№8
≪ 林田 理沙 ≫ それって…、私の名前……。
いきなり名前を言われた、それもフルネームで……。この人いったい……、誰?
私はただ驚いて彼の顔を見るしかなかった。
≪林田 理沙 ≫ 久しぶりに言われた自分の名前……。
ちょっと感動してしまい目の前の彼が誰なのかと言う事も忘れてしばし呆然としていた。
俺に名前を言われた彼女は驚いたのか突然今迄まともに顔を見ようとはしなかったのに、
今は俺の事を食い入るように見ている。
やっぱ…、そうだな……。俺の面倒の原因が……、彼女って事か……。
俺はほとんど確信めいた考えで目の前の彼女を見ていた。
そして、俺はもう一度彼女に聞いてみた。
淳二 「林田 理沙…? なのか…?」
ジッと俺の顔を見ていた彼女がコクンと大きく頷いた。ビンゴ。
俺の予想に当たったことが嬉しいのか、
それとも相手が彼女だったから嬉しいのかわからないが……、
俺は内心喜ぶ自分が居るのに気づいていた。
理沙 「あの……、あなたは……、誰?」
今度は一変して不安そうに眉を下げて俺を見上げてくる。
その不安そうな彼女の顔に俺は何故だかムッとした。
淳二 「俺か? うーーん…、お前…、何も聞いてないのか? 」
まったく知らないと言うように彼女が首を縦に振る。
そんなのありかよっっ、俺は心の中で母親に何なんだよこれはっっと言っていた。
淳二 「うーん…、俺も詳しくは知らないけど。なんだな、その…、俺の母親に頼まれたんだ。」
理沙 「玲子おばさん? そうなの? 玲子おばさんの……。」
わかりやすい彼女はさっきまでの不安は何処かに吹き飛ばしたのか、もう嬉しそうに眼を細めていた。
淳二 「あぁそうだ。俺はその玲子おばさんの息子ってわけだ。淳二、桐生 淳二。」
感動したのかいきなり、本当にいきなり目の前の彼女が俺に抱きついてきた。
俺は一瞬何がおこったのかがわからなくて、
彼女からする甘い香りとその華奢な細い腕に驚いて動けなかった。
彼女が俺の背中を嬉しそうにバンバンと叩いてくる。
そうか…、こいつは…、こういう挨拶が普通の国で過ごしていたんだな…。
抱きつかれたのがただの挨拶だと背中の感触で俺は理解していく。
それなら…、……、した事はないけど…、一応それで返しておくか…。
俺は軽い気持ちで彼女の背中に腕をまわして同じように背中を叩こうとしたとき、
驚き顔を上げる彼女と視線がぶつかってしまった。
俺はその瞳に吸い込まれそうなのを瞬時でかわし彼女の背中をちょっと軽めに叩いた。
その途端ニッコリと言う音が聞こえてきそうなほど可愛い顔で笑った彼女に、
俺は戸惑う事無く自然に本当に自然に同じように笑い返していた。
それが、俺と理沙の出会いだった。
いや…、多少違うが…、俺の中ではこの笑顔が出会いだと勝手に決めていく俺がいた。