第7話 「情報吐くか、内臓吐くか」
⚠︎︎グロシーンがあります⚠︎︎
前回(6話)の簡単あらすじ
クレイジーヤギさんアペルくんとの遭遇!
雪豹リオ登場!
お前未だに性別どっちやねん!今回でも分からないぜ!
春だというのに、窓の外では雪が降り積もっていた。
「体調はどう? しんどくない?」
医務室に入ってきたルナが、窓辺に立つミツキに声をかける。
「はい! 一度死んだので、もう痛くも痒くもありません。……あ、今ちょっと顔が痒いかも」
ミツキがポリポリと頬をかくと、ルナは安心したように、けれど少し呆れたようにため息をついた。
「死んで全回復しなくても、私が治してあげられたんだよ? 運ばれてきた時、まだ息はあったんだから」
「先生の手を煩わせるわけにはいきません! それに、死ぬのには慣れてますから」
ミツキは「大丈夫です」と伝えるように、両手を左右に振った。
「一応、私は医療部隊の隊長でもあるんだよ? 怪我人を面倒だなんて思わない。どんな小さな傷でも、ちゃんと頼って」
優しく微笑むルナに、ミツキの表情も自然とほころぶ。
『死ねばすべての傷が治り、生き返る』
それは生物の理から外れた、あまりに便利な力だ。
けれど、本当は怖い。
死ぬ瞬間の恐怖も、次こそ生き返れないかもしれないという不安も、消えることはない。
「慣れている」というのは、ただの強がりだ。
もし本当に死に慣れてしまったら。
「どうせ生き返るから」と命を雑に扱うようになったら。
自分はもう、人間ではない「ナニカ」に成り果ててしまうのではないか。
だから、この恐怖だけは手放してはいけない。
ミツキは心の中で、自分に言い聞かせるように決意した。
そんな彼にとって、「小さな傷でも頼って」というルナの言葉は、何よりも救いだった。
「……ところで、この雪は一体?」
ミツキが再び窓の外へ目を向けると、ルナが答えた。
「リオが降らせたの。『暑いのは嫌い』なんだって。第四部隊の隊長に怒られてたけど、明日までは止みそうにないね」
享楽リオ。
本来、ミツキの教育係になるはずだった第四部隊の隊員だ。
数時間前、路地裏で怪物に襲われたミツキを助け、ここまで運んでくれた恩人でもある。
意識が朦朧としていたせいで、顔も覚えていない。
分かっているのは、一瞬で気候を変えてしまうほどの力を持っていることだけだ。
「あの、リオさんはどこに……?」
お礼を言いたいが、第四部隊の執務室の場所すら分からない。
「リオならシオンに会いに行ったよ。今から第二部隊に戻る?」
「はい!」
ミツキは元気よく頷いた。
────── ────── ──────
───【第二部隊 執務室】
「あれ、ユイ。リオはいないの?」
「……は、はい。ついさっき……出て行きました……」
ユイの言葉にルナは肩を落とし、隣に立つミツキを振り返った。
「じゃあ次は、第四部隊に行く?」
「そうしたいのですが……あの、シオンくんは大丈夫なんでしょうか?」
ミツキの視線の先には、ソファで仰向けに倒れているシオンの姿があった。
綺麗なアイスブルーの瞳は白目を剥きかけ、口は開きっぱなし。体はピクピクと小刻みに痙攣している。
どう見ても、ただ事ではない。
ユイカの姿はなく、ユイが心配そうに彼を見守っていた。
「うーん……全く大丈夫じゃないけど、私の能力でもこれは治せないから。放っておこう!」
ルナはあっさりと義弟を見捨てると、「じゃ、行こうか」と執務室を出ていく。
ミツキは困惑と不安に駆られたが、自分にできることは何もない。
最後にもう一度だけシオンを振り返り、彼は後ろ髪を引かれる思いでルナの後に続いた。
────── ────── ──────
───【第四部隊 執務室】
扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
「……黙りこくって、何がわかるっていうの。さっさと情報を吐くか、それとも……内臓を吐かされたい?」
ルナは「いけない」と呟き、背後から素早くミツキの目を両手で覆い、さらに彼自身の手で耳を塞がせた。
紫黒の髪をスノードロップの簪で一点の乱れもなくまとめ上げ、銀の鷹が輝く隊服に身を包んだ女。
天衡隊第四部隊隊長、念状マシロ。
彼女は腕を組み、足元で正座させられた男に冷徹な二択を突きつけた。
「んーッ! んんーッ!」
男の口はガムテープで厳重に塞がれている。
