№27
窓辺に佇む二人、理沙と容子。
グッタリ疲れた様子の理沙とすこぶる笑顔の容子、対照的な二人がいた。
淳二と真が打ち合わせから帰ってきた時、縋るような理沙の瞳と満面の笑みの容子に
彼等は何があったと一瞬思ったが、とりあえずは笑顔で中に入ってきた。
笑顔の容子に笑顔の真が寄り添うように立っている。
見つめあい笑いあうそんな二人を横目にすっかり元気がない理沙であった。
真 「容子楽しそうだけど何かあったの?」
容子 「ふふふ、理沙とおしゃべしりしていたの、とっても楽しくて。」
淳二がそんな容子の言葉に驚き一瞬容子を振り返った。
一方理沙は、どことなく疲れている。
淳二 「理沙、具合でも悪いのか?」
理沙 「大丈夫、ぜんぜん平気。」
怪訝な顔の淳二、グッと理沙の顎を持ち上げて顔色を見ている。
淳二 「顔色は悪くないな、腹減ったか?何か食べるか?」
首を横に振る理沙、そっと彼の肩に頭を寄せた。
そんな理沙に軽く笑うと頭を軽くポンと叩いた。
容子 「理沙、楽しかったねーー。」
理沙 「あははは……、楽しかったね…。」
お願い容子…、その話しはやめてよーー。
理沙 「わたし…、喉乾いたから何か買ってくる…。」
淳二 「あっ、俺も行く、」
理沙 「一人で大丈夫。いってきまーす。」
なんとか部屋を脱出した彼女だった。おもいっきり伸びをして軽やかに歩いていく。
容子との会話は楽しいが、今のこの話題はとてもついていけない。
格好なんか付けてないけど、自分だけではなく、彼の事にも及んでしまう。
下手なことは言えない彼女は、簡単な単語だけで会話を乗り切っていた。
淳二 「いったい何を話していたんだ。」
容子 「これこれ、これが原因だったの。」
容子が部屋割りを指差してニヤリと笑った。
真 「かわいいなー、これが原因でそんな事考えていたのか。あははは」
容子 「それで、今夜は甘えてみたらってアドバイスしたら、固まっていたの。おかしい…。」
真 「おおー、淳二楽しみだな。」
淳二 「………。」
真 「お前、何ニヤついてんだよ。わかりやすい奴だな。」
俺は正直言って嬉しくてたまらなかった。
そんな事を理沙が気にして落ち込んでいたと聞き、思わずガッツポーズをしそうになった。
理沙が俺を気にしている。俺の事を思ってくれている。
女に対してこんな気持ち今まで経験してきただろうか……。
好き?って聞かれても、ただ言葉だけで応えていた気がする。
気持ちを伝える事があったのか…。今までの恋愛を振り返り……。
笑っちゃうよな…、誰の顔も浮かんでこない。まったく…酷い男だ。
容子 「桐生先輩、少し身体鍛えたほうがいいですよ。」
淳二 「俺か? お前、俺は脱いだら凄いんだ。見たいか?気絶するぞ。」
容子 「やっぱ…、そうですよね。」
淳二 「何でそんな事言うんだ?」
容子 「あははは…、それは秘密です。すみません。」
淳二 「気になるな…、理沙は俺が軟弱だとでも言ったのか?」
首を思いっきり振る容子だった。
軟弱だと思われてるのか…。まだ見せたことないしな……。
真 「容子、俺はどうだ?」
容子 「えっ?……。まーくんは…、逞しいです。」
真っ赤になる容子に満足そうな真が嬉しそうにしている。
俺はそんな二人を見たとき、既にそんな関係なのかと思い麻子をつい思い出してしまった。
真との気持ちはわからないではない。
好きな女の子なら勿論そんな欲求も沸いてきても仕方がない。
間近で顔なんか見たら、キスしたくなる。
抱きしめたりしたら、その柔らかな感触におぼれていきそうだから…。
変な言い訳かもしれないが、決して欲求不満とかではない。
ただ、理沙に触れたい。それだけだから……。
今の俺がそうだから…。理沙の首に肩に…、胸に…、触れたい。
あいつのすべてを知りたいと思ってしまう。
まだ駄目だと言う事くらいわかっているくせに、今の俺はどうかしている。
