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愛しのジーン  作者: PANDA
第二章  恋人達
26/29

№26

爽やかな風が窓から入ってくる。


時折山からの吹き降ろしが突風となり彼女の髪を舞い上がらせていく。


そんな都会の喧騒から離れた山里、その景色に心を奪われていた。


なぜか自分がここにいるのか、なぜ今この窓辺で意識を飛ばしてただ景色に集中しているのか…。


ふいに戻った思考に戸惑いながらも、彼女はこの場所から動くことができずにいた。



ごしんまりとした清潔感溢れる室内。


小さなテレビとソファー、備え付けのクローゼット。


どこにでもある何ら変哲のないこの部屋。


その状況が彼女を混乱させていた。




小一時間ほどまえ、はいっと軽く渡された一枚の紙、部屋割りとタイムスケジュール表。


彼女はそれに拘っていた。


彼は現在、このスケジュール表で言う、打ち合わせの真っ最中。


この部屋には遊びにきている容子と二人。



容子   「何が不満なの? そんなに嫌そうな顔をして。」


そんな容子の言葉にもムッとした顔で振り向いた彼女であった。


理沙   「だって…。」


容子   「いいじゃないの、大好きなジーンと同じ部屋で、お姉様方の羨ましそうな顔見た?」


理沙   「だって…。」


容子   「何よ、どこか不満なの?優しいし、かっこいいし。」


ううんと彼女は首を横に振る。そんな理由ではないと言う様子に容子は不思議に思っていた。




理沙   「部屋割り…、見た?」


容子   「え?部屋割り? これがどうかしたの?」


理沙   「だって…、淳二と彼女、て書いてあるでしょ…。」


容子   「うん、それがどうかしたの?理沙は彼女だからそれで間違ってないでしょ。」


理沙   「むー…。あのね、この書き方…、いつもこうして違う人が一緒に居たのかと思ったら…。」


容子   「やだー、何言ってるの?そんな事気にしていたの?おかしいー」


容子の言葉にムッとした表情で視線を泳がす彼女であった。


理沙   「だって、哀しいもん…。」


だって、だって…、ジーンのキスは優しくて…、……。


きっと…、いっぱいいっぱいした事ある…。


あの腕に…、誰かを抱きしめた事も………。


容子   「私が聞いた話しではね、毎年桐生先輩は男部屋だったそうよ。


      それに今年は初めて彼女連れって聞いたしね、まーくんに聞いてみる?」


理沙   「まーくんって誰よ…。」


容子   「真先輩…。」


理沙   「まーくんね…。ふふふ。仲がいいんだ。」


容子   「今日までね…。明日からは…、違う……。今日だけよ、私のまーくんはね。」


理沙   「容子……。」


容子   「だから、こんなくだらない事で喧嘩なんかしないの、わかった。桐生先輩哀しそうにしていたよ」


思い出してみた、彼が部屋から出て行く時の顔を、それは容子が言う通り哀しい眼をしていた。



容子   「桐生先輩はきっと、同じ部屋なのを理沙が嫌がっているって思ってるわ。」


ハッとした彼女であった。この状況では当たり前の事、そんな事も気づかずに彼を傷つけてしまった。


一気に不安が彼女の胸を襲う。それと同時に浮かんでくる彼の表情。


寂しそうな、哀しそうな、複雑な顔をしていた。



容子   「私は…、堂々と彼女って書かれている理沙が羨ましいのに…。」


真の部屋には部長部屋とだけ書かれていた。容子の名前はどこにもなかった。


名前がないのは自然と女部屋だと解釈されていく。


正直言ってこの部屋割りも結構アバウトで、個室なのに苗字のみだとか、存在しないはずの、


保健係りとか、飼育係り、給食係り、その他いろいろな個室が割り当てられていた。


いったい誰が使うのかと疑問に思えるほどであった。


容子   「まあ、ちょっとこの部屋割り表は意味深な書き方しているけどね。」


そう言ってはさっきの自分の言葉を消してしまう容子であった。



理沙   「容子…、ごめんね…。」


容子   「何謝ってんの、それこそ私が可哀相でしょ。いいの私はそれでも嬉しいから…。」


理沙   「なんで…、そんなに強いの?」


