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昏黒鬼譚  作者: 谷村真哉
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第三話(五)

 衣司薫は逡巡していた。

 

 自分の感情はこの行為を推し進めようとしているが、自分の理性はこの行為に対して反対意見を表明している。

 

 感情の主張では、これは適切な投資活動だとしている。

 予想しうる困難を対処し、予想外の危険を軽減できる。これから暗闇を歩き回るというのに、懐中電灯はおろか杖の一つも持たないのは無謀以下の行動だ。

 

 理性の意見によれば、これは余計な行動だ。

 大抵の場合、余計な事に首を突っ込むと、それに見合った厄介事が漏れなく送り付けられる。そもそも暗闇には足を踏み入れるだけで、歩き回る必要性はない。これ以上の負債を抱え込んだら、後は自滅の道をまっしぐらだ。

 

 普段の薫ならば理性の意見を尊重するのだが、今回に限って勘や本能といった連中が感情を応援している。

 結局は数に押し切られる形で、薫は姉に声をかけた。


「ねえ、姉さん。ちょっと聞きたい事があるんだけど、今、いい?」


「今? そうね、もう少し待ってくれれば、答えられるわよ」


 ダイニングキッチンの向こうで手を動かしていた衣司香住は、少し考えてからテーブルに座る妹に返事をする。


 仕事の関係上、母親が家を空けている事が多い衣司家では、食事を含む家事は娘二人の仕事になっている。

 だから姉と妹のどちらが夕飯の支度をしても構わないのだが、特に帰りが遅くなる日を除いて大抵は姉が食事を作る。これは薫が怠けているのではなく、香住の趣味が料理だからだ。

 

 しかし姉が台所に立っている時は、薫は出来る限り同席しようと心がけている。

 これは料理を作ってくれる姉に対する感謝であると同時に、姉が変なアレンジを行わないように監視する為でもある(正直な話、香住の料理による被害はダレ部の比ではない)。


「それで、聞きたい事って?」


「・・・・・笠場先輩って、どんな人?」


「どんなって・・・・」


 手を拭きながら、香住もテーブルに座る。調理は一段落したのだろう。


「見た目通りの」


「見た目通りの?」


「よく分からない人よ」


「・・・・何の説明にもなっていないんだけど」


「しょうがないでしょ。知り合ってから一ヶ月も経っていないんだから。それよりもアンタの方こそ、一年も同じ学校に居たんだから私よりも詳しいはずでしょ」


 むっとした様子の香住に、薫は何も言い返せない。自分だって会って一ヶ月しか経っていない人のことなど、どれほども知らないに違いない。


「ただ、真面目だなってのは何度か思ったけど」


「うん、それは先生たちもそう言っていた。目付きの悪さを差し引いても、本当に真面目な生徒だったって。だからそれ以外の事で」


「それ以外ねぇ・・・・」


 頭をひねり始めた姉と、自分の為にコップを取り出して麦茶を注ぐ。

 季節は暖かくなってきたが、コップの手触りは少々冷た過ぎた。


「あと、頭もいいみたいだけど、それ以上におっかない人だなって、最近思うようになったわ」


「おっかない?」


 笠場大と二度目に会った時、薫は彼の“人殺しの眼”を垣間見た。


 その眼に淀む昏黒は怖ろしい以外に言い様の無い代物だった。

 

 しかしそれは一瞬だけ。その一瞬を除いて、笠場は完全に普通の人間だった。

 

 だからこそ、薫は笠場大という存在を警戒する。

 強固な自己コントロールの下に、どんな禍々しい素顔を秘めているか分からないから。

 

