№19
ご機嫌な理沙が俺と繋いだ手を楽しそうに振りながら歩いていく。
淳二 「なーぁ、さっきの奴は親しいのか?」
理沙 「嵯峨野君のこと?」
淳二 「あーぁ、そいつだ。」
理沙 「普通、夏樹の友達だよ。夏樹がいるとやって来るわね。」
淳二 「ふーーん…。そっかーーーー…。」
理沙 「夏樹が言うには、エセ皇子様だって。エセって何?」
淳二 「あははははは、そっかー、あいつはエセ皇子様なのかーー。」
理沙 「むーー、教えてよーーー。」
淳二 「イヤ…、聞かないほうがいいぞ、それにしても夏樹面白い奴だな。」
理沙 「ずるーーい、ジーンと夏樹だけ仲良しみたい。」
淳二 「あははは、あのな、エセ皇子ってのは、偽者皇子って事だ。」
理沙 「へ? 偽者? 嵯峨野君…?」
淳二 「なんでなのかは、夏樹に聞け。俺にはわからん。」
理沙 「なんでかな? 優しいのに…。良い人なのに……。」
嵯峨野か…、要注意人物だな…。
理沙にだけ…、優しいのか…。
見る眼があるのは認めるが…、それ以上は無理だ。
淳二 「理沙、俺のサークル仲間楽しい奴らばかりだから、安心していいからな」
理沙 「うん、ジーンの友達ならきっと大丈夫。良い人ばかりでしょ。」
淳二 「あっはっは、俺も随分信用されたもんだな。」
理沙 「えー、何でー? そうでしょ?」
淳二 「理沙ーー、俺達さー、恋人同士だからな。それ忘れんなよ。」
理沙 「んーーー、わかったーー。」
本当にわかってんのかよ…。これから、大変だからな…。
俺の彼女ってだけで…、変に注目されるし…。
淳二 「スキンシップ、ガンガンするからな。その度に悲鳴あげたり、嫌がったりするなよ。」
いきなり立ち止まった理沙。大きな眼をもっと大きくして俺を見ている。
そんな理沙の態度に俺は言いようのない不安と焦りが押し寄せてきた。
このままでは駄目だ、これでは駄目なんだ。
俺は自分の気持ちに押されていく。
俺はゆっくりと理沙の目の前に立ち、理沙の両頬に両手をあてていく。
淳二 「俺は、理沙の本当の彼氏になりたい…、なってもいいか?」
理沙の大きな瞳が潤んでいくのがわかった。
俺は泣くほど嫌なのかと思い、頬に添えた両手が力なく落ちて行きそうになっていく。
理沙 「うん、ジーン…、大好き。」
淳二 「そっか……、俺もだ。」
背伸びをした理沙の細い腕が俺の首に巻きついてくる。
それと同時に俺の腕も理沙の背中にまわった。
柔らかな感触にボーッとなりそうだ。
ずっとこうしたかった。理沙を抱きしめたかった。
正直言って、このままサークルの仲間なんか無視して二人だけで出かけたい。
そんな事をつい考えていく。
理沙 「ジーン…、くっ…くるっ、苦しい…。」
俺は慌てて腕をほどき、理沙の顔を覗き込んだ。
淳二 「大丈夫か? ごめんな…。 」
理沙 「うん…、大丈夫。」
じはらく見詰め合っていた俺達はどちらともなく笑い出していた。
淳二 「行くか?」
うん、と短く返事をした理沙が俺に寄り添ってくる。
それだけで俺はどうにかなりそうだった。
冷静さを失くした俺は、まだ言うつもりなかった告白をしてしまっていた。
告白…、それもあんな弱気な告白を……。
スキンシップがしたかったからではない。
仲間とこれからのことを考えていたら…、
気がついたら言っていた。
嫌違う…、理沙が俺を動かした。
俺としたことが…、もっと違う形を考えていたのに……。
色んな計画を考えて過ごしていた俺の日々はどうなる。
うまい飯食って、デートして…、柄にもなく計画なんか立ててたのに……。
やっぱ、俺はこんな奴だ。好きな女に夢も与えてやれない。
まっいいか、その計画はこれからすればいいことだしな…。
意味もなく理沙の肩にまわした腕に力が入る。
理沙を彼女として、仲間に紹介したかった。本当の彼女として……。
俺のだって、自慢したい。
今までそんな相手いなかった。俺は情けないほど夢中なのかもしれない。
認めた途端…、弱気な自分が見え隠れする。
こんな俺ではなかったはずなのに……。こんな……。
気持ちが通じたからか、今までよりもっと理沙に対して独占欲が強くなっていくようだ。
もう、俺のだ。それがこんなに嬉しいとは……。
こんな俺の気持ち理沙は知らないんだろうな…。
隣の理沙の頭を撫でながら自分の肩にその頭を持たれかけるように引き寄せていく。
理沙 「ジーン……、」
淳二 「ん?」
理沙 「あそこに居る人達……。」
俺は視線を上げた、うわっ……………。
サークルの仲間達が一斉にこっちを見ていた。
淳二 「あぁ、あれが俺のサークルの仲間達だ。」
理沙 「物凄く…、こっちを見てるよ……。」
私は、ジーンの恋人になれたと言う余韻に浸ってふわふわと浮いたような感覚でいた。
隣の逞しい腕と肩、私を気遣う優しい手。
すべてが嬉しくてたまらない。
ジーンが好き、大好き。
いつからか、芽生えたその気持ちに、これ以上迷惑はかけられないと
心の奥にしまいこもうと必死だった日々……。
逢いたくて、逢いたくて、顔を見たくて。
だた、その声が聞きたくて、
それでも、偽者の彼女だからと、自分に言い聞かせていた。
日本に来て良かった。ジーンに出逢えて良かった。
心がジーンで溢れていく。好きがこぼれていく。
幸せに酔いしれていた時、ふと目に入った大勢の視線だった。
淳二 「怖がらなくてもいいからな。大丈夫だ。俺がいるから。」
言葉が出ない私は、返事の変わりにギュッと手を握り返していた。






