№7
部屋に戻った俺はさっきの女の事が気になっていた。
とにかく綺麗なその顔と身体の線がもろわかる彼女の事が眼に焼きついていた。
久々に女を意識してしまった俺は真達が居るはずの場所へと向かっていた。
真 「おーー、淳二、こっちだ、こっち。」
あいつが嬉しそうに俺に手を振っている。ざっと見たとこ男女二十人くらいの真達は既にかなりハイテンションになっていた。
淳二 「こんなに居たのか……。」
真 「そんな嫌そうな顔すんなよ…。パァーと盛り上がろうぜ。」
俺は来たものの既に後悔していた。いったい何を期待してここに来てしまったのか、そんな自分が俺は可笑しかった。
麻子 「珍しいね、淳二が来るなんて、いったいどうしたのよ。」
真の彼女の麻子が嫌なことを聞いてくる。
淳二 「それよりも、何で麻子がここに居るんだ。そっちが聞きたいな。」
そう言って真を見たら、やめろと言わんばかりの顔で睨まれた。
麻子 「決まってるでしょ、このバカが羽目を外さないように監視しに来たのよ。」
相変わらずストレートな麻子に俺はニヤッと笑うと頷いて真に視線を投げた。
真 「俺はな…、淳二が来ないから仕方なく参加したんだよ…。」
麻子 「ふーーーん…、そうなんだ…。」
俺はこの嫌な雲行きの中に居るのが面倒になり、来たばかりだが帰ることにした。
淳二 「そんじゃー、俺行くわ。またな。」
呆気に取られる二人を無視して俺は踵を返すとそそくさとこの店を後にした。
結局俺は行くあてもなく真っ直ぐマンションへと帰ってきた。
駐車場に車を停めて歩き出そうとしたとき、ビビンとクラクションが鳴った。俺はまさか自分に鳴らされてるとは思いもしなくてまた歩き出した。
ビビンとまたクラクションが鳴る。まるで俺を呼び止めるようなクラクションに振り向くと、昼間の彼女が手を振っていた。
理沙 「こんばんは、昼間はすみませんでした。」
淳二 「え…、あぁ、こんばんは…。」
俺は内心驚いていたが、なるべく平静を装い彼女の前に立った。
理沙 「あの…、ここに行きたいんですが、ナビに…その…、うまく入らなくて…。」
雑誌を片手に彼女が俺に聞いてきた。
淳二 「えっ? ええっ? ここに……。今から……。一人でか…。…………。…………。」
理沙 「はい、一度は行ってみたいと思ってましたので、思い切って行ってみようかと…。」
淳二 「すんげー思い切ったな…。バカかお前…。」
理沙 「え? なっ…、 失礼です。バカって…。むーーーっ」
淳二 「京都だぞ、京都。わかってるか? 京都。いったい何時間かかると思ってんだよ…。」
首を傾げる彼女。不思議そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。
淳二 「女の運転なら…、そうだな…、十時間以上かかるな。いや…、もっとかかるかもな…。」
理沙 「ええーーーっ、そんなに京都って遠かったの? 知らなかった……。」
驚いている彼女を前にもっと驚いている俺。この日本で…、京都がどの辺りか知らない奴がいるなんて…。
淳二 「お前本当にバカだろ…。いったい何を習ったんだ…。この辺の子供でも京都が遠いことくらい知ってるぞ。」
理沙 「だって…、本当に知らなかったんだもん…。」
下を向く彼女を前に俺はもしやと頭の中にある思いが浮かんできていた。
淳二 「もしかして……、 林田 理沙…? 」
下を向いていた彼女が急に顔を上げその大きな瞳をもっと大きくして俺を見ていた。