 だが“人殺しの眼”が常態であるのなら、笠場大への評価もまた変化せざるをえない。

 それを確認するために、薫は聞き返した。


「そう。昨日マキと会った時の話はもうしたでしょ。そのとき思ったのよ、ああこの人はひどくおっかないなって」


「それは、あれでしょ。姉さんが言い触らしたりしたからじゃないの」


「・・・それについては少し責任が有るかもしれないけど、私が言いたいのはそこじゃない。マキに何が起こったか私たちに説明する笠場君がおっかなかったのよ」


「どういう意味?」


「あの短い時間であそこまで考えられるのは頭がいい証拠だと思うけど、でもそれ以上に、人間を見切っている感じがしたの。なんかもう、人間なら何でもありですよって雰囲気と言えば近いかな」


「達観とか、老成とか、そういう事?」


「どうだろう? 近いようで、遠いような。もの凄く悪い言い方をすると、自分を含めて全人類を見下している感じがしたのよ」


「それって、極悪人だって言ってるように聞こえるんだけど・・・」


「だからもの凄く悪い言い方だっていったでしょ。別の言い方をすると、そう、人間に過剰な期待を抱いてない感じがした。なのに、私たち他の人間は期待を持っている。そのギャップが、おっかないと感じたのかもしれない」


「過剰な期待を抱いていない、か。それって人間だけ? それとも人間が作り上げている社会も含まれていると思う?」


「さあ。そこまでは分からないし、それにその区別って意味があるとは思えないんだけど」


 そこまで言うと、再び姉はキッチンに戻る。


 料理に余計な一手間を加えないかと警戒しつつ、薫は今の会話を反芻する。


 姉の意見を全面的に受け入れることは出来ないが、いくつか重要なポイントが有った。

 それらを踏まえて図書館での接触を報告するとなれば、


「何だか加速度的に人が悪くなっている気がする・・・・」


 溜息こそ付かなかったが、いささか疲れた表情で薫は呟いた。





「ふぁあ」


 あくびが出ても誰も文句を言ってこない。今日は日曜で、一人しかいないパートは休みだし、会計と事務を一人でやってる女房が買い物に行ったのはついさっきの事だ。


「客、来ないな・・・」


 最近、といってもここ数年ずっとだが、一ヶ月で客が来る日と来ない日が半々となっている。

 また客といっても精々一組か二組。


「今更、個人の不動産屋なんてやってけねぇのかな・・・」


 親父の代から始めたこの商売も最初は羽振りが良かったし、そのお陰で大した成績を取って無かった自分も大学に行けた。


 ところが上の息子は畑違いの業界に就職したし、大学生だった下の息子も工学部の大学院に進んでしまった。

 一時期の狂乱が過ぎれば地価は下がりっ放し。それを見て来た子供の判断を否定する事もできない。


「やっぱ、俺の代で・・・」


「済みません」


 ガラス戸を叩く音と一緒に若い男性が声を掛けてきた。下のと大して変わらない年齢に見えるから二十歳半ばぐらいか。


「や、いらっしゃい! 新社会人さんかな? 一人暮らし用の部屋なら・・・」


「え、いや、道を尋ねたいのですが・・・」


 先走ったセリフを困った顔で遮る。

 

 けどまあ、不動産屋にきて道を尋ねるだけという事は、多分ないだろう。せ

 っかくの客を逃せる訳もなく、空いている単身者用の部屋を脳裏にピックアップする。


「や、これは済みません。で、何処をお探しで?」


 まずは話を聞いてから。そう自分を落ち着かせながらも、地図とファイルを同時に取りだす。

 と、急に寒気がしてくる。風邪でも貰ったかと疑問に思う間に、寒気はどんどん強くなる。


 それでも久々の客と意気込み、向かいの椅子に座らせて具体的な話を聞こうとするが、


「この近所の・・・」


 近づけて来た顔の瞳が灰色に見えた瞬間、気が遠くなっていた・・・。



「ちょっと」


 声が聞こえる・・・


「社長」


 やけに寒い。布団はどこだ・・・?


