木山宏美への復讐4
「はぁ……」
「おや、木山様。溜め息なんて吐いてどうかされたんですか?」
バーにやって来て暗い顔で溜め息を吐く義彦に俺は何食わぬ顔で尋ねる。
義彦が悩んでいるのは浮気がバレて宏美に離婚宣言されたからだろう。
「いや…恥ずかしい話だが妻に離婚を迫られてしまってね…」
「木山様は結婚して間もないのに何かあったんですか?」
「それが…まあ、俺が悪いんだけどさ…宏美が怒るようなことしたから」
自分が真夜と浮気して妻の宏美に離婚宣言されたことを話すのは義彦にもためらいがるようだ。
言い淀む義彦に俺は明るく話しかける。
「夫婦は元は他人だし結婚してから相手との性格の不一致が分かる場合もありますし。何が原因か分かりませんが時間が経てば奥様の怒りも収まるかもしれませんよ」
「それならいいんだけどね…」
「それより先日木山様とここで飲んでいた真夜さんが木山様はとても素敵な方だと話していましたよ。またお会いしたいって言ってました」
「え? 真夜さんが?」
思いがけない俺の言葉に義彦は目を丸くする。
真夜とのことは一夜限りの浮気だと思ってただろうから当然だ。
「中村さんは真夜さんのこと知っているのかい?」
「はい。彼女はあるクラブのキャバ嬢なんですけど彼女は苦労していて好きでキャバ嬢をやってる訳じゃないんです。親の借金の返済の為にキャバ嬢をやってるらしくて」
「彼女はキャバ嬢なのか。親の借金の為にキャバ嬢で働くなんて苦労してるんだな…」
「ええ。借金は一千万円くらいあるとか。木山様が独身でその借金さえ返済できたら木山様とお付き合いできるのにって彼女泣いてましたよ」
「え! 真夜さんが俺と!?」
義彦は真夜が一夜限りの浮気ではなく条件さえ合えば付き合いたいと思っていると聞かされてさらに驚いたようだ。
そして僅かに顔を赤くして照れている様子。
いい歳の男が照れる姿ってのは可愛くもなんもねえな。
まあ、でもまだ義彦には役に立ってもらうから我慢するか。
「そんな、真夜さんがそこまで俺のこと想ってくれてるなんて…」
動揺を隠せない義彦に俺は囁く。
「今の奥様の方が離婚を望んでいるなら奥様と離婚されて真夜さんと再婚するのはどうです? 木山様も若い女性の方が好きって言ってましたよね?」
「ああ、まあ、そうだが…仮に宏美と別れることはできても真夜さんには借金があるんだろ?」
「借金は木山様が返済してあげればよいのではないですか?」
「む、無理だよ! 一千万なんて貯金ないし。離婚するなら宏美に慰謝料も取られるだろうし…」
首を横に振って義彦は「無理だ」と主張する。
まあ、普通はそうだよな。宏美はしっかりと慰謝料を請求するだろうしな。
だが義彦。お前には魔王の俺が力を使って不可能を可能にしてやるさ。
もっとも一時的な夢でしかないけどな。
お前は所詮俺の宏美への復讐に使われる駒でしかないし。
たかが駒を幸せにしてやるほど俺は優しくもないし慈悲深くもない。
駒が自分が不幸になることを恨むならそれは俺の復讐相手と関係を持ったことが原因だ。俺のせいではない。
「それなら宝くじに自分の運命を賭けてみるのはどうです?」
「へ? 宝くじ?」
「ええ。一等賞金が一千万円の宝くじがこのお店の側の宝くじ売り場で売ってるんです。買ってみたらいかがですか? もしそれで一千万円が当たったらそれは神様が木山様に真夜さんを助けてあげなさいという神の啓示だと思うんですよね」
「そ、そんなの、当たるはずないじゃないか」
「宝くじがハズレるなんて当たり前のようなことでしょ? でも物は試しって言いますし」
「……か、考えておくよ。とりあえず今夜はお会計を」
「はい」
会計を済ませた義彦はバーを出る。
そしてバーの近くにある宝くじ売り場の前で足を止めた。
俺はその様子を姿を消して空中に浮かびながら見ていた。
この宝くじ売り場自体が俺が魔力で作った幻の宝くじ売り場だ。
さあ、義彦。運命の宝くじを買うがいいさ。
「ここが宝くじ売り場か。……よし、一枚だけ買おう」
義彦は宝くじを一枚買う。
当選かどうかは明日には分かる宝くじだ。俺は当然その結果は分かっているけどな。
次の日、自分が買った宝くじで一千万円が当たったことを知った義彦は呆然とする。
その後に声を上げて喜びを表した。
神の啓示ならぬ魔王の啓示で当選させてやったぞ、義彦。
まずはさっさと宏美と別れてやれよ。俺の宏美への復讐の第一歩だからな。




