№23
既に後片付けをしていた皆と一緒に理沙がケラケラ笑っていた。
そんな理沙になぜか俺は安心していく。
笑っている理沙、俺は告白をして良かったと心底思っていた。
もし…、あのまま…、偽りの恋人同士でいたなら……。
理沙のあの笑顔はなかったのかもしれない。
俺も…、同じだったろうな……。
真が容子の隣で後片付けをしていた。
言葉はあまり交わさないが、お互いが嬉しそうなのが見てわかるほどだった。
そんな二人を見ても何も言わない仲間達。
暗黙の了解と言うものなのか、ひとときの幸せを大事にしてほしいのか…。
俺もだが、皆も同じ気持ちなのだろう。
俺は、好きな女ができたからなのか、妙にその変に敏感になっていた。
幸せそうな顔しやがった真と容子。邪魔なんかできないな…。
幸せな俺が言うのもなんだが、俺と理沙もきっとこんな感じなんだと思った。
ボスッと背中に衝撃が走る。
この感触は理沙だ。俺の口元が上がっていくのがわかる。
理沙 「ジーン見っけ。」
俺の腰に前にまわった腕を上から見下ろし幸せを噛み締めていく。
淳二 「こら、いきなりびっくりするだろ。」
心にもない事を言う俺に理沙がニタっと笑っている。
理沙 「ジーン、容子幸せそうだね。良かった。」
淳二 「あぁ、そうだな。言っちゃなんだけど、俺も幸せなんだけどな。」
俺の脇から顔をのぞかせている理沙が俺を見上げて頬を染めた。
淳二 「キス、したいな。」
理沙 「やだ、こんなに人がいるのに。」
淳二 「挨拶のキスは?」
理沙 「ダメ、ここは日本だよ。」
淳二 「厳しいな…。」
理沙 「恥ずかしいもん…。やだ…。」
淳二 「好きなのに…。」
理沙 「もう…、やめてよーー。」
俺は目の前の理沙の顔を熱く見つめていた。
鼻と鼻が触れるほど近づいた俺に理沙が困ったように眉を下げていく。
俺の背中に突如衝撃が走る。一瞬その勢いで理沙に本当にキスしそうになった。
淳二 「なーにやってんだよ。お前らあっちに行け。」
酔っ払った仲間が俺の背中を叩いてはからかうように騒いでいる。
サークルの仲間達の中には恋人同士の奴らも多い。
こんなお祭り感覚の中でひっつく珍しい者達もいるようだった。
「淳二ーー、俺らちょっと星でも見てくる。」
そんな声が聞こえてくる。あぁ、もうそんな時間か……。
男女混合で移動するものもいれば、仲良く二人で肩を寄せていくものもいる。
これはいつもの光景だった。
今までの俺なら、テントで朝まで麻雀か、焚き火の前でちびちびと酒を飲み
くだらない話しを朝までしているかのどっちだった。
でも、今日は理沙がいる。
俺もやっぱ星を見る事にした。満天の星空、濃紺の闇に浮かぶ淡い光が無数。
綺麗なんて言葉では表現できないほどだ。
淳二 「星を見にいくか?」
理沙 「うん。」
ゆっくりと歩く俺達。寄り添う身体の熱がリアルすぎる。
触れ合う指が頬が、切なさを増していく。
どれくらい歩いたのか、先客がいるのか人影が見えた。
つい見入ってしまったその光景。
俺は我にかえりクルッと向きを変え、今来た道を戻りだしていた。
理沙 「恋人同士の……、キスだったね…。」
淳二 「あぁ、そうだな…。」
理沙 「好きなんだってのが…、伝わってきたね……。」
淳二 「あぁ…、そのとおりだな…。」
理沙 「本当に好きなんだ…。良かった…。」
淳二 「俺が言っただろ、あいつを見てたらわかるって。」
理沙 「うん、見て…、わかった…。」
淳二 「安心したか?」
理沙 「うん。」
淳二 「良かったな。」
普通ならげんなりきそうなあんな濃厚な他人の行為を眼にした後だか、
安心感と重い何かが心に引っかかっていた。
理沙には、恋人同士に見えた真と容子だった。
俺には……、すべてを受け入れるだけの器量がないようだ。
麻子の顔がチラついていた。
俺に羨ましいとさえ思わせた二人だったから……。
理想って言うのは悔しいけど本当にお互いを認め尊重し合う二人だった…。
隣の理沙を見て俺は誓う。
だから…、理沙……、俺だけを見ていてほしい。
俺はお前しか見えないから……。