「ちょっと、社長!」


「うわっ!」


 耳元で怒鳴られ、思わず目を開くと、そこには馴染んだ顔が。


「母さ、ブワックショ!」


「何すんの!」


 さっきの倍はでかい怒鳴り声が耳元で炸裂した。


「くしゃみする時は、口を押さえろって言ってるでしょ!」


 一緒に飛んだ唾が顔にかかってしまったらしいが、彼にだって今の怒鳴り声で掛かっている。


 お互い様、というのは通じないだろう。


「おい、許してくれよ。起きたばっかりなんだし」


「大体仕事中に寝るってのが信じられないのよ! 偶々何も無かったから良かったんでしょうけど!」


 ぶつぶつと文句を言いながら、二人分の湯呑みを取り出す。


 また甘いものを買ってきたらしい。なんで女というのは太った事に文句を言うそばから太る物を買ってくるのだろうか、と頭を振り振り思ってしまう。


「せっかく、お客さんが来てたってのに!」


「客っでのは、ハグジュ、若い兄ちゃんか?」


「なに、風邪ひいたの? まったく昼間っから居眠りなんかするから! で、そう。お客さんってのは下と同じ位の歳の男の子よ。道を尋ねに来ただけって言ってたけど、もしかしたら部屋を見に来てたかもしれないじゃない。それがあんたが居眠りなんかしてるからもう、わざわざ誰かが帰って来るまで待っててくれたらしいわよ。どこの世界に客が店番する不動産屋があんのよ! 大体いつもいつも・・・」


 ・・・かくして不幸なこの男性はこれからの数日間、妻に叱られ続ける羽目になった。




 おそらくはアパートの外観だけではなく、内装も新しくなっていたのだろう。

 入居者の過失からとはいえ、人死が出た建物だ。人を集めるには特色なり利点なりを打ち出さなければならなかった筈だ。

 

 しかし笠場の目の前では、それらの努力は無に帰していた。


 比喩表現ではなく、もっと直接的な意味合いで。


「気に入りませんねぇ・・・」


 二階部分は焼けおち、一階も半ば以上焼け焦げたアパート。

 

 それを横の駐車場の車の陰から眺めながら、笠場は眠たげな顔で呟いた。


 すでに火の気も熱も消え失せているが、周囲には立ち入りを制限するテープが張り巡らされている。

 現場検証が終わったのか、それともまだなのか、どちらとも知れぬが警官や消防隊員の姿は見えない。


 だからといって人目が無い訳でもなく、ましてや笠場の予想通りならばこの火事は原因不明でもあり、長居をするのなら物陰に身を潜めるのは当然の心掛けだった。


『何がかね?』


 不意にポケットに入れていた御守りから声が掛けられる。

 答えを期待して呟いたのではないが、手持ち無沙汰だったこともあり、笠場は“学業成就”の御守りを取り出した。


「やり口が、です」


『・・・ふむ』


 笠場の短い言葉に何を読み取ったのか、ドクターは相槌だけ打つ。

 その沈黙の持つ意味を正確に理解し、笠場は皮肉気に唇を歪めた。

 ・・・・爺さんが居ないのは幸いだったな。


「あなた方には甘いと言われるかも知れませんが、私は関係者以外に対して無闇に被害を及ばすのは気に入らないんです」


『君の発言は不明瞭だ。より詳細な報告を行いたまえ』


「・・・仰る通りですね。この火事は十中八九、安藤の手によるものでしょう。証拠の隠滅や調査の攪乱としては悪くはない。

 しかしその具体的な手法となると、目標とその周囲に中途半端に火を放つだけ。これでは隠滅にせよ、攪乱にせよ、何の意味も持たない。

 これが半径数十メートルを燃やしたり、目標地点のみを痕跡が残らないほど焼き尽くしていたのなら、私は上機嫌でいられた。それがどれほどの被害をもたらしてとしても、どれほどの人死が出たとしても。

 だが、奴はそうしなかった。ただ無意味に、無価値な苦痛を撒き散らしただけだった。なんと下らぬ、馬鹿馬鹿しい行為か。許し難いのではない。許す余地をそもそも持たぬのだ、あの愚か者は!」


