この時点で判明しているのは、安藤さんは生前の竹中と知人であり、危害を加えた幽霊とは写真の少女の可能性が高く、彼女と安藤さんは親友であったと考えられる。これで疑問は二つ解消されました。

 では私である理由は? そもそも社会的地位を持つ人間には持ち込み難い話ではある。だからといって友人の知り合いという得体の知れない人間に持ち込むというのも、また変な話です。

 となれば、この一件に関して私が選ばれた理由が必ず存在する。関係しうるのは竹中の霊を処理した一件のみであり、その情報を精査したならば気になる要素は一つ。竹中の霊が発していた言葉です」


「・・こっちにくるな、おんなだな」


 どこか控え目に立科が口にする。

 そこに潜む恐怖に気付きつつ、現在の状況とは無関係という判断を下して笠場は話を続けた。


「その通り。ここに居る立科は、こっちに来るな女と竹中の霊が叫んでいるのを聞いています。一方、警察の調査によれば竹中以外の人物の痕跡は見付けられなかった。しかしそれは立科の聞いた情報とは矛盾する。

 警察の能力不足を選択肢に含めないのであれば、解答は警察の想定しない存在による犯罪でしか有り得ません。この場合、幽霊は最適でしょう。少なくとも安藤さんはそう考えられた。だから竹中の幽霊の一件を処理した私に話を持ち込んだ。そうですよね?」


「そうです」


「これで更に疑問は一つ解消されました。残る疑問は唯一つ。なぜ安藤さんなのか? 

 竹中の犯罪歴を考えるならば、恨みを持つ女性は多く中には既に死亡した女性も居るかも知れない。なのに恐らくは被害に遭われてはいない安藤さんが責任を感じているのか? 彼女が責任を感じるとするならば、どのような状況が考えられるか? もしかしたら今回の犯行は被害に遭った人間による復讐ではなく、被害に遭う前に竹中を排除するのが動機だったのではないか?

 そこまで思考を進めれば後は簡単です。写真の様子から生前の彼女は安藤さんを守っていたのが窺い知れる。だからと言って亡くなった人間が自分を守るために人を殺したと、いきなり信じる人間などそうは居ません。ですからそこに到るまでの歴史を想定しました。かつ、以前に反抗した経験があるならば今回そこまで緊張なさる必要はないでしょう。

 また亡くなった友人が助言する状況に慣れていたとしても、話の内容が内容です。複数回の接触でもなければそう簡単には信じられない。よって事件の前後に接触したと考えるのが自然だとは思いませんか?」


「いや・・・思いませんかと聞かれてもな・・・・・」


「君は稀姫と会って数秒でそこまで考えたの・・・・・?」


「別に数秒で考えただけではありませんよ。立科の一件以来、こういった事態が訪れることは予想していたので、幾つか用意したオプションに適用すれば良かっただけですから。因みに今回利用したオプションは『過剰な防衛』ですけどね」


「『過剰な防衛』?」


「墓を荒らしたとか入ってはならない場所に入ったといった事態の想定です。先入観と言われるかも知れませんが、人間が関わる事象でそう突飛な事は起きませんし、そういった部分に責任を負う様な立場でもないので」


 ただまあまさか竹中に関わりがある話が持ち込まれるとは思っても居ませんでしたが、と全く様になっていない様子で肩を竦める。


「ま、ですから私は先程確認したんです。もしかしたら竹中は安藤さんの為に殺されたかもしれない。それを明かしても構わないのか、とね」


 軽く言われた台詞の意味を即座に理解した者はいなかった。が、浸透するにつれ沈黙が広がり・・・・・・

 衣司香住が爆発した。


「そんなこと、マキが選べる訳ないでしょう! そうでしょ、マキ!」


 勢いよく隣を見た彼女はしかし、予想に反して友人が首を振る姿を目にした。


「ううん、私はちゃんと選んだわ。心配してくれてありがとう。でも」


 今の宙ぶらりんの状態の方がずっと辛いの。


 その言葉が持つ悲痛な響きに、衣司は言葉を失う。

 

