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昏黒鬼譚  作者: 谷村真哉
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第三話(二)

この編から主人公の外道っぷりが明らかになってきます。

「「「「・・・・・」」」」

 

 意図的に省略された部分でひどく怖ろしいことを言われたかのように、笠場を注視したまま全員の動きが止まる。

 

 とはいえ生きていようが死んでいようが、変化しないものなど存在しない。

 止まっていた時間を引き摺りながらも、状況把握へとめいめいが動き出してゆく。


「た、たしかに仕込み暗器の言う通りだ。出素キッチンよ、そこの可憐なお嬢さんを俺に紹介してくれないか」


「ってか、ホントに衣司先輩の知り合いなんですか?」

 

 出素キッチンと呼ばれて反射的に睨みつけた衣司は、笠場に気を使いながらも立科の疑問に答えた。


 「ええ、彼女は私の友達よ。そして笠場君に相談があるのも本当。

 ・・・・・・もしかしたら相談の内容も予想できているのかもしれないけど、一応順を追って説明させてもらうわ。こっちに来てくれる?」

 

 声を掛けられた女性が一礼してから入室する。

 その礼も手を前に揃え、腰から曲げる礼儀正しいものだ。初対面に言うべきかは別として、可憐なお嬢さんは過大評価ではない。

 

 ただし、と笠場は頭の中で付け加えた。

 良く言えば可憐だが、悪く言えば臆病に見える。

 外見と内面が常に一致するならば人間は滑稽でしかないが、幸いなことに人間はそこまで純粋に出来てはいない。まあ、その代り単純ではあるから内面の何かが外見に影響を多かれ少なかれ与えている。

 ・・・要するに、付け入れられる為に存在している人間だな。

 

 習慣としての、多分に犯罪的な人間観察を完了すると同時に目の前の椅子に客が着席する。

 緊張した面持ちは変わらず、好奇の目で見ていた他の連中まで緊張が伝染でもしたかのように口を噤んで姿勢を正した。

 

 それをどこか満足気に見渡してから、この雰囲気に相応しい重々しさを伴って衣司が口火を切った。


 「それじゃ改めて紹介するわね。彼女は安藤稀姫。私の幼馴染よ。普段は別の大学に通っているのだけど、今日は笠場君に相談に乗ってもらおうと思って来てもらったわ」


「安藤と申します。どうか宜しくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」

 

 当事者同士がそれぞれに挨拶を交わす。その様は見合いに見えなくもない。・・・見えないか。

 

 しかし笠場は落ち着いている。安藤が衣司の幼馴染ということは、笠場より歳上だろう。

 だが傍から見れば笠場の方が年上、下手をすれば十年ほどの開きがあるとすら思われるかも知れない。

 

 相談する者とされる者の差は勿論あるだろうし、笠場は服装も顔立ちも年齢不詳だ。

 それに比べて安藤は身に付けている物は高級かつ上品とはいえ大人しめで、どこか成熟した女性というよりも、お仕着せを背伸びして着こなしている子供っぽさを顔に残している。

 

 それらが全く影響を与えていないと言えば、それは嘘になってしまうが・・・・・

 

 より根本的な差異がある。

 

 程度の差こそあれ、その場の全員がそう確信した。

 そして、少なくともこの場この瞬間においては、笠場こそが支配者であるということも。


「ところで・・・・安藤さん」


「はい」


「おそらくは衣司先輩からの私の話を聞いて、相談されることを思い立たれたのだと思いますが・・・・・」


「ええ、そうです」


「一体、どのような話を衣司先輩はされたのかお話して貰えませんか?」


「それは・・・・」

 

 チラリと、遠慮するかのように隣に座る衣司を見るが、


「貴女自身の言葉でお願いします」

 

 丁寧ではあるが優しくはないその口調に、一瞬怯えた表情を浮かべる。しかし意を決したように頷いた。


「私が笠場さんについて伺ったのは、その、霊と呼ばれるものに詳しい方だと・・・・・」

 

 ああ、やっぱり。そうですか。

 

 相槌としては唐突過ぎる、独り言にしては大き過ぎる、言葉が付けられた溜息のようなその声に、安藤よりも衣司がむしろ不安そうな表情を形作る。

 

