№15
彼がいない隙に彼女に近づく一人の男。
彼女に興味をもち、彼女の事をもっと知りたいと思っている。
嵯峨野 「蓮…、俺さ、頑張ってみようかな…。」
その言葉に驚いたように顔を凝視していく。
不思議なものでも見るかのような蓮に嵯峨野は苦笑いしかできないでいた。
蓮 「うわっ、まじ? 正気?」
嵯峨野 「ああ、正気なんだけど。」
蓮 「気色悪、本気で言ってんのか?」
嵯峨野 「いたって真面目に言ってるんだけど、なんで?」
蓮は考えていた。昔から知ってる嵯峨野は女性にはモテるが、それこそ近寄る者は拒まず
でも、自分からは動かない、そんな男だったからだ。
蓮 「その真意は?なに?」
嵯峨野 「あはっ、決まってるよ、好きだからさ。」
蓮 「ゲーーー、何言ってんだよ、いつもの嵯峨野はどこにいったんだよーー。」
嵯峨野 「ちゃんとここにいるよ、でも、このままじゃ、林田さん、手に入らないもんね。」
蓮 「ウゲッ、何それ? 」
嵯峨野 「だから、蓮、協力してよね。お願いだよ。」
蓮 「ヤダッ、断る。」
嵯峨野 「何で、どうしてだよ。親友でしょ、俺達。」
蓮 「ダメ、無理無理、理沙ちゃん、彼氏いるし…。それに夏樹が…、怖い…。」
嵯峨野 「彼氏?いないさ、だって一度も見たことないよ、普通は心配でずっとそばにいるよ。」
蓮 「嵯峨野…、理沙ちゃんはダメだ、彼氏もちだぜ、」
嵯峨野 「俺は知らないって事にしてよ、現に信じてないしね。」
蓮 「俺は関係ないからな、協力なんかできないし…、」
嵯峨野 「残念だな…、まっいいか、一人でなんとかするよ。」
彼女の知らない所で彼女の事が話題にのぼっていく。
彼は彼女のこんな状況も知るよしもない。
勿論、本人の彼女もである。
純粋と言えば聞こえはいいが、鈍感、天然、そんな表現さえも当てはまりそう。
幼き頃より他人の視線を必要以上に浴び過ぎていた、それが普通となってしまった今、
他人の熱い視線に気づくはずもなく、日々たんたんと過ごしていく。
それが彼女の良いところでもあるが、恋愛対象だと、片思いの相手には辛いことこのうえないのである。
特に嵯峨野のように今までは自分が主役のような人生を送ってきた者にとっては
態度は無視されないが、気持ちを無視されると言うことは屈辱的以上の何ものでもなかった。
誰にでも変わらない笑顔、誰にでも変わらない態度、頬ひとつ染めない。
そんな異性今まで、まわりには居た事すらないからである。
嵯峨野がちょっと微笑むだけで俯いたり、真っ赤になるのが女の子と言う物。
それが普通だった嵯峨野にとって、彼女は不思議な存在。
不思議だけで終わらせていればいいのだが、自分の方を向かせたい
いまは、そんな感情のほうがだんだんと強くなっていくのであった。
嵯峨野 「夏樹、ちょっといい?」
夏樹 「なに?」
嵯峨野 「俺さ、林田さん、好きなんだ。」
夏樹 「へ~~~、それがどうかしたの?」
嵯峨野 「いや、ただね夏樹には伝えておきたくてね。」
夏樹 「ふ~~~ん、わかった、私も聞いたって事にしておくわ。」
嵯峨野 「うん、いいよ。知っててくれたらそれでいいからさ。」
夏樹 「あっ、言っておくけど、応援なんかしないからね。そこんとこよろしく。」
嵯峨野 「はは…、蓮も夏樹も冷たいな…。友達なのにさ。」
夏樹 「ん? だってさ、理沙は嵯峨野の方を向いてないし。それ、わかってんでしょ?」
嵯峨野 「うわっ、傷つくな…、夏樹ちょっとは手加減してよ。俺、折れちゃうよ。」
夏樹 「折れるたまじゃないっしょ。私には自信満々にしか見えないけど?違う?」
嵯峨野 「そんな事はない、これでも結構辛いんだよ。」
夏樹 「あははは、いい気味、嵯峨野の片思いか、それともただの……。」
ニヤリッと笑う夏樹。
嵯峨野 「何が言いたいの? 」
夏樹 「理沙を傷つけたら許さないから、覚えておいてよね。そういう意味よ。」
嵯峨野 「まさか、好きな子に対してそんな事するわけないでしょ。」
夏樹 「その言葉遣いやめてよ。気味悪いわ。」
嵯峨野 「やめないよ、林田さんと一緒に居たいからね。」
夏樹 「何それ、そこまですんの?」
嵯峨野 「勿論だよ、だって怖がらせてしまうでしょ。」
嵯峨野が去ったあと、夏樹はまだ姿を見せないジーンをちょっとだけ心配していた。
夏樹 「いったい何してんのよ、大切な姫をエセ皇子に取られちゃっても知らないからね。」
ふふふ、でも姫はどうも放置主義の彼しか見てないけどね…。
んーーー…、本当にいるのか? ジーン…。心配になってきたし……。
まさか、理沙の妄想皇子とかじゃないよね…。いるんなら出てきなさいよーーー。
彼と彼女の知らない所で、二人を心配する夏樹。
でも、本当は想いが重なってない彼と彼女であった。