 そして安藤はしっかりと顔を上げて、笠場と正対する。


「改めてお願いします。竹中伸治さんを殺したのは誰なのか、そしてその動機は私にあるのか、この二つの調査をして頂けませんか」


「・・・・・まずは話を伺ってからです。私の手に負えるかどうかすら、今は分かりませんので」


「判りました。でも一体何から御話したら良いのか・・・」


「そうですね・・・」


 写真を手に取り、狂いなく安藤の手元へと滑らした。


「ではその写真の少女について、まずは話して下さいませんか?」


「はい。彼女の名前は沢村良子。十五歳で亡くなった、私の親友です」




 安藤稀姫と沢村良子が初めて出会ったのは小学校の入学式だった。

 いまでも安藤は覚えているという。入学生の波の中で溺れかかっていた彼女を、隣に立つだけで助けてくれた沢村の姿を。それ以来、彼女は沢村と常に一緒に居る様になった。

 

 二人の親達は彼女らが親しくすることについて快く思っていなかったらしいが、それについて何かを言われた記憶はない。

 

 安藤は資産家の一人娘で引っ込み思案。一方の沢村は母子家庭で育った気の強い子供。家が近所という共通点以外、家庭環境も性格も正反対の彼女らが親しくなる機会など精々小学校の低学年位しか無かったとも言える。だから両家の保護者は強く言う事はせずに、時間に対処を委ねたのだろう。


 しかし事態は予想の逆方向に向かって進む。

 彼女らは年を重ねるごとにより親密になっていった。


 理由は単純。


 家庭環境も性格も反対だった彼女らはしかし、学校での立場は同じだったからだ。


 安藤の両親が取り分け教育熱心だったという事は無かったそうだ。

 それは娘を地元の公立校に入れたことからも想像できる。


 しかし安藤家は一般家庭とはまさしく桁違いの資産を持っていた事が安藤稀姫の不幸だった。

 

 一例を挙げてみよう。

 小学生女子でピアノを習っている家庭は少なくない。

 しかし音大の生徒を家庭教師に招き、ピアノ専用の部屋として防音装置を設置するだけの費用を賄える家庭はどれ程あるだろうか?


 これはあくまで一例である。

 他にも誕生日に料理人に来て貰う、長期の休みは海外で過ごす等、彼女にとって当り前の事を話すたびに彼女の周囲からは人が減っていった。


 では沢村良子はどうだったか。


 沢村良子という人間は、頭は決して悪くなかった。むしろ平均以上の知能を持っていたのだろう。

 だが環境と性格の相性が最悪だったと安藤は語る。


 彼女の高い自尊心に対して、その生活は釣り合う物ではなかった。

 いや、生活そのものよりもそれを理由に侮られる事こそが沢村にとって屈辱だったのだろうと。


 そして彼女は屈辱を与えた存在をそのままにして置くことは無く、それは周囲の大人にも、原因を解消できない母親にも向かった。


 それが新たな反感を呼び、やがて彼女を孤立へと導いたが、それも却って喜んだ。

 馬鹿どもと付き会わずに済むと。


「小学生の私とリョウ、彼女はよしこという名前を嫌がってリョウと名乗っていたのですが、はいつも一緒に居ました。でも中学校に入った頃から少しずつそうではなくなっていったのです」


「それは二人の関係性が変化して行ったという事ですか?」


「いえ、二人の生活する時間が異なって行ってしまったのです」


 今一つ分かり難い、と笠場は微かに視線を上に向けて思考する。


 確かに中学生ともなれば、小学生のように放課後ずっと一緒という訳にはいかないだろうが、それでも仲良くしようとすれば幾らでも出来ただろうに。


そんな疑問が伝わったらしく、衣司が助け舟を出して来た。


「ちょっと私から説明しても良い? 中学では私とマキは同じ吹奏楽部に入っていたの。ま、それが縁で友達になったんだけど。そんなに厳しい部活ではなかったから、毎日練習があった訳じゃないけど、それでも小学生とは違っていたわ。それに、ね」


 気遣うように隣に差し出した手を安藤が握るのを待ってから、


「沢村さんは決してまじめな生徒では無かったわ。遅刻や早退も多かったし、無断欠席も繰り返していた。だから不思議に思っていたのよ。マキと沢村さんがどうしてあんなに仲が良いのか」


