第6話 数字を捨てた男」
敗退から一週間。
グラウンドは、いつもより静かだった。
スポンサーのロゴが入った備品は、すでに片付けられている。
金が引いた後は、驚くほど早い。
「後悔してるか?」
鷹宮が、珍しくストレートに聞いてきた。
「……いいえ」
即答だった。
「勝率を下げた。
評価も、金も、全部失った」
「それでもです」
鷹宮は、しばらく俺を見てから、息を吐いた。
「なら、いい」
それ以上、何も言わなかった。
⸻
その日の午後。
見知らぬ番号から、電話が来た。
『桐生恒一くんだね』
落ち着いた声。
年配の男だった。
「はい」
『先日の大会、見ていた』
胸が、わずかに緊張する。
『君がエースを外した判断だ』
やはり、その話か。
「結果は、敗退でした」
『承知している』
男は、そこで一拍置いた。
『だが、私はあの判断を評価している』
耳を疑った。
「……なぜですか」
『勝率ではなく、持続性を選んだからだ』
持続性。
初めて聞く評価軸だった。
『短期の勝ちは、金で作れる。
だが、選手を守りながら勝ち続けるのは、難しい』
男は名乗った。
大学の研究機関で、スポーツデータと育成を扱っている、と。
『一度、話がしたい』
⸻
指定された場所は、大学の施設だった。
ホワイトボード。
並ぶグラフと数式。
「君のノート、見せてもらった」
男は、真剣な目で言った。
「勝率だけでなく、
“壊れる確率”を書いているのがいい」
「書かないと、判断できないので」
「多くの人間は、見ないようにする」
その言葉に、胸が静かに鳴った。
「君は、才能を失ったんじゃない」
男は、はっきり言った。
「評価軸を変えただけだ」
⸻
帰り道。
夕焼けのグラウンドを見ながら、俺は立ち止まった。
勝たせる才能は、評価されない。
そう思っていた。
だが。
評価される場所が、違うだけだったのかもしれない。
スマホに、メッセージが届く。
『次の大会、手伝ってほしい』
送り主は、別の学校のコーチだった。
勝率だけを求めていない、文面。
俺は、ノートを開いた。
最初のページに、こう書き足す。
「勝たせる才能は、評価されない。
だが、消えるわけじゃない」
ゆっくりと、
次の数字を書き始めた。
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