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愛しのジーン  作者: PANDA
第一章  出逢い
17/29

№17

彼は、昼間から学食の窓際の椅子を一人でいくつも占領しては大きな身体を投げ出し


暖かな日差しの中、まどろんでいた。


顔に乗せた日よけのための雑誌が穏やかな眠気を誘うのか、


そのままうとうとと眠りに落ちはじめていた。





     「林田さん、可愛いよね。」


     「うん、可愛いって言うよりは綺麗かな…。」


     「彼氏…、いるのかな…。」


     「いないんじゃないか?だってさ一度も一緒のとこ見たこともないしな。」


     「河野さんも可愛いよね。小さくて柔らかそうだしな…。」



〝  林田さん  〟  



俺はその名前に眠気から引き戻されたように雑誌の中で眼を開けてしまった。


理沙か? 


勝手に理沙だと決め付けていく。


その後も俺はムカつくようなそいつらの会話を聞いていた。


馴れ馴れしく理沙だと思う名前を口にするそいつらに俺はイライラとしていく。





夏樹   「あっ、先輩、ここで食事ですか?」



女の声が加わってくる。理沙じゃないのにホッとしていく俺。


   

      「河野さん達もお昼? よかったら一緒にどう?」




達……、って事は…、他にも誰か居るんだよな…。


俺は半ば嫌な予感がしていた。



理沙   「あっ、それ何ですか? 美味しそうですね。」


      「えっ? これ? 食べる? 」


理沙   「いいんですか? それじゃーちょっとだけ味見させてください。」




その声に反応したように俺はガバッと椅子から起き上がっていた。




淳二   「理沙、食い意地はってんな…。」



その場に居たもの達が俺の存在にびくつくのがわかる。


いきなり会話にはいった俺は一斉にそこにいた皆の視線を浴びていた。


俺はゆっくりと立ち上がると理沙の目の前に立つ。


驚き声も出ない理沙が、ただ俺を見上げている。



淳二   「よう、俺の顔を忘れたのか?つれないな、昨日も会ったはずなんだがな。」



俺は聞こえるように理沙との関係をほのめかしていく。


そして理沙の頭にいつものようにもっていった。


俺が唯一できるスキンシップ、理沙の頭を優しく撫でていく。



俺の行動と理沙の様子を伺うようなまわりの視線、


それでも俺はお構いなしに理沙の顔へと高かった視線を低くしていく。



理沙   「ジーン……。」



ただ俺のことをつぶやくように呼ぶ。


まだ理沙は覚醒できずにいるようだ。



ニヤッと笑う俺、その俺の顔を見て、途端に真っ赤になっていく。



淳二    「待ち合わせの時間まで暇だったから、ここで昼寝していたんだ。」


理沙   「なんだ、そうなんだ、連絡くれたら良かったのに…。」


淳二   「そんじゃー、行くか?」


理沙   「ダメ、まだあと講義残ってるもん。」



ちょっと考えるような彼がまた、ニヤッと笑う。



淳二   「よし、俺も一緒に受ける。」


理沙   「ええー? ダメよ、怒られちゃう。ジーン大きいから目立つし…。」


淳二   「問題ないね。あっ、飯まだなんだろ? 俺、カツ丼とラーメン、理沙は?」


理沙   「ねぇ、あれ、何?」


淳二   「ん? あぁ、お好み焼き、でもあれ、歯に青海苔つくぞ、旨いけどな。」


理沙   「OH、たこ焼きの仲間ね。」


淳二   「まあ…、そんなとこだな…。」


理沙   「ねぇ、夕飯はあれね。いい?お昼はわたしランチにする。だからジーン」


小声で俺の耳元まできてささやくようにその次の言葉をつげる。


理沙   「サンドイッチを頼んでちょうだい。」


俺はそのあまりにも可愛らしい発言に思わず噴出しそうになった。



真剣な顔の彼女、よく食べる彼女の切実な願いであった。




昼食を食べている時俺は、理沙の友達の夏樹を紹介された。


失礼な夏樹と言う女は俺の顔をまじまじと見た後、ふざけた事をほざいた。



夏樹   「本当に理沙の彼なんですか?」



それも、厳しく目を細めて疑うような視線だった。



淳二   「ああ、そうだけど。それが何か?」



怪訝な顔で俺は言い放った。



夏樹   「そう…、ふーーーん。」





理沙   「夏樹、どうしたの?ジーンよ。」


夏樹   「まさか、桐生淳二がジーンだったとはね。」


腕組みをした夏樹が思いっきりイヤそうに言う。


理沙   「あれ? 夏樹、ジーンを知っているの?」


夏樹   「あのねー、知らない人なんかいないと思うけど。この大学の有名人よ。」


理沙   「そうなの? あっ、大きいから目立つもんね。」


夏樹   「学生の身分で既に自分のブランド持ってるデザイナー。それにこの見た目。」


理沙   「見た目?何?」


俺はあわてて二人の会話に割ってはいる。


淳二   「もういいだろ…。そのくらいで…。理沙はその変にはうといんだ。」


ニヤリと笑うその小さな女は俺を見上げてますます口角をあげていく。


夏樹   「へー驚いた、流石の桐生淳二も理沙には違うんだ。


       血が通ってないって噂なのにね。」


俺は眉間に思いっきり皺を寄せた顔でその女をにらんでいた。


夏樹   「うわー、怖っ。」


そう言って、ますます笑うその女。


俺は自分の変化をこの女に見透かされたようで居心地が悪かった。




理沙は両親の親友の娘で、俺は理沙にとったら虫除け程度の男なのに…。






昼ごはんを食べた後、ジーンが私の講義に一緒に来ていた。


教室中の視線がこっちを見ているようでちょっと困ってしまった。


当たり前のように椅子に座り、前を向いている彼。


そんな彼の横顔を見ていたら、


急にジーンがこっちを見たので私は驚き下を向いてしまっていた。




淳二   「ん? なに?」


理沙   「別に…。」




彼の意外と長い睫毛に気がついた。


スッと高い鼻も薄い唇も知っていたのに、でも……。


今はそれが違う人のように思えていく。




教授   「おー、何だー、珍しいのが一人混ざっている。桐生勉強熱心だな。」



一斉に向けられる視線。



淳二   「チッ…、」


教授   「感心だが、それより、もっと真面目に出てこい。」


淳二   「はい、わかりました。」



あぁ…、面倒くさい、俺をほっといてくれよ。



理沙   「ほら、怒られた。」


淳二   「ん? かまうもんか。」



クスクス笑う理沙。それだけで俺はここに来て良かったと思ってしまう。





それにしても、ちょっと気合いれるか。


こいつを野放しにし過ぎたようだしな……。


まったく、そんな目で理沙を見るなよ……。


理沙が汚れるだろ…。まったく…。




思った以上に理沙への視線のグロさに俺は急に心配になってきた。


同じ男として、気持ちはわかるが、


それでも許せない。


こいつら理沙を脳内で犯してやがる。


こんな危ないところに理沙を一人になんかできるか。


今まで一人にしていた事を棚に上げて俺は勝手だった。


もっと勝手なのはそれが原因で理沙との距離をとっていた自分に対してだが…。






俺は、これぞと言うほど柔らかな表情を貼り付けていく。


誰にも負けない母親直伝の営業スマイル。


周りの奴らが近づけない程に、


俺という奴を越えて行けないようにだ。


まさか…、この顔をここで使うとは思ってもいなかったけどな……。


まっ、いいか、理沙の為だしな。


虫除け作戦、俺は本気で取り組む事にした。









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