どうしたものかなぁ
いつの間にか幽霊になっていた。
困ったことに生前の記憶がない。
幽霊になるくらいだから、きっと何か無念があったのだろうけど……。
幽霊だからか人間たちの目には映らない。
声だって聞こえない。
基本的には。
「危ないよ」
僕の声を聴いた女子生徒がびくりと震えて振り返る。
「えっ。誰?」
僕は声を出したけれど彼女には姿が見えないようだ。
「誰? 誰なの?」
空しいものだ。
さっきまで僕の声は確かに聞こえていたのに。
女子生徒は胸に手を当てて震えていたけれど、やがて意を決したように走り出した。
屋上の何もない場所ではなく、確かに床がある場所を。
死に瀕した人だけに声が聞こえるというやつか。
ありきたりではあるけれど、逆にありきたりだからこそ説得力が出る。
「生と死の狭間にいるのか」
屋上で漂いながら僕は呟く。
だから自殺をしようとした子には声が届くんだ。
少なくとも僕はそう納得した。
「さて。どうしたものか」
――そう呟いた頃からもう三十年以上も経つ。
僕は今や、色んな人を見てきたけれど状況は何も変わらなかった。
「さて。どうしたものか」
僕は今日も今日とて呟いていた。
何せ、三十年も一人きりなのだ。
退屈や寂しさなんてもうとっくにカンストしてる。
「おっ」
僕の下に。
より、正確に言うならば屋上に。
久々に人がやってきた。
まったく。
もっと来てくれればいいのに。
こっちだって退屈なんだから。
いつものように僕はやってきた生徒にそっと近づく。
「男の子か。趣味の話とか出来たらいいなぁ」
青い顔をした男の子は柵を乗り越えて遥か階下を見下ろすばかりだ。
そんな男の子の隣に立って僕はそっと囁いた。
「早く死ねよ」
――そう囁いたのがもう数十分前。
「さて、どうしたものか」
僕は呟きため息をつく。
「今日も僕みたいな幽霊は現れなかったなぁ」




