№16
あれから、何故か理沙に逢いたいと思いながらも、理沙に逢えない自分がいた。
相変わらずメールが届いてくる。
なぜメールかと言えば、馬鹿な俺が理沙の電話を無視しているからだった。
彼女に無視をしていると思わせないように、バイトが忙しいとだけ返信していく。
真 「今度の週末空けとけよな、定例の新入生歓迎のキャンプがある、欠席は認めないぞ。」
淳二 「あぁ…、わかったよ…。面倒だな…。」
真 「何がだっっ、まったく顔を出さないでおいて、よくそんな事が言えるなっ。」
淳二 「わかったよ…。そう言うなよ…、悪かったな。」
真 「クールビューティーも来るぞっ。お前…、驚くなよっっ。」
嬉しそうな真の顔。麻子が聞いたら何て言うのかと俺はちょっとだけ心配になってきた。
真 「麻子は、テニスの試合なんだ。お前…、余計な事は言うなよ。」
頷く俺に安心したような真の顔。
真 「女性陣がお前が来るかしつこく聞いてきているけど…、参加って言っていいか?」
淳二 「あぁ、俺か? かまわない、 二人参加にしといてくれ。」
驚く真の顔、初めての連れをともなっての参加に目を丸くしているのが俺は可笑しくてたまらない。
真 「二人って……誰だよ…。お前……。連れって…。」
淳二 「ん? 俺の彼女。」
またまた驚く真を置いて俺は待ち合わせの駐車場へと向かっていた。
先に着いた俺は理沙を待ちながらタバコに火をつけた。
ゆらめく煙を見ながら、週末を理沙と過ごすのを想像して口元が引きあがっていく。
理沙 「ジーン、」
久し振りに聞く生の理沙の声。理沙が走って来る。
ジーン、と言う言葉とともに、俺に抱きつく理沙。
それが友人へのハグだと俺は知っている。
そんな理沙をベリッと身体から剥ぐと顔を理沙の高さまでもっていき彼女の顔をまじまじと見た。
淳二 「ハグより、キスがいいな。」
真っ赤になる理沙、あれ? と俺は理沙の反応に戸惑っていく。
理沙にとってキスなんて挨拶なんだろうと思っていた俺は自分の言葉にあわてた。
ふいに頬へと触れた理沙の唇。照れた理沙がクルッと向きを変えて車のドアを開けている。
俺はその柔らかな感触に呆然としながらも、理沙に続いて運転席のドアを開けた。
戸惑ってる姿は既になく、いつもの理沙が隣にいる。
そんな彼女に腹が立つのに、安心していく自分がいる。
淳二 「そうだ、週末出かけるからな、予定は入れるなよ。」
理沙 「えっ? ジーン…、バイトは?いいの?」
淳二 「俺のサークル、新入生歓迎のキャンプがあるんだ。理沙を連れて行きたい。嫌か?」
理沙 「行く、行きたい。」
即答の理沙に俺は満足していく。隣の理沙の頭を軽く撫でた。
俺ができる最大限のスキンシップ…。
久し振りの理沙の髪、甘い香りがしてきた、でもそれが妙に嬉しい。
理沙 「ジーン…、友達いたんだね…。良かった…。」
変な言葉を言う理沙だった。
俺はいったいどういう風に彼女には映っているのか多少不安になっていく。
リアシートから取り出した袋を理沙に手渡す。
照れくさい俺は、素っ気無く手渡してしまった。
理沙の為に俺が頑張って作った理沙の為のそれを…。
淳二 「ほら、」
ポンと理沙の膝にそれを乗せた。えっと言う顔が俺と袋を交互に見ている。
理沙 「なに…、ジーン?」
淳二 「遅くなったけど…、入学祝い。」
驚いた顔が瞬時に笑顔へと変わっていく。そんな理沙に俺の顔も緩む。
理沙 「ありがとう。開けていい?」
淳二 「あぁ、いいよ。」
袋を開けて中から俺がつくった服を取り出す。
理沙 「可愛い。ありがとう。私とっても嬉しい。」
淳二 「それ…、俺がつくったんだ…。世界に一つしかない…。理沙だけのだから…。」
