第3話 正しい判断は、拍手されない
勝ったのに、空気が重かった。
記録掲示板に並ぶ数字は、確かにこちらが上だ。
誰が見ても、正当な勝利。
だがベンチに戻ってきた選手たちの表情は、硬い。
「……勝ったよな?」
誰かがそう言ったが、返事はなかった。
俺は、ノートを閉じた。
予測は的中。
勝率は、計算通りだった。
それなのに。
「桐生」
名前を呼ばれて顔を上げる。
声の主は、今日一番タイムを縮めた選手だった。
「なんで、俺を後半に下げた」
責める口調ではない。
だが、納得もしていない。
「前半で飛ばすと、最後に落ちる確率が高かったからです」
「……気分は?」
「考慮してません」
一瞬、沈黙。
「正直だな」
そう言って、彼は笑った。
でも、その笑顔は薄かった。
「勝ったけどさ。
なんか、置いていかれた気がする」
その言葉が、胸に残った。
⸻
その日のミーティング。
「今日の勝因は、配置転換だ」
鷹宮がそう言った瞬間、視線が俺に集まる。
「分析が当たった」
それは事実だ。
だが、誰も拍手しなかった。
「……でも」
顧問の補佐が、言葉を足す。
「選手の感情も、考えるべきじゃないか」
俺は、口を開きかけて、やめた。
正論を言えば、場が冷える。
それは、もう分かっている。
鷹宮が、代わりに言った。
「感情を優先すれば、勝率は下がる」
空気が、さらに重くなった。
⸻
帰り道。
「嫌われ始めたな」
鷹宮は、後ろ手に歩きながら言った。
「……はい」
「怖いか?」
「少し」
正直な答えだった。
勝てば評価される。
そう思っていた。
だが違う。
勝ち方が、評価されるかどうかを決める。
「それでも、続けるか?」
鷹宮の問いに、俺は立ち止まった。
今日の勝利。
選手の顔。
冷えた拍手。
全部、頭に浮かぶ。
「……続けます」
少し間を置いてから、言った。
「誰かに嫌われても、
負けるよりは、ましです」
鷹宮は、何も言わなかった。
ただ、小さく頷いた。
⸻
家に帰り、ノートを開く。
今日の判断。
勝率。
副作用。
最後に、一行だけ書き足した。
「正しい判断は、味方を減らすことがある」
それでも、消さなかった。
これは、
俺が進む道の記録だからだ。




