表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勝たせる才能は、評価されない  作者: 砂肝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/8

第7話 評価表に乗らないもの

 スポンサーが抜けたことで、環境は一気に変わった。


 練習用具は、最低限。

 遠征は、ほぼ不可能。

 データ解析用の端末も、返却。


 数字を捨てた男に、

 数字のための道具は残らなかった。



「これから、どうするんですか」


 副主将が聞いた。


 責める口調ではない。

 純粋な、不安だ。


「やれることだけ、やります」


 それしか、言えなかった。



 練習は、シンプルになった。


 ストップウォッチは使わない。

 回数も、距離も決めない。


 見るのは、

 顔色、呼吸、目線。


「今日は、ここまで」


 そう言うと、誰も反論しなかった。


 数字がなくても、

 “限界”は分かるようになっていた。



 ある日、校外から視察が来た。


 有名でもない。

 スポンサーでもない。


 ただの、元指導者。


「君が、数字を捨てた男か」


 開口一番、そう言われた。


「捨てたつもりはありません」


「なら、なぜ使わない」


 少し考えて、答えた。


「数字は、最後に確認するものです。

 先に見ると、人が見えなくなる」


 視察者は、笑った。


「昔の俺と同じことを言う」



 帰り際、その人は言った。


「結果は出ないだろう。

 でも、壊れない」


「それでいいんです」


 即答だった。



 次の大会。


 結果は、やはり地味だった。


 勝ち上がらない。

 話題にもならない。


 だが、

 全員が最後まで走り切った。



 スタンドの隅で、桐生が見ていた。


 ケガから復帰したばかりの体で、

 静かに拍手していた。


「俺、焦ってたんだな」


 ぽつりと呟く。


「勝つことしか、見えてなかった」


 その横顔は、

 前よりも、ずっと強く見えた。



 夜。


 ノートを開く。


 もう、数式は書かない。


 代わりに、こう記した。


 「数字を捨てたのではない」

 「優先順位を、人に戻しただけだ」


 ページを閉じる。



 このやり方は、評価されない。

 金にも、ならない。


 それでも――


 誰かの競技人生を、

 少しだけ長くできた。


 それが、

 数字を捨てた男の、次の仕事だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