第2話 「先祖が象の可能性だって、無きにしも非ず」
前回のあらすじ
トラックに轢かれたぜ!異世界行けなかったぜ!
以上だぜ!
「……遅刻しそうで急いでいたら、まずトラックに轢かれた、と」
第二部隊の更衣室。ベンチに座るシオンが、あきれたように確認した。
「はい。焦って信号無視して、飛び出しちゃったんです」
ロッカーの前で着替えながら、ミツキが淡々と答える。
「死んだ僕を、居合わせた男性が車で病院へ運ぼうとしてくれたみたいなんですけど……」
「死んでるのに……? まあ、パニックだったんだろうね。それで?」
「目が覚めたら知らない車の後部座席だったんです。てっきりヤバい組織に誘拐されたと思ってパニックになっちゃって……。思わず運転席の方に身を乗り出してハンドルに飛びついたら車が電柱に激突。僕はフロントガラスを突き破って外へ……。それが二度目の死でした」
「……君、もしかして疫病神?」
シオンの言葉に、ミツキは心当たりがないのか不思議そうに首を傾げた。
「それで、トラックの運転手と、病院まで運ぼうとしてくれた男性はどうなったの?」
「どちらも軽傷です」
新しい制服のボタンを留めながら、ミツキは事もなげに続ける。
「次に目が覚めたら病院の……あ、霊安室だったんですけど、そこで看護師さんを驚かせちゃって。事情はそこで聞きました」
「首から『死んでも生き返ります』って札でも下げておいたら?」
治癒能力者は希少だが、ミツキのような「死んでも生き返る」能力など聞いたことがない。
その規格外な力に、シオンは驚きを隠せなかった。
「運転手さんたちに謝りに行ったら、『入隊式なんだろ! 借りは魔物討伐で返せ!』って送り出されて、走ってここまで来たんです」
「……その運転手さんたち、聖人すぎない?」
二人目に関しては、一歩間違えば死んでいたはずだ。
だが、魔物を狩り、能力を使った犯罪者を取り締まる『天衡隊』の新人隊員の未来を、彼らは守ろうとしたのかもしれない。
……そう思うことにした。
「……そう思うことにしておこう」
シオンは、自分を納得させるように小さく呟いた。
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「それで、まずはどんな任務から始まるんですか!?」
新品の隊服に袖を通したミツキが、目を輝かせてシオンに詰め寄る。
「……まず、現状を説明させて。ここは第二部隊。俺はその隊員。さっきの双子も同じ第二部隊だけど、彼女らは今、別の任務に向かわせた。で、君はしばらくの間、俺とコンビを組んで動くことになる」
更衣室を出て、第二部隊の執務室へ。
二人きりの空間に、説明を終えたシオンの言葉だけが寂しく響いた。
対するミツキは、理解が追いつかないのか口をぽかんと開けて固まっている。
「本来、君は第四部隊の配属なんだけどさ。教育係の隊員が急な長期出張で遠方に行くことになって。戻るまでの間、俺が面倒を見てほしいって頼まれたわけ」
「ほえーっ。先輩、教育係を任されるくらい凄い人なんですね!」
キラキラとした尊敬の眼差しを向けられ、シオンは胸が痛んだ。
「まさか、リオの顔が良すぎて断りきれなかったなんて、口が裂けても言えないよ……」
「……?」
聞き取れないほどの小さな呟きに、ミツキは不思議そうに首を傾げた。
「それと、俺のことは呼び捨てでいい。言葉遣いもタメ口で」
「……えっ、も、もうそんなに親密度が上がっちゃったんですか!? まだ出会ったばかりなのに……」
「何を勘違いしてるのか知らないけど。戦場では一瞬の判断が命取りになるから、短い言葉で伝え合う必要があるんだ。『シオン先輩』より『シオン』の方が、コンマ数秒早く伝えられるでしょ?」
謎の勘違いをしてモジモジしているミツキを、シオンは冷淡に一蹴した。
「そ、その……いきなり呼び捨てはまだ恥ずかしいので、『シオンくん』でもいいですか?」
「何がどう恥ずかしいのかは聞かないけど……まあ、いいよ」
「え、えっと……じゃあ、シオンくん。僕たちの、最初の任務は……何かな?」
慣れないタメ口に、顔を赤くしてぎこちなく問いかけるミツキ。
シオンは内心で溜息をつきながら、本題を切り出した。
「最初の任務は、廃ビルに住み着いた『人喰いの魔物』の討伐だ」
その言葉を聞いた瞬間、ミツキの表情が不思議そうなものに変わった。
「人喰い……? 人を襲う魔物は知ってるけど、わざわざ『食べる』なんて初めて聞いたよ。怪我をさせたり、命を奪ったりするだけじゃないの?」
「確かに、魔物は食事をしなくても生きていける。でも、知能がある個体は、人を……特に『能力者』を好んで食べるんだ」