 それに改めて気付いたのか、それともそう装っているだけなのかそれは分からないが、笠場は軽く手を振りながら謝罪の言葉を口にした。


 「話を途中で遮って申し訳無かったですね。

 ・・・別に不愉快に思っている訳ではありませんし、いきなり席を立つような真似をする気もありません。ただ、何らかの誤解が我々の間に生じているのではないかと考えていたものですから」


「誤解ですか?」


「ええ。思うに衣司先輩は私が除霊、つまり霊を祓う事ができる、とでも話されたのでは?」


「まあ、ほぼその通りの言葉で・・・・・・」


「でしょうね。私自身としては言い触らされたくはなかったのですが」

 

 冷たい一瞥と辛辣な口調で衣司を責める。


「済みません・・・・・・」


「いえ、貴女を責める気は毛頭ありません。ですがお話を伺う前に、不確かな情報によって生じた誤解を解かなければならないでしょう」


「その誤解って、何?」


 話を持っていった当人として責任を感じたのか、あるいは一々放たれる悪意がいい加減鬱陶しくなったのか、衣司が話を進めようと割り込んだ。


「お答えしましょう、粗忽者の衣司先輩」


 が、笠場は当分許す気はないらしい。


「霊が実在するかどうかは横に置くとして、いいですか、知人と私が死んだ人物の姿を見、声を聞いたと感じたこと、これは事実です。そして私が塩を撒いたことと知人がその人物の姿を見なくなったこと、これも事実です」


「だから・・・・・」


「だから何だと言うのですか? たしかに時系列では連続しています。ですが、そこに因果関係があると証明されたのですか?」


「・・・・・」


 冷ややかさ極まれりといった口調ではあるが、内容自体は正論である。

 まさしくぐうの音も出ない状態にまで追い込まれてしまった。


「そうだよな」


「うん、そうですね」


「うむ、そうだな! 俺を見るとどういう訳だか人が散って行くが、それも関係はないからな!」


 いや、それは関係あるだろう。


 とツッコむ気力もなく完全にKOされた衣司を放置して、笠場は安藤に向き直る。


「ですから身近に起こったという点では物珍しく思える立科の怪異譚も、その中身を正しく見れば偶然の連なりでしか有りません。申し訳有りませんが安藤さんのご要望にはお応え出来かねます」


 にっこりと穏やかではあるが、交渉の余地を感じさせない雰囲気を押し出して話を打ち切ろうとする。


「でも・・・・」


 しかし彼女は食い下がった。

 その様子にいささか驚いたように笠場は彼女を見直す。彼の見立てでは、ここまで言われてもまだ頑張れるほど芯の強い女性には思えなかったのだが。


 よほど状況が切羽詰まっているのならば有り得るかも知れないが、それなら金持ちであろう両親に話を持って行くだろう。

 ・・・・・・手札に何を隠している?


 警戒心を不審そうに形作った顔の裏に隠し、次なる言葉を促す。


「でも?」


「薫ちゃんも言ってたんです、笠場さんなら力になってくれるかも知れないって」


「薫ちゃん?」


「そうよ!」


 笠場が初めて出た名前を繰り返した声は、衣司が発した力強い叫び声に掻き消された。


「そうよ、笠場君! 君が出来るって話は薫からも聞いてるんだからね!」


 おおーっと無責任な歓声を上げる三人。

 当初の緊張した空気は吹き飛び、すっかりコメディタッチに染まってしまった。

 

 それにつられてか、それぞれに軽口を叩き合う。


「うむ、出素キッチンの復活!」


「でも少し騒がしいですよ」


「かおるって誰?」


 が、


「妹さん、でしたよね」


 笠場の一言で再び引き締められる。


「先日、緑野高校にて挨拶を交わしましたが、そうですか、彼女も私のことを話していましたか」


 どこか独り言のように語る笠場の眼は、目の前ではなく自らの裡を覗いているかのようであった。


「笠場君?」


「そうですか、そうですか・・・・・」


 衣司の言葉も、周囲からの視線も一切無視して、何事かを呟きながら瞼を閉じて思考に沈む。

 そのただならぬ様子は、声を掛けるのを躊躇するに十分だった。


「・・・・・うん、そうですね。やはりこうするしか無いでしょうね」


 やがて結論が出たのか、おもむろに目を開けると自分を見つめていた安藤と視線を合わす。

 そこに今までの拒絶するような冷たさは無かったが、その分真剣なものへと変質しており、先程よりも脅迫的になったことは否めない。


「安藤さん」


「はい」


「貴女の抱えている事情にどれだけ力になれるかは疑問ですが、まずは御聞かせ願いたい。話はそれからです」


「・・分かりました」


「それに衣司先輩」


「な、なにか?」


「先輩は先に一度は話を聞かれていると思いますので、なにか補足説明が必要な時の為に同席を御願いします」


「うん、分かったわ」


「それと最後に確認して置きたいのですが、安藤さん御自身として人払いは必要ありませんか?」

 