容子 「桐生先輩、」
淳二 「ん? なんだ?」
容子 「私が話したって内緒ですよ。」
淳二 「約束はできないな、すぐにでも言いそうだ。」
そんな事を言う俺に驚いた顔をしたが、すぐに笑ってくれた。
やれやれと言う顔を隣で真がしていた。俺も自分でそう思う。
理沙 「ただいまーー。みんなの分も買ってきたよーー。」
淳二 「うわ…、またそんなに買い込んで…。アイスか……。」
理沙 「ニヒヒッ、どれがいい?わたしはこれーー。」
その後俺達は四人でアイスを食べた。
真と容子のいちゃつきぶり、あいつがどれだけ容子を好きなのかを思い知らされた。
そんな二人を横目に理沙が小声で俺に話しかけてくる。
理沙 「なんだか…、ものすごいよね…。二人…。」
淳二 「ん?羨ましいか?」
理沙 「え? 何言ってるのーー。もう…。」
淳二 「なんなら俺達もするか?」
たちまち真っ赤になる理沙がかわいくて俺はちょっといじわるになっていく。
アイスを食べている理沙を邪魔するように抱きしめていく。
戸惑う理沙がおかしくて、驚いて見上げる唇に白いバニラがついていたから…
自然に俺はその唇のバニラを吸い取った。
理沙 「むー…、食べたいの?はい、どうぞ。」
差し出すアイスを一口食べた。理沙の唇と同じ味がした。
淳二 「同じだな…、」
理沙 「………、何て事言うのよ…。聞こえるでしょ…。」
淳二 「んー…、関係ないね。」
もう既に俺の腕から逃げられない理沙が恨めしそうに見上げている。
俺は耳元で囁く。いじわるな俺は楽しくて仕方がない。
淳二 「アイスより、キスがしたい。」
驚く理沙、おもいっきり首を横に振られて俺はますますいじめたくなっていた。
淳二 「今夜は甘えてくれんるんだってな。」
大きな目が見開かれていく。
淳二 「楽しみにしているからな。」
容子を振り返るが、容子はこっちの事などまったく眼中にない。
淳二 「それとも…、俺を追い出すつもりなのか?」
眉を下げていつもの困った顔が目の前にあった。
淳二 「追い出せるのかな? 俺は一緒にいたい。」
もう既に俺の言葉など聞いてないかのようにプイッと横を向く理沙。
でも俺は知っている。ちゃんと聞いている事を…。
淳二 「見せてやってもいいぞ、俺の逞しい身体」
自分で言っていて噴出しそうになった。
ピクッと反応する理沙が面白い。容子を見ているようだが向こうは気にしちゃいない。
淳二 「なー…、俺は結構いい身体してんだけどな…。」
俺の腕を振りほどこうと必死そうだが、逃がす事なんかしてやらない。
淳二 「わかるだろ? 感触で…、なぁ…、理沙…。今もそうだろ?」
真っ赤な顔で振り向き見上げてくる理沙の顔は
困惑と恥じらいと哀しい事にわずかな恐怖も見てとれた。
やりすぎたか…、このお子ちゃまにはまいったな…。
普段なら面倒で避けて通りたい部類だが理沙に関してはそれが嬉しくてたまらない。
後は…、俺次第って事か……。
どこまでもつかな俺…。
あんまり待たせんなよ…。でも怖がらせたりはしないから……。
俺が言えない言葉を理沙に伝えていく。
心の中で理沙に対してなのか、俺自身に対してなのかわからないような言葉を…。
理沙 「ジーン…、いじめっ子…。」
淳二 「ん? なんだ、知らなかったのか?」
理沙 「もう、嫌い。」
淳二 「ダメだ、それは許せないな…。認められない。」
理沙 「ふふふ、知らない。」
淳二 「俺は知ってる。それでも好きなんだろ? 俺がさ」
理沙 「なーんだ…、ばれてたのね…。」
淳二 「一緒だな、俺もそうだからな…。」
理沙 「何が?ふふふ…、わかんない…。」
楽しそうに笑う理沙に軽くキスをしていく。何度していく。
淳二 「好きな相手にするキスだからな…。」
真達が気になったがあいつらはもっと凄い事してそうだから無視した。