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異世界ハチ公のオフラン王国昔ばなし

泣いた赤オーガ——異世界ハチ公のオフラン王国昔ばなし④

掲載日:2026/04/12

「橋姫の地球・異世界ハチ公と銀細工師シャーリー」より劇中劇

語り部クロウがこの広場に初めて現れてから半年が経ちました。

今では演台も備え付けの丈夫なものとなり、正面には20個だけですが椅子が置かれるようになりました。

椅子は毎回孤児院から子供達が運んでくるのです。

広場にはいくつもの屋台が出ており、孤児院の屋台で買い物をした先着20名だけが椅子に座ってクロウの語りを聞けるのです。

聴衆も近頃では毎回100人を超えており、離れた場所では声が聞こえ難くなりました。

「拡声器作んなきゃいかんな」

クロウの意味不明な呟きはいつものことなので誰も気にしません。


今日もクロウが失われた魔法王国の物語を語ります。


*・*・*・*・*


かつてオフランと呼ばれた王国が滅び、この地にヤシマ皇国が建つより何百年も前、魔法が世界から失われつつあった時代の物語です。

オフランの石造りの街は失われ、この地が草原に覆われた頃、生き残った人々はかつて王国のあった場所に村を建て、細々と暮らしていたのです。

魔法を失った人間達にとって、小さな村を作って身を寄せ合って貧しい暮らしを守るのが精一杯だったのでした。

その村を見下ろす丘に、赤き肌を持つ大男、アルテリアルが暮らしていました。彼は世界にエーテルが溢れていた時代、力を蓄え知恵と言葉を手に入れた魔物、オーガと呼ばれる種族でした。

魔法大戦争の後、大気からエーテルが薄くなるにつれ、ただでさえ数の少なかったオーガはほとんど居なくなってしまいました。


赤いオーガのアルテリアルは、丘の麓で細々と生きる村人たちと仲良くなりたいと願っていました。かつての王国で愛されていたような香りの高いワインを醸し、焼きたてのパンを並べ、彼は門の前に不格好な文字で看板を立てました。


『親愛なる隣人たちへ。私はあなたたちを傷つけない。この丘のワインとパンで、オフランの歌を歌い、語り合いましょう』


しかし、魔導の力を失い、戦う術を持たない村人たちにとって、アルテリアルの巨体と赤い肌は「絶望」そのものでした。看板を見つけた若者は悲鳴を上げて逃げ出し、村の長老は「あれは人を誘い出す魔物の罠だ」と村の門を固く閉ざしました。

アルテリアルが悲しみに暮れ、自ら醸したワインを涙とともに飲み干していた夜、一人の客が訪れました。アルテリアルと同じくオーガの生き残りである、蒼き肌のヴェインです。

ヴェインは最も賢く、最も気品が高いと言われたオーガでした。オフラン王国の王族すら友に持ち、人間の貴族のような服を着てオフランの王都で暮らしたことすらありましたが、そのような美しい日々も今となってはヴェインの思い出の中にしかありません。

そして、大気中のエーテルが薄れるにつれ、彼の体は透き通るように細り、その命が長くないことを悟っていました。

「アルテリアル、お前の心はあの赤い肌よりも純粋だ。だが、このエーテルが枯渇しゆく時代、人は目に見える『恐怖』を排除することでしか、自分たちの生を実感できないのだよ」

ヴェインは友の涙を拭い、静かに提案しました。「私が、かつての『狂乱の魔物』として村を襲おう。お前は私を打ち倒し、村人を救うのだ。英雄となったお前なら、彼らはきっとその手にあるワインを受け取るだろう」


翌朝、村の入り口に冷たい霧が立ち込め、その中から蒼い影が現れました。ヴェインはかつての魔導の残滓を振り絞り、村の広場で氷の礫を降らせます。

「非力な人間ども、かつての王国の傲慢のツケを払うがいい!」

村人たちが絶望し、祈ることさえ忘れたその時。「そこまでだ!」という叫びと共に、アルテリアルが丘から駆け降りました。

二人は村の広場で激しくもみ合いました。アルテリアルは心を痛めながらも、ヴェインが耳元で囁く「強く打て、私を悪魔に見せろ」という言葉に従い、彼を村の外へと投げ飛ばしました。ヴェインはふらつきながら、森の奥へと消えていきました。

アルテリアルは村の英雄となりました。村人たちは彼を恐れるのをやめ、丘の庵を訪れるようになりました。

彼らはアルテリアルが育てる葡萄を称え、共に歌を歌い、失われたオフランの時代の物語に耳を傾けました。

しかし、アルテリアルの心は晴れません。あの日以来、ヴェインが一度も姿を見せないからです。

ある秋の夕暮れ、アルテリアルはヴェインが消えていった森の奥、エーテルの湧き出し口であった古い泉へと向かいました。そこには誰もいませんでしたが、水辺に置かれた石の上に、一通の羊皮紙と、ヴェインが愛用していた竪琴、同じく彼愛用の帽子が残されていました。