 そう言われれば、といった表情で改めて周囲の人間を見回すが・・・・・・そのまま固まってしまう。

 確かに一般的な判断基準の斜め上や背後に回り込んでいる人間ばかりで、どうすれば良いのか判断がつきかねているのだろう。


 笠場は仕方ない、とこっそり溜息をついてから助け舟を出す。


「先に断って置きますが、私は今回の事で利益を得るつもりはありません。ですから報酬を要求することはありませんが、同時に特に口止めされない限りこの件に関して知りえた情報を黙っているということもありません。

 これらを理解した上で判断して下さい」


 判断して下さいと口にしたものの、十中八九の確率で人払いを望まないと読んでいた。

 正しく言えば、消極的には望んでいるが積極的に主張しないだろうと読んでいた。



 笠場の本音としては別にどちらでも構わない。

 ただ相手に下駄を預けることで、責任の所在をなんとなく向こうに追いやりたいという姑息な計算が働いているに過ぎないのだから。


「・・・・・いえ、結構です。他の方に聞かれて困るような話ではありませんし、それに全く無関係でもない方も居られると香住ちゃんから伺っていますので」


「?」


 妙な事を口にした安藤に、瞬間、笠場の瞳が色を帯びる。

 

 疑問に思い衣司に目を向けるが、安藤の方へ首を振るばかりだった。

 本人に聞けという意味だと判断して、当面は保留と判断する。


「それでは単刀直入に御聞きしましょう。貴女が私に頼みたい事とは何ですか?」


「・・私の友人がある人物の死に関わっているかどうかを調べて欲しいのです。いいえ、もっと率直に言えば、危害を加えたかどうかを調べて頂きたいのです」


「その御友人と言うのは勿論・・?」


「はい。亡くなっています」


「成程。それはたしかに他の方に相談しにくい話でしょう。

 ですが亡くなった人、いえ不躾な言い方をすれば幽霊が何かをするというのはいささか突飛な考えです。なにかそう思われるような根拠があるのですか?」


「・・・・まずはこの二枚の写真を見て下さい」


 バッグの中から写真を取り出すと笠場の方へと滑らせて送る。


 離れた場所に座っていた板疋と萩はさすがに席を立つような真似はしなかったが、それでもかなり興味を惹かれた素振りを見せたし、隣に座っていた立科は身を乗り出してきた。


 対照的に笠場は落ち着いた様子で写真を眺めている。

 意図したものかは判別できないが、ある種の凄味を少なくとも目の前の客には与えている。

 

 彼が今見ているのは片方の二枚の写真の内の一枚である。

 写っているのは少女が二人。中学生らしく両方とも制服姿ではあるが、それでもその服装は大きく違っている。


 一人は肩に揃えられた髪に、キーホルダーの一つも付いていない鞄を両手で持っている。


 もう一人は茶色く染めた髪に、当然のように派手な色合いの化粧をし、耳には目立たないものとはいえピアスを付けている。持っている鞄は半分隠れるほどアクセサリーで飾り付け、垣間見える部分もマジックで描かれた図案で埋め尽くされている。


 要するに前者は優等生の典型で、後者は不良少女の模範といったところだ。

 一見したところ接点があるようには見えないが、二人の浮かべる笑みには屈託はなく、親友同士といった雰囲気を時を越えて伝えてくる。

 

 この写真を見尽くした笠場はもう一枚へと手を伸ばした。


 こちらは複数名の、それも大人の男女が写っている。

 どこかのパーティー会場で撮られたのか皆盛装していて、背後には料理が置かれた丸テーブルが幾つも見え隠れしている。

 