 言葉が激しつつあった笠場が、一旦口を動かすのを止める。

 再び口を開いた時は、いつも通りの平静に戻っていた。


「という訳で、この現状は私の嗜好に合致していません。よって気に入らない、と申し上げたのです」


『ふむ、いささか意外だ。君がそのような正義感の持ち主であるとは』


「正義感とは大袈裟な。単に私の好みの問題ですし、それに以前にも申し上げた筈です。想像と判断は現実に影響しない限り自由に行える、と」


『つまり君がどのような感情を抱こうとも、結末が変化することはない、という事か』


「御明察です。さて、そろそろ調査も終わった頃合いですかね?」


 そう言うと、視線をアパートの一部屋だった空間、今となっては骨組みだけが残っている部分に向ける。

 いや、視線だけではない。右腕の霊体が蔦の様に変化し、その空間へと伸びている。


「居ますか?」


 その蔦の先端には果実、ではなく霧のような霊体が漂っている。

 その霧が笠場の呼びかけに応じて人の形を結ぶ。現れたのは太った女性、つまりはムッターだ。


『居るっちゃ居るねぇ。でも残骸みたいなモンで、もう消えちまうよ?』


「いえ、それだけで充分です。お疲れ様でした」


 ムッターが“家内安全”の御守りに吸い込まれるように消えると、続いて笠場は“交通安全”の御守りを取り出す。すると今度は刃が現した。


『・・・・・・・・・・』


「では、宜しくお願いします」


 出現から一言も発することなく、刃は部屋が在った空間まで移動するとその身を細い糸状に変化させて行く。無愛想ではあるが、笠場は気分を害した様子も無く、その作業を見守っている。


『ところであの男の証言は信用できるのか? 仮に譫妄状態だったならば、その証言の信憑性は著しく低下する』


 またぞろ手持ち無沙汰になったので、ドクターが話し掛けてくる。

 

 普段なら笠場が答えるよりも先にカスターが茶化し、互いに殺気を撒き散らすのだが、今回は“家内安全”の御守りから疑われた本人が声を上げた。


『なんだい、先生? あたしの“眼”が信用できないって言うのかい? それとも信用できないのはあたしかい? どちらにしても失礼な話さね』


 さきほどの事である。

 一人で店番していた不動産屋を見付けた笠場は、ムッターの能力を応用した情報収集を試みた。


 ムッターと呼ばれる霊体の、霊体としての能力は精気の吸収。

 対象に接触し、それが保有する精気、具体的には熱を奪う事が出来る。


 軽度ならば疲労感の増大程度に治まるが、重度ならば免疫能力の低下や意識の混濁、最悪の場合死に至ることもある凶悪な能力である。


 その一方、対象と同調すれば自分の持つ霊力を与える事や、自らの知覚を共有させる事もできる。

 竹中伸治の一件で立科に対し行った憑依は、これを目的としたものであった。


 だが、彼女の持つ能力はそれだけではない。


『いいかい? 奴さんの熱を奪った上で、あたしの“眼”を覗いちまったんだ。嘘を言うだけの知恵が残ってるわけないさ』


『君の能力について疑いはないが、この様な使用は初めてである以上、無条件で結果を受け入れることは出来ない。・・・しかし任意の人間を自在に操作しうる能力か。もっと早くに気付いていれば・・・』


 その滅多に聞けない悔し気なドクターの声に、笠場は得意げな顔をする。


 別に笠場がドクターを嫌っているのではないが、何かと言えば自分を若輩者扱いするドクターを見返す機会を得られたのは、正直に言って嬉しいようだ。

 ましてやドクターにとって未知の分野ではなく、純粋に発想の転換によって得られたという事実は。

 