パッと俺に視線をやり、不思議そうに首を傾げる。
淳二 「バイトって言っていたけど…、俺、母親の仕事を手伝っているんだ。
今ではこれでも俺のブランドなんてもんができてな…。
一応名前だけはデザイナーって奴かな…。だから忙しいんだ…。
理沙…、今まで黙っていてごめんな…。服なんか作っているってのがさ…、
女みたいで…、言えなかったんだ…。」
理沙の手が俺の手に重なる。持ち上げられた俺の手が理沙の手に包まれていく。
理沙 「凄いね、ジーンのこの大きな手が、こんな素敵な物を作るのね。」
俺にとっては殺し文句的な言葉な訳で、理沙を抱きしめなかった自分を褒めてやりたい。
理沙 「大事にするね。ジーンの心だもんね。」
その手を強く握り返していた。ただ理沙を感じたくて俺は強く握り返していた。
今日は朝からテンションが高い私。
それは、昨日ジーンから届いたメールに明日は一緒に帰ろうと大学の駐車場で待ち合わせをしたから…。
時計ばかりを気にする私に怪訝な顔の二人が問う。
夏樹 「何?朝から、時計と携帯ばかり気にしてるけど。」
容子 「うん、気になる~~~。とうとう理沙にも男の影か…。」
理沙 「何よーー…、もう…。ほっといてよね…。」
夏樹 「そんな事できるわけないでしょ、 いったいその理由は何よ?」
理沙 「うん、今日ね一緒に帰るからね…。」
「誰と?」二人同時の声に私は戸惑ってしまう。
理沙 「ジーンよ。」
夏樹 「うわーー…。理沙の妄想が作り出した彼氏だと思っていたわ…。本当にいたんだ…。ジーン…。」
容子 「うんうん、私もそう思っていた…。今まで一度も会った事ないし…。同じ大学でも…。」
理沙 「忙しいからね、やっと逢えるの。」
夏樹 「その男大丈夫? まじで彼なんだよね?よく理沙を放っておけるよね…。それが不思議だよ…。」
容子 「確かに…、私達がどんだけガードしていると思うのか…、その男に言ってあげたいわ。」
理沙 「ガード? してるの? もしかして…。」
呆れた顔の二人が同時に理沙を見た。
夏樹 「してます。してますとも、必死でしているわよ…。」
容子 「呆れた…、気づいてないなんて…。やっぱお国が違うとその変の感覚も違うのかな…。」
夏樹と容子が二人でぶつぶつと言っている。それでもまったくそんな感じが今までしたことがない私は
なんだか他人事のような気持ちで二人の会話を聞いていた。
約束の時間、急いで向かう私の視線にいつもの気だるい感じで立っているジーンが入ってきた。
その途端走り出す私、気づいた時には彼に抱きつきやっと逢えた嬉しさをぶつけていた。
≪ ハグよりキスがいいな ≫
彼の言葉にトクンと胸が鳴った。
生まれてからそれが当たり前だった挨拶のように交わしていたキス…。
でも今は…、とても特別な感じがしてきた。
戸惑ってしまったけど……、してもいいのかな?
とか…、思ったけど…。
目の前のジーンの瞳が私を映していたから……。
いつも触れたかった頬は冷んやりとしていた、でもとても柔らかかった。
私は恥ずかしいのと照れが入り乱れてすぐに背中をむけていたの…。
本当は…、もっとジーンの顔を見ていたかったけど……。
それも…、できそうになくて…。
こんな事ジーンが知ったら迷惑……。ズキンと胸が痛かった。
それと、思いもしなかったジーンからのプレゼント。
彼の手作りの服。デザイナーだったジーン。
とても可愛いジーンが作った私だけの服。
それだけで幸せになっていく…。
いつも何処にいるのかが気になっていた私は、その告白にホッとしていた。
ジーンの事、もっと知りたい。
もっと一緒にいたい。
欲張りな私になっていく。