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昏黒鬼譚  作者: 谷村真哉
13/18

閑話 ※是非とも前書きを読んでください。

この編は、この物語にとって“締め”にあたる話です。


平たく言えば結末が丸わかりになっている編です。


とはいえ全てが明らかになってはいません。筆者本人としては、その齟齬(と言うか意図的に秘した部分)を最終話で愉しんでもらいたいという意図の下で、この編を載せています。


推理小説での倒叙ものに似た構成、だと理解して下されば幸いです。


しかしながら拙著を読んでくださる方々の中には、その様な種類を好まれない方も居られるのでは、と勝手な期待をしているので、こうして前書きで長々と口上を述べさせて貰っています。


この編については、最終話の読後でも順序として充分に成り立つので、順番については読者諸賢にお任せします(逆に最終話後の方が“際立つ”かもしれません)。



なお、最終話では主人公が“全開”になります(“全力”ではありません)。


ここまで読んで下さった方々ならば不愉快に思われることもないかと推測していますが、蛇足となることを願いつつ一応の挨拶としてお受け取りください。





 窓から入る西日をサングラスに反射させながら眺めていた男は、機が満ちた事を悟った。


 勿体を付けながら両手を振り回すように大きく開き、背後にて静かに言葉を待つ者達に託宣を下すように朗々と告げる。



「さあ、今日もこの時がやって来た! 未知は常に新鮮な喜びを約束する。だが、待つ事もまた喜びの一つ。俺達は十分に待った。今こそ聞くに値する時。今日の語り手は仕込み暗器! 一体如何なる奇譚が―――」


「安藤さんの一件はどうなりました、暗笠君?」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「黙ったままならさっさと座りなさいよ、板疋君。君が無駄な溜めをしたりするから、萩君が進めてくれたんでしょ。それなのに立ってる人がいたら、笠場君が始められないじゃない」


「それに部長の服装は今日も決まってますよ・・・・色んな意味で。なんでこの季節に半被なのかとか、その“ぼちぼちでんな”の文字の意味とかさっぱり解りませんけど・・・・多分」


「・・・・そうだな、出素キッチンにツナギマネキン。お前達の優しさは確かに受け取った! では仕込み暗器よ、お前の―――」


「解決しました、萩先輩。私が安藤稀姫から沢村良子の霊を引き離し、除霊することで」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・だから余計な事をせずに座ればいいのに。何で一回転なんてしようと思ったの?」


「笠場ももう少し待ってやればいいのに・・・」


「既に充分に無駄な口上を聞いた。では、本日の話者は私、笠場大。諸先輩方と並びに立科は、さてさてどんな話を御望みでしょう?」


「それはまあ、色々じゃない? ねえ、立科君」


「幽霊をどうにかする方法とかも気になりますけど、俺はやっぱり竹中の件の真相が気になります」


「僕もそうだねぇ。不謹慎だとは思うけど、興味が無いと言えば嘘になるし」


「と、二票が入りましたが御二方も同意見で?」


「そうだな。二兎を追う者は一兎をも得ず。今日は稀姫嬢に敬意を表し、依頼の顛末をもって満足すべきだと、仕

込み暗器、俺は考えている」


「私も一番聞きたいのはそれかしらね。いちおう稀姫から聞いているけど、君の事だから真相をありのままに伝えた訳じゃないでしょ。特に稀姫の意識が乗っ取られた事についてはほとんど何も聞いて無いようなものだし」


「意識が乗っ取られた!」


「それは物騒だな」


「でも人殺しも物騒な話ですよ、先輩」


「萩先輩の言うとおり。今回の譚では物騒な部分や、それに至る込み入った事情が色々とありました。でもま、理解しやすくなるよう順序は色々と手を加えますから安心を」


「うむ、では話してくれ」


「はい。まず竹中を殺したのは十中八九、沢村良子の霊でしょう」


「ほう」「へぇ」「やっぱり」「そう・・・・・」


「本人の言葉以外に証拠が無いので確実、とは言えませんが」


「・・・・・動機はやっぱり稀姫の為に、って事なの?」


「そうとも言えますが、それだけでは無いですね。そもそも沢村良子が竹中を憎悪していた背景があったからこそ、殺人にまで到ったのです。そこに気付かなかったのは立科の影響があった所為ですが」