 ムッターはもう一つ、人間であった頃から能力を持っている。それが“邪眼”。

 瞳を覗いた者の意思を奪う異能である。簡単に言えば目による催眠能力といったところであろう。


 生前から使用できたこの能力は、さほど強いものではなかったらしい。

 精々のところ一時的に注意力や警戒心を散漫にする程度だった。


 だが笠場は体温を奪う能力と組み合わせることで、より凶悪に改良した。


 体温を奪って意識レベルを低下させると同時に、邪眼を使って相手を操る。

 それがあの不動産屋の男性に行ったことの正体だった。


 ・・余談ではあるが、こんな便利な能力を持っているなら笠場と手を組む必要などなさそうに思える。ところが話はそう簡単ではない。


 ムッターにとって精気の吸収は、言うなれば“娯楽”に近い。

 実際はもう少し切迫しているが、少なくとも自身の霊力を得る為に行っている訳ではなく、また実際のところ吸収した精気を全て自身の物に変換する事は、霊力の性質が異なる為、不可能とまではいかないが、かなりの霊力を消費せざるをえない。


 そんな無理をする位ならば、笠場によって供給される霊力を活力源とした余程効率が良い。

 だからこそムッターも笠場や非人衆達と行動を共にしているのだ。


「自白剤と呼ばれる薬品群がありますが・・・・その中には睡眠薬も含まれています。眠らせない事によるストレスによって、自白を促すという代物でしてね。法廷での証言能力は認められませんが、我々には関係ありません。

そうそう、証言能力が認められないのはもう一つ有るのはご存知ですか? 私自身としてはこっちの方が断然好みなんですが、場合によっては活用する機会に恵まれるかも知れませんね」


 そこまで言って見上げると、普通の目では見えない糸が繭でも作るかのように空間を包み込んでいる。


 作業は順調に進んでいるようだ。


「ついでに聞いておきますが、地縛霊をそのまま連れてくるというのはどのような理屈なんですか?」


『地縛霊とは自己認識と霊力の行使できる範囲にずれが生じている霊体だ。霊力そのものは周囲と安定的に癒着しているため長期にわたる存在が可能だが、自己認識が範囲とずれている為、繋がれた犬のようにその範囲内でしか活動できない』


「すると刃はその霊力が及ぶ範囲を丸ごと切除しているという訳ですか」


『その通り。そう時間はかからずに終わる筈だ』


『ところで、坊ちゃん。結局どんな奴がここで死んだんだい? わたしゃ何だかんだで昨日はいなかったし、さっきの男も熱を奪うのに集中していたから良く分からないんだよ』


「それはつまり、しかるべき報酬を引き渡せという要求ですね? ですが、そうですね、貴女にも知る権利がある。ここで死んだのは佐久間満生、死亡当時は二十四歳でした」


 佐久間満生がどうやって生計を立てていたのか知らないと不動産屋は言っていた。

 元々は写真関連の専門学校に通っていたらしいが、いつしか辞めてしまったらしい。それ以来特に働く様子もなかった、とはアパートの大家の談だそうだ。


 ただ、死ぬ半年くらい前から他の入居者から苦情が来るようになっていた。

 曰く深夜に騒がしい、曰く時折異臭がする、曰く明らかに未成年の女の子を連れ込んでいる。


「火災後の実況検分では、台所を暗室に改造していた痕跡が見つかったそうです。焼け残った写真には裸の女性が複数人写っていたことから何らかの違法行為が有ったのではないかと色々と調べたそうですが、例によって火災そのものには不審な点は無く」


『今に至る、ってわけねぇ』


 ムッターの軽い相槌に、軽い調子で頷き返す。


「そうなんですが・・・ねぇ、ドクター。竹中、沢村、今度は佐久間。死んだ人間はそんな簡単に幽霊になるんですかね?」


『一般的に意思が強い者、或いは不本意な死を迎えた者は死後に霊体を構成する場合が多い。例えば殺害された人間などだ』


 そこまで言ってしまうと二人して沈黙してしまう。いや、二人だけでは無い。

 刃が変化した巨大な糸玉が音もなくアスファルトの上に降りてきた。


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