 そういった一目で分かる部分を記憶した後、個々の顔に目を向けると・・


「ほう!」


 強い驚きの声が口から洩れた。


「ようやく腑に落ちました。確かにこれは御両親には相談できないでしょうし、何よりも私が打って付けですね。幽霊の殺人事件なんて簡単に口外できるものではありませんから」


「なんで・・・・」


「さつじん?」


「殺人!」


 笠場の言葉に驚かなかったのは一人もいなかったが、反応は人それぞれだった。


「だとすると・・・・・・夢で見たんですよね? ですが貴女はそれに逆らった。おそらくは初めて。

 ああ、そうか。幽霊だけではないんですね、御両親に相談できない理由は。亡くなって、いや警察が家に来たことが切っ掛けで露見した」

 

 もともと良くはなかった顔色が、笠場が語るにつれて更に悪くなってゆく。

 それに気付かず、あるいは無視して笠場は真正面から睨みつける。


「それで、どうします?」


「ひっ」


「私としてはどちらでも構いませんよ」


「何が、ですか?」


「貴女の真意は読めました。その上で質問しましょう。本当に望むのですか、真相を」


 最後の一言は、まるで悪魔の囁きだった。言外に代償を要求し、選択を迫る。

 どちらかを取れば、もう一方は諦めなければならない。


「・・・・・・・」


 こくり、と誰かの喉が鳴る音が耳に届いた。


 鳴らしたのは選択を迫られる者だったかもしれないし、傍から見守る者だったかもしれない。


「・・・・望みます」


「良いでしょう。では」


「ちょっと待ってくれ、仕込み暗器」


「部外者は黙っているべきですよ、板疋先輩」


 せめて迷惑そうな表情でもすればまだしも救いがあるのだが、笠場は表情を変えないどころか見向きもしない。

 

 ただ声の温度が数度下がり、それだけで十分な脅迫となる。だが、それでも板疋は次の言葉を継いだ。


「俺の行為が礼儀に適わないことは理解している。しかし聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とは古来より伝わる金言。僅かなりとも俺の蒙を啓くことを願いたい」


「・・・一体何が聞きたいのですか?」


「そうね、私も知りたいわ。稀姫に君を会わせた責任は私に有るんだし、それに」


 板疋に加勢するように衣司も話し出す。

 そこには先程の嫌味に委縮していた様子はなく、横に座る安藤を庇うように身を乗り出している。


「この子の真意って何のこと? 稀姫の意志に反するかもしれないけど、場合によっては君にこの一件を預けることは無かったことにさせて貰うわ」


「強引ですねぇ。それに本人から話を聞くべきでしょう」


「いえ、私からもお願いします。なぜ笠場さんはそこまで御存知なんですか」


 香住ちゃんにも話さなかったのに。


 安藤の青ざめた表情と、怯えが色濃く出た言葉に、これ以上追い詰めては逆効果であると笠場はようやく気付いた。

 

 笠場の考えは単純である。

 

 カモが向こうから飛び込んできたから好みの方法で調理しよう。その前に余計な奴らには退場して貰う。

 その為の高圧的な態度だったのだが、カモが逃げ出しては本末転倒。面倒ではあるが信用を得るための説明をする。


「本人から承諾が出た以上、隠す必要もありませんね。・・・別に知っていた訳ではありませんよ。ただ、この二枚の写真と私が持っている情報を元にすれば、この程度の推論は簡単に成り立つので」

 

 二枚のうちの一枚を手に取り全員に見えるようにかざす。


「このどこかのパーティー会場で撮られたらしい写真を見て下さい。向かって左端にうつっているのは安藤さんですが、重要なのは隣に立っている人物です」


「僕達も知っている方なのですか?」


「萩先輩はご存じないでしょうが、立科なら誰なのか知ってますよ」


「俺が?」


「ああ。印象は異なっているだろうけど、よく見れば判る筈だ」


 じーっと見つめ続け・・・・・・


「こいつ! 見た目が全然違うけど竹中じゃないか!」


「そう。階段から転落して死亡した竹中伸治ですよ」


「ちょっと待って。どうして稀姫が竹中って人と一緒に写ってるのよ」


 この事実を初めて知ったらしい衣司香住の反応から、笠場は安藤の性格を読み取り、高圧的な交渉を続ける事を決定する。

 ・・・・言えなかったのは無意識の保身か、それとも意志の薄弱さゆえか? ま、どちらでも良い。俺に都合が良ければ。


「当然、二人は知り合いだったからでしょう。竹中は正体を隠して、おそらくは写真とは別の・・・・・」


「パーティー会場で知り合いました」


 笠場の言葉を遮って響いたのは、安藤の声。

 まだ顔色は悪いが、自分の問題として力を尽くす気はあるらしい。

 