情報を吐けと命じながら、答える手段を奪っているその理不尽さが、マシロという女の異常性を物語っていた。
テープの隙間からは涎が垂れ、床を汚していた。
「何を言っているのか全く理解できない。つまり『吐くつもりはない』ってことね。ならもういいわ、望み通り内臓を吐かせてあげる」
「ん、んんーーーーーーッッッ!!」
男の絶叫が、密閉された口の中でくぐもって響く。
直後、男の両目は真っ赤に充血し、眼窩から血の涙が溢れ出した。
頬が異常なほど大きく膨れ上がり、皮膚が限界まで引き伸ばされる。
バリッ、と凄まじい音を立ててガムテープが弾け飛んだ。
開いた口から、ドロリとした鮮血と共に、握り潰されたような肉塊と内臓が溢れ出す。
返り血がマシロの靴やズボンを汚したが、彼女は眉ひとつ動かさない。
ただ、ゴミを見るような冷めた目で、事切れた男を見下ろしていた。
「……さて、何の用だったかしら? 先生」
先ほどまでの惨状が嘘のように、マシロは明るい声を出した。
彼女の視線の先には、ルナが立っている。
ルナは背後からミツキの目を両手で覆い、さらにミツキ自身の手に耳を塞がせた状態で、扉の前に立ち尽くしていた。
「……リオに会いに来たんだけど、どこに行ったかな?」
ルナは部屋を見回すが、隊員はマシロ以外に誰もいない。
「アレなら外よ」
マシロは呆れたように言い、それからミツキに鋭い視線を向けた。
「……で、この子がうちの新人? 色々あってなかなか会えなかったけど、連れてきてくれてありがとう。教育係も戻ったことだし、ここで引き取るわ」
マシロが、まだ目と耳を塞がれているミツキへと細い指を伸ばす。
その手が触れる直前、ルナは弾かれたようにミツキを連れて後ろへさがった。
背中が扉にゴン、と音を立ててぶつかる。
「あら先生、逃げなくてもいいじゃない。別に何もしないわよ。ああ、この死体は『新世会』の信者。ただのゴミ処理をしてただけ。坊やには手を出さないわ」
マシロは不気味な笑みを浮かべ、ジリジリと距離を詰めてくる。
(ミツキの教育に悪すぎる……!)
身の危険、というよりは「教育上の危機」を感じたルナは、ミツキの手を引いて執務室から飛び出した。
大急ぎで、自分たちの拠点である第二部隊へと逃げ帰って行った。
【舞台裏】シオンに身に起こったこと
───ルナたちがやってくる少し前
「あぁ……いい匂い。癒やされる……」
「はわわ、はわわわわっ……!」
第二部隊の執務室。
俺は一人掛けのソファに深く腰掛け、足の間に座らせたユイを後ろから抱きしめていた。
猫吸いならぬ「ユイ吸い」。
彼女のうなじに顔を寄せ、その甘い香りを深く吸い込む。これこそが至高の癒やしだ。
部屋には俺とユイの二人きり。
ユイカは任務、隊長はいつも通りの行方不明。
義姉ちゃんはミツキの様子を見に医務室へ行っている。
任務明けの俺にとって、「ユイ吸い」はもはや酸素吸入と同じ。
これがないと生きていけないのだ。
双子の姉のユイカがいれば、「ずるい! 私も吸いなさいよ!」と強引に割り込んできただろう。
だが、実はユイの方が抱き心地がモチモチしていて、癒やし効果が高い。
これは二人には内緒だ。
「……極楽だ」
至福の時間を噛み締めていると、不意に声がした。
「……こんにちは」
いつの間にか、ソファの横に銀色の雪豹を思わせる静かな佇まいで――リオが立っていた。
「り、りりり、リオっ!?」
驚きと恥ずかしさで、情けない声が裏返る。
「お礼を、言いに来た」
リオは至って冷静だ。
「何のお礼? いや、なんのお礼だろうと、いいよそんなの!」
顔から火が出るほど熱い。見られてはいけない姿を目撃され、変な汗がどっと吹き出す。
「……出張の間、教育係を代わってくれてありがとう」
リオの顔がスッと近づいた。
直後、左の頬に柔らかい感触が触れる。
あまりに一瞬の出来事で、何が起きたのか理解が追いつかない。
視界の片隅では、ユイが目を見開いて固まっている。
「じゃあ」
短くそう言い残し、リオは去っていった。
俺はそっと、左頬に手を添える。
……今、キスされた?
事態を理解した瞬間、心臓が爆発しそうなほどの早鐘を打ち、俺の意識は真っ白に――そのまま深い闇へと落ちていった。
第8話の簡単次回予告
リオの性別発表~~~~!!!!
お、お、お~~~~???
女か、男かどっちでしょ~~~かっ!?
第8話 3月27日 18時~19時の間に投稿!