 成程。


 言外に込められた意味を読み取り、笠場は納得する。


 つまり沢村良子の方に問題が有った訳だ。

 生活する時間とオブラートに包んでいたが、実際は二人が同時に学校に居る時間が少なかった、ということだろう。


 ならば安藤による沢村の評価も割引いて考えなければならない。

 写真から受ける印象以上に問題児だったのだろうから。


「リョウは私の前では子供の頃と変わらずに振舞っていましたが、髪や服装はあまり中学生に相応しいものではなく、どうやって手に入れていたかまでは教えてくれませんでしたが、彼女のお小遣いでは買えないアクセサリー類も数多く持っていました。それらが原因となってリョウを学校で孤立し、家でも諍いが多くなり・・・・・そしてあの事を引き起こしてしまったのだと思います」


「沢村さんが死亡する、直接の原因ですか?」


「ええ・・・。十一月の事でした。その直前、リョウは三日程家に帰っていなかったそうで、リョウが立ち寄りそうな場所をリョウのお母様に電話で尋ねられたのですが、当時の私にリョウがそういった話をしてくれたことはなかったので、何もお役に立てませんでした。そして、その晩のことです」


 衣司の手と重ねられた指にそれと分かる程、力が込められる。

「リョウとお母様が暮らしていたアパートから出火しました。警察の方の話だと室内から出火したことや、二人が逃げようとした痕跡が見られないことから・・・」


「事故、もしくは無理心中ですか」


「将来への不安か家族間の不仲を理由とした無理心中、と判断されたと聞いています。・・・・ですがそれから暫くして、リョウが夢に現れました。最初は自分の願望がそんな夢を見せてくれたと考えていたんですけど、何度も続くともうそんな事はどうでも良くなって・・・!」


 顔を両手で覆い、しゃくりあげる安藤に衣司が寄り添う。

 ダレ部の他の面々も程度の差こそあれ皆涙ぐみ、笠場も冷静さを保とうと振舞っていた。


 厳密には冷静さを保とうとしている演技で有ったが。


「・・・申し訳ありません。話の途中で」


「いえ、構いません。それで彼女が夢に出てくるのは、どの程度の頻度だったんですか?」


「大体一ヶ月から二ヶ月に一度位です。私に悩み事や何か気に掛かっている事があると夢の中に出て来て、話を聞いてくれたり助言をくれたりしていました。ですが、竹中さんと知り合った前後から頻繁に夢に現れる様になりました。その内容もいつも同じで」


「竹中に近づくな、ですか。しかし貴女がそれを聞き入れなかった為・・・・」


 ピシリと僅かにガラスが鳴る。

 小枝か、砂でも当たったらしい。小さな音だったが、その音を聞き届けた笠場の口元が微かに歪む。


「はい。警察の方が家にこられる前日に夢の中で告げられました。階段から突き落としてやった、と」


 蛍光灯が古いのか、急に点滅を始め何人かが鬱陶しげに天井に目をやる。

 その内の一人であった笠場は視線を正面に戻し、


「・・取り敢えず貴女の話は承りました。ただし先に断らせて貰いますが、貴女の話は単なる想像に過ぎないという可能性があります。ああ、まずは話を聞いて下さい、衣司先輩。安藤さん自身が仰っていたように、願望や無意識が物語を創り、それを夢として見た可能性は十分に考えられるという事です」


「それは勿論だと思います。私自身そうであったならば、と願っている部分もありますので」


「そうですか。ただ私はその可能性は限りなく低いと考えていますが。ですがもう一つ。単純に私自身の能力不足で真相に至らない事もあり得ると覚えておいて下さい」


「それも構いません」


「結構。では私なりに色々と手を尽くして調べてみますが・・・。沢村さん自身は快く思っていないようですね」


 パァアン!!


 笠場が言い終わるか言い終わらない内に、頭上の蛍光灯が音を立てて破裂し鋭い欠片が降り注ぐ!


「キャア!」


 カッ


「除けろ!」


 悲鳴と指示の僅かな隙間に、固いもの同士がぶつかる音が生まれた。

 見れば天井から降り注いだ欠片の多くが、壁際に置かれた雑多な荷物に床に平行に突き刺さっている。今の音は突き刺さらなかった幾つかの欠片が、壁に跳ね返って起てたようだ。


 皆が蒼ざめた表情を浮かべる中で、笠場だけは全く態度を変えていない。


 どころか、


「これは中々ですね」


 却ってその笑顔は晴れ渡っていた。


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