「能力者を? どうして?」
「能力者は、一般人に比べて体内のエネルギー量が格段に多いんだ。能力を発動するには膨大な力が必要だからね。魔物にとって能力者は、効率よく強くなるための『高栄養なエサ』なんだよ」
「……能力を使うのに、エネルギーが必要なんて知らなかったよ」
感心したように頷くミツキを見て、シオンの引きつった顔がさらに歪んだ。
「……今俺が言ったことは、アカデミーの座学で一番最初に習う基礎中の基礎なんだけど」
「あ、あはは……座学はちょっと、その、苦手で……」
ミツキは気まずそうに、泳ぐ視線をあちこちへ飛ばした。
「はいじゃぁ行くよ-」
シオンは呆れ顔で、廊下へと出ていった。
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「へぇ。昔助けてもらった憧れで、天衡隊に入ったんだな」
「うん。最初は一般隊員のつもりだったんだけど、推薦をもらえたのが嬉しくて」
魔物が棲むという廃ビルへ向かいながら、二人は互いのことを語り合う。
「俺は特にやりたいこともなかったからさ。せっかくアカデミー(能力者育成学校)を出たんだし、少しは役立てようかなって」
「わー、すごい理由」
「……それ、褒めてる? 馬鹿にしてる?」
ミツキの棒読みなセリフに、シオンは眉をひそめた。
そんなやり取りをしている間に、目的地へと到着する。
「ここだよ。魔物が住み着いている廃ビルだ」
見上げた先には、不気味にそびえ立つ六階建てのビルがあった。
「とりあえず、二手に分かれよう。俺は下の三階を見るから、君は上の三階をお願い」
「えっ、一緒に行動しないの?」
シオンの提案に、ミツキは思わず声を上げた。
勤務初日の初任務。
人を食う魔物が潜む場所を一人で探索するのは、あまりに不安で怖かった。
「……効率を考えてのことだよ。万が一何かあったら、大声を出して俺のところまで逃げてくればいいから」
それでも、ミツキの顔は不安で曇ったままだ。
「死んでも生き返るのに、何がそんなに怖いの?」
「……魔物に食べられたことがないので、どうやって生き返るのか分からないんだよね」
ミツキの表情が、不安から真剣なものへと変わる。
「もし胃の中で生き返っても、また胃酸で溶かされて死んで……それを繰り返して、最終的に『排泄物』として出てくることになったら……」
「あー、なるほど。それは絶対嫌な生き返り方だね。魔物が排泄するかは知らないけど」
想像しただけでゾッとする話だ。
シオンもそれには納得せざるを得なかった。
「でも、食べられる前提なのはどうなの? もう少しポジティブに、戦って勝つイメージを持ちなよ」
魔物討伐を担う『天衡隊』の隊員として、あまりに弱気すぎるのではないか。
シオンは呆れ半分にそう付け加えた。
「……だって僕、背が低いし。魔物からしたら、丸呑みにしやすいサイズのご馳走だと思わない……?」
「魔物は『エネルギー』を求めて人を食うんだ。サイズなんて関係ない! はい、行くよ」
シオンは話を切り上げ、迷わず廃ビルの中へと踏み込んだ。
ミツキも不安を顔に滲ませながら、その後を必死についていく。
ビルの中は薄暗く、埃っぽい。
少し歩いた先に、上階へと続く階段が見えてきた。
「じゃあ、ミツキは四階から六階をお願い。何かあったら大声を出すか、俺のところまで逃げてきて」
「シオンくんがどこにいるか分からない時は、どうすればいいのかな!?」
ミツキが「はい!」と勢いよく挙手して質問する。
「……その時は、大声を出しながら下に降りてきて。俺が駆けつけるから。いいね?」
「大声って言っても、どんな感じがいいかな? 『うわー』? 『ぎゃー』? それとも『パオーン』?」
「なんでもいいよ。……って、なんで最後だけ象なんだよ」
ミツキは真顔で答えた。
「びっくりしすぎて、先祖返り(退化)しちゃうかもしれないじゃん」
「君のご先祖様は象だったのか? ……って、仕事中にふざけるな! ほら、さっさと上に行け!」
「いたっ!」
シオンは気合を入れるつもりで、ミツキの尻をパーンと叩いて階段へと送り出した。
ミツキの足音が遠ざかるのを見届けてから、シオンはふと我に返る。
「……やべ。いつもの癖でユイカ(の尻)を叩く感覚でやっちゃったけど……今の、セクハラにならないよね?」
静まり返った廃ビルで、シオンは一人、冷や汗を流すのだった。
よく考えたら、シオン、人の着替えジロジロ見てない?
次回のあらすじ
5000字超えちゃったぜ…。
ミツキの初バトルだぜ…。
第3話 3月20日 18時~19時の間に投稿だぜ!(◜ᴗ◝ )