「どういう意味だ、笠場?」


「竹中さんが悪い人だったから、沢村さんは安藤さんに注意していた訳じゃないのかい」


「そう、それが誤解なんです、萩先輩。安藤さんも竹中が犯罪者という知識があったから、沢村が警告していたと考えていました。ですが、沢村はどうやってそれを知ったのでしょう?」


「それは幽霊の不思議な力を使ったんじゃないか?」


「板疋先輩の言う可能性も有りますが、私はそこが気になりましてね。で、色々と調べたところ、沢村良子は死亡する直前まで竹中と関係が有った事が分かりました」


「すごいじゃない! どうやって調べたの?」


「方法は霊能力関係なので、それはまた別の機会に。問題はその関係でして、どうも沢村は恋人だと思っていたようですが、実際はもっと生臭い話でしてね。まあ、詳しくは述べませんが」


「大体は・・・・・」


「想像がつくわね・・・・・」


「更に竹中は沢村の母親とも関係を持っていました。・・・例によって、例によった関係ではありますが」


「・・それは随分と酷い話だね」


「最低の奴だな、竹中という男は!」


「私も同感です。竹中は母親からは貯金を貢がせ、娘には金を稼がせていた。二人が死んだ原因、というよりも母親が娘を殺した動機もどうやら嫉妬が理由だったようです。これも当人から聞いた以上の証拠は無いのですが」


「そして母親は発作的に自殺か・・・・・」


「だったようです。いや、だったそうです、沢村本人の話に拠れば。よって沢村さん親子が死んだ原因は将来を悲観しての無理心中ではなく、嫉妬を動機とする殺人と犯人の自殺だった事になります。・・・・こんな真実が明らかになったところで誰も幸せになりませんし、何より安藤さんにとって衝撃が大き過ぎると思って伏せさせて貰いました。それで良いですよね、衣司先輩」


「ありがとう、笠場君。確かにこんな話を稀姫には聞かせられないわ」


「でも、そんな事されたんだったら、俺も殺そうとするかもしれないな」


「僕も賛同はできませんけど、気持ちは分かります」


「・・・・・・・・」


「その様子では疑問があるようですね、板疋先輩?」


「・・・・・・・・・ああ。沢村さんの霊がその通りの理由で竹中を襲ったのならば、なんで仕込み暗器は彼女を除霊したんだ? 確かに危険な存在かもしれないが、それは竹中に恨みが有ったからこそ。稀姫嬢にとっては心強い守護者だ。それに意識を乗っ取った理由もはっきりしていない。まだ話には続きがあるんじゃないのか?」


「ええ、あります。話が変わるようですが“ばれなければ何しても良い”という主張について、皆さんはどう思いますか」


「唐突だなぁ。それはこの話に関係有るのかい?」


「割と」


「私は馬鹿のたわ言と思ってるけど。それって“他人に迷惑を掛けなければ何しても良い”と同じことでしょ。で

も他人に迷惑なことって、自分には分からないじゃない。だから自分を縛るルールを常に意識して生きていくのが社会ってものでしょう」


「俺も似た意見かな・・・。ちゃんと考えた事はないけど、道徳とかって結局は自分でもつものであって、自分の外に委ねるものじゃないと思うけどな。だからばれるからどうとかじゃなくて、自分自身がその行為をどう判断するかって事だと思う」


「ふむ。二人の意見を纏めると、規律やルールは自分で持つべき、で良いですかね? では板疋先輩と萩先輩は?」


「僕の意見は二人のとはちょっと違うなぁ。“ばれなければ何しても良い”というのは論理的には正しいと思う。でも他者に絶対に気付かれないということは、この世界では絶対に有り得ないから、そこが間違いじゃないかな」


