№10
それから俺達はしばらく都内をドライブしていた。
それでもなかなか交通量が減らない夜の街に正直俺はうんざりしていた。
理沙 「今日はもういいよ…。諦めるね。」
しょんぼりとした理沙が窓の景色を見ながらため息のような言葉をつぶやいた。
淳二 「そうだな……。」
見るからに残念そうな雰囲気に包まれていく理沙が俺は気の毒になっていた。
理沙 「ねぇ、お腹空いた。」
唐突に言われた俺は一瞬何を言われたのかもわからずに理沙をマジマジと見てしまった。
理沙 「お腹が空いたの。まだ…、夕飯食べてないの…。あそこに行きたい。」
そう言われて指を指されたのが何故か回転すしだった。
俺は半ば理沙のその真剣な瞳に逆らえなくて仕方なく車を回転すしの駐車場に止めた。
店内は客で溢れていた。俺は初めて回転すしで並ぶという経験をしてしまった。
理沙は珍しいのか真剣に客席の中を見ている。
そんな理沙とは対照的に俺はどことなく居心地が悪かった。
とにかく眼を引く理沙。日本人離れしたその身長とバービィー人形みたいに細い身体と長い手足。
それに加えてこの絶妙に配置の良い綺麗な顔。
真向かいのおやじが理沙を食い入るように見ている。その隣の息子もだ。
必要以上に視線を浴びてしまい俺は食欲なんかまったくわかない。
それよりも早くここから出たい、それだけだった。
理沙が俺に話しかけてくる。まわりが結構うるさいから聞こえないと言うように首を傾げたら。
あろうことかあいつはこんな人前で俺におもいっきり近づき耳元で話しかけてきた。
理沙 「ねぇ…、あそこにある番号は何?」
客が持たされていた番号札が表示されていた。俺はその説明を簡単にすませた。
その後理沙が俺の手の中のそれを見つけてにんまりと微笑む。
斜め前の男の、うぁっ、と言う声が聞こえてきた。
笑うのも危険か…。そんなバカなことを考えていく俺は既に理沙の保護者のような気持ちだった。
理沙 「ジーン…、ねぇ…、ジーンったら…。」
理沙が俺に変な呼び名で声をかけてきた。誰だよそれ…。
俺の怪訝な顔つきにかまうことなく理沙は俺の事をジーンと呼び続ける。
周りの視線もあり、俺は諦めたようにジーンと言う男になってしまっていた。
理沙 「あっ、ジーン、順番が来たよ。」
そう言って先に立ち上がり俺の手を引き無理やりに立ち上がらせた理沙が満面の笑みでこっちを見ている。俺もその笑顔につられて軽く笑った。
途端にまわりから変な声があがった。
小さな子供が俺達を見て大きいと声をあげている。そんな子供に理沙が笑う。
俺の手を引きずんずんと歩いて行く理沙に従う俺。
だふんこんな所を俺の知り合いの誰かに見られたらと思うと俺はぞっとした。
学内でも仕事場でも、極端に人と関わるのを毛嫌いしてきた。
勿論友人達とはバカ騒ぎもする。
それも限られた仲間内の中だけ……。
彼女も居た事もあったが、別に愛していたわけじゃないような気がする。
好きだとは思っていた。でも、それでも友人達に対しての好きのほうが大きかった気がする。
理沙……。心の中で名前を呼んでみた。
ただ、なんとなくそんなことがしたくなったから……。