第9話 数字には載らない答え
「答え合わせは、あとから来る」
それから数年が過ぎた。
俺は、相変わらず同じ場所にいた。
有名校でも、強豪でもない。
スポンサーも、いない。
評価表に名前が載ることもない。
それでも、毎年グラウンドには人が集まる。
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「先生、紹介したい人がいます」
そう言って現れたのは、桐生だった。
体つきは変わったが、
走り方は、あの頃のまま。
「大学でも、壊れなかったですよ」
笑いながら言う。
「使い切られなかった分、
まだ余裕があるみたいです」
それは、最高の報告だった。
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彼だけじゃない。
あのチームの選手たちは、
誰一人、競技を途中で辞めていなかった。
トップに行った者もいれば、
裏方に回った者もいる。
だが全員、
「続けている」。
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ある日、一本のメールが届いた。
件名は短い。
「指導法について」
差出人は、聞いたことのある名前だった。
昔、視察に来た元指導者。
今は、育成部門の責任者らしい。
『君のやり方は、
結果だけ見れば正解ではない』
そこまで読んで、少し笑った。
分かっている。
最初から、正解じゃない。
『だが、
長期的に見れば、
うちが一番欲しいタイプの人間を育てている』
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グラウンドを見渡す。
今日も、全力は出していない。
無理も、させていない。
それでも、
選手たちは前に進んでいる。
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ノートを開く。
最後のページは、白紙だった。
しばらく考えてから、
ゆっくり書く。
「数字は、道具だ」
「人を削るための理由にした時、
それは凶器になる」
ペンを置く。
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勝たなかった試合は、数えきれない。
失った評価も、金も、確かにある。
それでも。
壊れなかった人生が、
ここには積み重なっている。
答え合わせは、
いつも後から来る。
そしてたいてい、
数字には載らない。
⸻
――完。