容子   「……、強くなんかないよ…、本当は嫉妬でおかしくなりそう…。でも好きなんだもん仕方ないよ」


理沙   「うん……。」


それ以上の言葉がでてこない彼女であった。彼女が居る真とその彼女から真を奪うかたちの容子。


忘れてしまいそうな現実にまだ見ぬ真の彼女を思うと複雑だった。


容子   「理沙、桐生先輩と仲良くしなさいよ。あの様子だと先輩今夜はこの部屋使わないかもね…。」


えっと驚いたような理沙に容子が呆れたような視線を送っていた。


容子   「理沙のそんな顔を見たら、一緒にいられないよ。」


そんなに酷い顔をしていたのかと反省しきりの彼女だが、既に彼にはその顔を見られている。


戸惑う彼女を面白そうなものでも見るような容子が声をかける。



容子   「今夜はおもいっきり甘えてみたら、いつもそうかもしれないけどね。」



………、甘えるって……、何を……、どうするの……。



容子   「勝負パンツとか持ってきた?」



何よそれ……、何を勝負するのよ…。意味わかんないし……。パンツ……。



容子   「色々と考えるよね…。大好きだから余計に…。ねっ」



真っ赤になる容子に戸惑う理沙。何で赤くなっているのかわかってない。



容子   「昨日の夜…、星空が素敵で…、それだけでも幸せだったのに…。ふふふ…。」



ふふふって……、何よ…。その満面の笑みは何なのよ…。あっキスか…。見たんだ私…。



理沙   「すっごいキスでもしたの~~?」


容子   「ふふふ、そんなの当たり前でしょ、違うもーーん。ふふふふふふふふふ」



ものすごく真っ赤だけど笑みを我慢している様子がわかってしまう目の前の容子だった。



理沙   「え?キス以外何するの?」


容子   「キャーー、理沙わざとでしょーー。そんなの言えないしーーー。」


ええーー?あんな濃厚なキスだったのに…。あれが…、当たり前だなんて……。


人に言えないような事……。人に……、言えない……。いったい…、何……。



嬉しそうな容子が言えないと言いながらも聞けと言わんばかりの瞳で理沙を見つめてくる。


そんな容子に流石の理沙もそれには気づく。



理沙   「聞きたいかも……。」


とりあえず言ってみた理沙であった。



理沙の耳元に寄ってきて小声で話す容子。



///////////// !!!


///////////// にへらと笑う容子、幸せだと顔に書いてある。



衝撃が彼女を襲う。


あの後、そんな事があったとは……。


思考が停止しそうな彼女、それでもなんとか平静を装っていた。



容子   「ね…、理沙はどうだったの?昨日の夜…。」


興味津々の眼差しを向けられた理沙。



うっ…、何を言えばいいのか……。恋人同士のキスはしたけど……。



理沙   「あはは……、普通よ…。普通…。あははは……。」


容子   「キャーー、理沙達はそれが普通なんだーーー。すごーーい。」



えっ? ええっ? 何がすごいのよ……。何も言ってないのに……。



容子   「私は経験あんまりないから…、もう…緊張したし、でも嬉しくって泣きそうだったの…」


理沙   「……………。」



なんか…、すっごい勘違いされてるし……。どうしよう……。


容子…、あんまりって事は…、少しはあったんだ……。経験……。そっちが凄いよ…。



容子   「まーくん……。ふふふふ…。以外と逞しいんだ…。」



ふふふって……、逞しいって……。そうなんだ……。逞しいんだ…。



容子   「そうだ、桐生先輩? どうなの?ねー、どうなのよー。」



えっ? どうって……、知らないし……。まったく知らないし……。


見た事ないよ…。胸なんて…。意識した事もないよ…。


理沙   「知らない…、たぶん普通だと思う……。けど…。」



容子   「ええーー、ガッチリ逞しいって思ったけど…、普通なんだ…。………。」



なんで驚くのよーー…、普通のどこがおかしいのよーー。わかんないし…。


私のことはいいから…、自分のことを話してよーーー…。




ジーン早く帰ってきてーー。




その後理沙と容子のちょっとズレたラブラブな会話は続いていくのであった。




















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