 笠場にとってはどうでも良いことだが。


「稀姫・・・・」


「知人に誘われて行った小さな会場です。そこで同じように知人に招待されて来ていた竹中さんに初めてお会いしました。ごめんね、香住ちゃんにも黙っていて」


「私なら構わないけど・・・・・その竹中ってひと犯罪スレスレの行為に手を染めていたんでしょ。なんでそんな人がパーティー会場にいるのよ」


 ある意味では当然の疑問である衣司の質問に、また逆の方向性で竹中の行動を当然と考える笠場が説明する。


「手を染めていたから、でしょうね。竹中を招待したという人物もその正体は知らなかったか、あるいは何らかの弱みを握られていた可能性があります。

 そうやって潜り込んで様々な人物の信頼を得た後、事を起こすつもりだったのでしょう。・・・・安藤さんは既に警察から聞いた話でしょうが」


「笠場さんが仰る通り、竹中さんが亡くなったことを調べている警察の方から詳しい話を伺いました。でも・・・・」


「どうして御両親や知人ではなく、警察から話を聞いたことが分かったのか、ですか? 現在の事態から逆算すれば簡単です。彼女の助言を無視しない限り、安藤さんはそこまで気に病まれないでしょうから」


 唐突に出てきた彼女という単語に反応して衣司に視線が集中するが、


「わ、私じゃないわよ」


「ええ、衣司先輩ではありませんし、正直に言えば私もどなたか知りません。ただ―――」


 もう一枚の写真を机の中央へと置く。


「ここに写っている女の子だとは思いますが」


 そうですよね、と目線で問い掛ける。


「・・・何だか安心しました。さすがに全てをご存知ではないのですね」


「当然です。あくまで推論を重ねただけですから」


「と言う事はだ。基本的に全部仕込み暗器の想像な訳だ。だったら先に全部言ってしまったらどうだ? 小出しにしても何一つ益はないし、間違えた部分は正してもらえば良いだろう」


 右手に座る板疋から掛けられた言葉に、笠場はその提案に従うメリットを計算する。


 通常ならば手札を見せるのは得策ではない。

 

 ただし、相手を積極的に追い詰める為に此方の優位を見せつけるのも一つの作戦ではある。


 この人形と変わらぬ安藤が相手なら、僅かにでも抵抗しうる意志は奪って置いた方が便利か。

 一秒かそこらで、そう考えた笠場は板疋の提案に乗っかることにした。


「それもそうですね。あと私が分かっていることは安藤さんと彼女が幼い頃からの親友であったこと。引っ込み思案の安藤さんを彼女が引っ張る関係であったこと。しかし御両親は良い顔をなさっていなかったこと、でしょうか」


「・・・・その通りです」


 開いた手を全員に向けてかざし、自分の言葉と同時に一本ずつ折る。三本の指が折られた手を、特に安藤は緊張した面持ちで見つめている。

 ・・・そう、十分に脅えてくれ。その為にこんな芝居じみた行為をしているのだから。


「それと亡くなった後も何度か夢に彼女を見て助言を受けたこと。竹中と知り合ってからは会わないよう忠告されていたこと。しかし安藤さんはそれに従わなかったこと。もしかしたら竹中の事件後に何らかの報告が有ったかもしれないこと。そして立科の身に起こった顛末を聞いて疑いが確信に変わったこと、くらいです」


 こんなものでしょうか、と笠場が締めくくったとき、一度折られた指も再び伸ばされ、結局折られていたのは二本だけだった。

 部屋を沈黙が支配している、とまではいかないが皆唖然とした表情を浮かべ誰も喋ろうとしない。


「まだ話していないのは、この八つですかね。何か足りないことや間違っていることは有りますか?」


「・・・・・・・」


「稀姫、どうなの? もしかして・・・・」

 

 こくり、と蒼ざめた顔を上下させる。


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