№3
見上げたそれは、想像以上のものだった。
いったい何考えてんのよ……。学生の一人暮らしにこの贅沢なマンションって…。
まあ…、いっかっ、私が払うわけじゃないし…。
エントランスに入ると私を待ち構えていたように二人の男女が近づいてきた。
どうやら不動産屋みたい。私に色々と説明をして部屋まで案内をして部屋でもまた、色々と説明をして
嵐のように去っていった。
理沙 「はぁぁぁ…、疲れた…、それにしても…、家具…、誰が選んだのよーーっ。」
全てが何故かキュート過ぎる。モデルルーム並みのこ洒落た雰囲気に落ち着かない…。
せめて色でもシックなら良かったのに……。日本初日からどんよりとしていく自分が居た…。
彼女のバックの中の携帯が鳴り響く。慌てて取り出し耳に当てた。
理沙 「もしもし、パパ。うん、ちゃんと着いたよ。心配しないで大丈夫よ。えっ?ええ?キャーーーー、パパありがとうーー。愛してるーーー。」
興奮した私は受話器を片手に言われた場所の引き出しを開けた。
理沙 「あったーー、うん、ちゃんと見つけたよ。嬉しいーーーー。最高ーーーーーーっっ。パパ、本当にありがとう。大事にするね。うんうん、今から見てくる。じゃぁね。」
パパには申し訳なかったけど、さっさと電話を切って引き出しの中のそれを掴むと玄関に向かって走り出していた。目的の場所、目的の物、すぐに見つけた。
理沙 「えっ? 何で…、これ…?むー…。」
私はすぐに父親に電話をしてその疑問を問いかけてみた。すると父親の答えは……。
いやいや、何だな…、見るからに女が乗ってるとは思えないだろ?やっぱ…、一人暮らしが心配なんだよ
それにな、その車は頑丈だぞ。万が一追突されても大丈夫、なっ、パパはお前が大事なんだよ~~。
父親の愛がしみじみとわかるそれ、私がずっと欲しかったそれ……。
念願の愛車が手に入った。見るからに頑丈そうな四駆のいったい何人乗るのかってくらい大きい…。
友達も居ない私には…、大きすぎる代物。渋すぎる位に真っ黒なボディー、中がまったく見えない窓。
確かに…、女が乗ってるとは思えないわね…。でもいいわ。とりあえず乗ってみる。
中も渋い…、革張りのグレードは最高かと思われる内装。
乗り降りが大変だわ…、これって…、凄い作戦ね…。スカートなんかじゃ乗れないし…。
車高が高いそれは一段上がったステップを使ってから運転席に乗り込まないと無理なほどだった。
ほくほく顔の私は嬉しくってたまらない。小一時間ほどまったりと車内で過ごした私は、キーロックして
帰ろうとしたその時、目の前の車に視線が釘付けになった。
理沙 「カッコイイーーー。なんて車? 」
私は窓に張り付いて中を覗いた。よく見えないけど中もなんだか凄い。スモークガラスって不便…。
そんな事を勝手に想いながらしげしげと中を覗いていた。
彼女はふと我に返りまわりを確認して、急いで部屋に帰っていった。
新居だけでなく愛車までもが手に入った彼女は、少しだけこれからに期待していくのであった。