「我が友、アルテリアルへ。

村の笑い声が、風に乗ってここまで届いている。

私の芝居はうまくいったようだね。

お詫びを言わなければならない。

私はお前のために自分を犠牲にしたのではない。

エーテルが尽きゆくこの世界で、私はもう、この青い肌を保つことができなくなったのだ。

あと数年のうちには、私は言葉を忘れ、一匹の魔獣となり果てるだろう。

私は、この身が獣に堕ちる前に、大地に還ることに決めた。

私がお前の側にいれば、いつか村人は『やはり魔物同士だ』と疑い、お前の幸せを壊してしまうだろう。


この竪琴を村の人々に。

魔法は消えても、音楽は彼らの心に残る。

君には僕のお気に入りの帽子を。

若き日の君は『帽子なんか被ったら自慢の角が見えなくなる』と嫌がったが、もう角を誇る理由もないだろう?

さようなら、アルテリアル。

お前のワインを、もう一度だけ飲みたかった。

エーテルの光なき夜に、君に幸福を。」


アルテリアルは、弾き手を失った竪琴と帽子を抱きしめ、声を上げて泣きました。エーテルが失われた世界では、魔族の涙は宝石になることもなく、ただの冷たい雫となって土に吸い込まれていきました。

それから長い年月が経ち、かつてオフラン王国と呼ばれた地に作られた小さな村が、ヤシマ国という小さな国になった頃にも、その丘には「赤い守護者」が住み続け、訪れる旅人に一杯のワインを振る舞ったといいます。

その頭にはいつも古風な、でも小洒落た青い帽子が載っていたということです。


*・*・*・*・*


クロウは語り終えると、帽子を手に取り静かに深くお辞儀をした。

鳴り始めた拍手は、やがて大きな拍手となった。

聴衆の中に若い兵士が数人いることに気づいた。

目に涙を溜めている。泣きそうになったのがバレないようにさりげなく涙を拭こうとしていることに気づいた。よし、巻き込もう。

「その後のお話を少しだけさせてください」

まだ続きがあると知った聴衆が色めき立つ。

「ヤシマ皇国には二つの兵団がありますね。第1兵団は赤い襟章、第2兵団は青い襟章。もうお気づきですね、赤い襟章はアルテリアル、青い襟章はヴェインの色なのです」

「へえーーーー!」

ざわめきが広場に広がる。若い兵士達に視線が集まる。

「今日は兵隊さん達が聴きに来ておられますね、はい。あなた達です」

若い兵士たちは嬉しそうだけど恥ずかしそうだ。

「赤い襟章だから第1兵団ですね、いつもお役目お疲れ様です」

「いや、あい、今は非番です」何故か謝ってる。悪いがもう少しいじらせてもらおう。

「赤い襟章の由来は知ってましたか?」

「いぇ新人なんで、すみません」

もちろんベテランだって知るはずがない。今考えたんだから。

「それでは私がお話しましょう。

初代のヤシマの王がこの地に訪れたとき、王の一行は赤い守護者のもてなしを受けました。その時、王とアルテリアルは友となり、その時から王国の南の丘は『アルテの丘』と呼ばれることになりました。」

「へえーーーー!」ざわめきと共にいっそう大きな拍手が起こる。

誰も知らなかったようだ。当然である。

「やがてヤシマの国は大きくなり兵団も二つに分かれました。初代王からアルテリアルとヴェインの友情について聞いていた当時の王様は『兵団が二つに分かれても力を合わせて国に尽くして欲しい』とそれぞれの兵団に青と赤を託したのです。」

おおおお、とどよめきと拍手が起こった。

「それでは若きアルテリアルたちにもう一度拍手を!」

今日も広場は大きな拍手に包まれたのだった。


「ありがとうございました。今日ご一緒にこの時を過ごしたみなさん、よろしければ頑張った私にご褒美をください。こちらの箱にお願いします。今夜の酒代にいたします」

いつものように笑いが起こる。

「真なる忠誠の像はおかげさまでもうすぐ完成しますが、これからも私の活動、像の維持やオフラン王国の文化の発掘、孤児達の支援などに協力していただけるなら、こちらの箱に寄付をお願いします。こっちは酒代にはなりません、ちゃんと使います」

そう言い終えて彼が「犬のようになつっこい笑顔」を振りまくといっそう大きな笑いが起こった。


ほとんどの聴衆はどちらかの箱にお金を入れてくれた。

一度の公演の報酬としてなら十分な金額だが寄付の集まりはあまり良くない。明確な名目を考えなければならないだろう。


若い兵士達は両方の箱にお金を入れてくれた。感心な若者達である。


「うむ。異世界チョロすぎ」



*おしまい*

ハチ公の生まれ変わり?クロウと美貌の銀細工師シャーリーが紡ぐ異世界産業革命

新しき神・橋姫の使命を帯びてクロウはこの世界にやってきました。

この世界が「橋姫の地球」と呼ばれるまでの物語です。

評判が良ければ連載します。


単話で他のお話も掲載しています。よろしければご覧ください。

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