「俺もチグ萩と同意見だ。結果として知られなかった出来事は沢山あるだろうが、最初からそれを期待して行動を起こすのは無謀と呼ぶべきだな」


「論理的に正しくとも実現は不可能、という事ですね。期待通りの回答、有難う御座います」


「それで? この質問にどんな意味があるの?」


「では、この二つの回答を踏まえた上で話を聞いて下さい。・・・そうですね、例えば何度も痴漢の被害に遭っている女性が居たとしましょう。彼女は懲役や禁固といった罰が軽すぎると不満を持っているともします。その不満が高じて、痴漢をした者は全て手を切り落とすべきだ、との信念を持つに到ってしまいました」


「過激ね。・・・・気持ちは分かるけど」


「それは喩え話だよな・・・・・?」


「安心しろ。そんな人はいない・・・俺の知り合いの範囲ではな。・・ですがそれが彼女の中では正義、言い換えればルールだとしても、社会から見れば痴漢以上の犯罪です。警察に捕まるし、手を切り落とされた当人やその家族の怨みを買うでしょう、ばれたのならば」


「なるほど。分かったぞ、仕込み暗器。つまり反応があるかどうか、という話なんだな」


「ご賢察です、板疋先輩。“ばれなければ何をしてもよい”というのは真理です。ですが“ばれない事は無い”というのも真理。生きている限り、人は自分の持つルールと社会の持つルールの折り合いをつけなければならない。その折り合いをつける為の一つの方法が、自分の行動に対して社会がどんなカウンターを返すか予想すること。言い換えれば、“ばれた時が恐ろしいからしない”ということです」


「でも沢村さんは、折り合いをつける必要がなかった。いえ、折り合いをつける社会が無かったのね」


「ええ。世界には自分とは異なる基準が存在する。理屈として理解はしても、もはや実感は無い。つまり彼女にとって、世界には彼女のルールしか存在しなかった。だから自分が最善だと思った行為を躊躇わず、相手の都合を考えることができず、行った」


「意識を乗っ取ったのも・・・・・」


「安藤さんを守る最善の方法だと考えたからです。説得は通じませんでした。そもそも他人の話を聞くことすら出来なくなっていたので」


「除霊をした、か。仕込み暗器の判断は間違いない。俺が保証するが・・・・・・だが哀しい話だな」


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」


「社会とは」


「何だい、暗笠君?」


「社会とは本質的に暴力を内包せざるを得ない概念です。社会は維持されることによって構成員に利益を与えますが、それは必ずしも全員にとっての最大利益ではありません。だからこそ維持の為に外部に向けてであれ、内部に向けてであれ、常に暴力を行使しうる権限を保持し続けなければならない。そして暴力が単体で存在する訳がなく、暴力を振るう具体的な主体こそが社会の構成員です」


「唐突に難しい事を言い出したな」


「即ち、社会に守られる存在である為には社会を守る存在でもなければならない、という事です。もしも望んで社会の外に立つのであれば、その瞬間に社会から受ける全ての庇護を喪い、社会の持てる暴力に曝されても文句は言えません。でなければ社会を維持できないかもしれないから」


「仕込み暗器の言葉は間違ってはいないと思うが・・・」


「ですが、社会によって暴力が行使された対象と、その対象の善悪とは本質的に無関係です。所詮、我々の持つ善悪の基準など社会の内部を越えるものではない。内部の行為ならばいざ知らず、外部に立つ存在までも我々の基準で判断するのは越権行為であり、傲慢です。故に沢村良子の行動が暴力で排除されるものであった事実と、彼女の動機が否定されるべきという意見は必然的に両立するものではありません」


「・・・君って意外に優しいのね」


「別に優しくはありませんよ。単に事実を述べているに過ぎないのですから。ただ、そうですね。私がもしも彼女に憐れみを覚えるとしたら、それはこの世界に社会と、つまり他者の作ったルールと関わらずに存在できる場所は無いって事です。例えそれが幽霊だとしても」



 バケモノだとしても

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