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第34話 求む! 新米使用人

『オルステッド公爵家、使用人募集。高給優遇、寮完備、まかない付き、温泉入り放題(※ただし業務に支障のない範囲で)』


 そんな破格の条件が書かれた求人票を王都のギルドに出したところ、予想通りというか、予想以上の応募が殺到した。

 当然だ。「あの噂の公爵家で働ける」「伝説の美肌温泉に入れる」「給料が王宮並み」となれば、職を求める者たちが群がるのも無理はない。


 書類選考(字が汚すぎる人や、動機が「公爵様のお顔を拝みたい」だけの人はカット)を経て、面接に残ったのは数名。

 今日はその最終面接の日だ。


 城の大広間に特設された面接会場には、私とジークハルト様が長机を挟んで座っている。セバスチャンはまだ絶対安静のため、今回は私たち自身で選ぶしかない。


「……緊張するな」


 ジークハルト様が、まるで自分が面接を受ける側のように強張っている。人見知りの彼にとって、初対面の人間と話すのは、魔物討伐よりもハードルの高い苦行なのだ。


『ご主人様、頑張って! 威圧スキルはオフにしてね! 応募者が入室した瞬間に気絶しちゃうから! 笑顔! 口角上げて!』


 テーブルの下に隠れたグラムが小声で応援する中、一人目の候補者が入ってきた。


「失礼いたします……」


 現れたのは、ひょろりとした線の細い青年だった。年齢は二十代半ばだろうか。清潔感はあるが、どこか陰があり、自信なさげに俯いている。


「えっと、自己紹介をお願いします」


「は、はい……。元・宮廷料理人の、ジャンと申します。その……先日、王宮をクビになりまして……」


 元宮廷料理人!?

 ものすごい経歴の持ち主が来た。料理の腕は確かなはずだが、なぜクビに?


「……なぜ、クビになった」


 ジークハルト様が(頑張って優しく聞こうとして、結果的に尋問のような低い声で)問う。

 ジャン青年はビクッとして、消え入りそうな声で答えた。


「そ、その……私の料理は、地味すぎると……。もっと派手で、金粉をまぶしたり、火を吹いたりするような映える料理を作れと言われたのですが、私は素材の味を活かしたくて……。王妃様の誕生日に『カブのポトフ』を出したら、怒りを買いまして……」


 なるほど。見た目と派手さ重視の王都の貴族たちとは、方向性が合わなかったらしい。

 しかし、彼が持参した使い込まれた包丁セットからは、こんな声が聞こえていた。


『ご主人ジャンは最高だよ! 俺を毎日ピカピカに研いでくれるし!』

『野菜を切る時の手つきが優しいんだ! 食材への愛を感じるぜ!』

『あんな派手好きな王宮より、ここの方が絶対に合ってるよ!』


 道具たちの評価は上々のようだ。食材への愛がある料理人、悪くない。


 続いて二人目。

 今度は、派手なドレスを着崩した、勝ち気そうな赤毛の少女が入ってきた。足取りは荒く、ドアを少し大きめの音を立てて閉める。


「ごきげんよう! 元・男爵令嬢の、リリィですわ! よろしくてよ!」


 令嬢!? 使用人の面接に?

 私たちは顔を見合わせた。


「あー、驚かないでくださいまし! 実家が事業に失敗して借金まみれで潰れちゃって! 夜逃げ同然でここまで来ましたの!」


 彼女はあっけらかんと笑い飛ばした。たくましい。


「でも私、昔からドレスのフリルより雑巾絞る方が好きで! 掃除と洗濯だけは誰にも負けませんわ! あの埃を見ると血が騒ぐんですの!」


 お掃除マニアの令嬢。これまた強烈な個性だ。

 彼女のスカートからは『この子、動きがガサツだけど、不思議と憎めないのよね』『掃除し始めると止まらないわよ。昨日の宿でも、頼まれてないのに廊下磨いてたわ』という証言が得られた。


 その他にも、

「花と話せる(自称)」と言い張る、筋肉隆々の元冒険者の大男(庭師志望)。

「引退後の暇つぶしじゃ」と笑うが、杖から凄まじい魔力を感じる老魔術師(家庭教師兼・魔導具整備士志望)。


 一癖も二癖もありそうなメンバーばかりが揃っている。普通の使用人は一人もいない。


「……どうだ、コーデリア」


 ジークハルト様が小声で聞いてくる。

 私は彼らの履歴書を見ながら、ニヤリと笑った。


「面白い方ばかりですね。……普通の貴族なら敬遠するでしょうけれど」


 そう、この城は普通ではない。

 物が喋り、ガーゴイルが空を飛び、巨大な狼(ポチ)が廊下を走り回る城だ。普通のスキルや常識を持った人では、一日で逃げ出してしまうだろう。必要なのは、順応性と、何より「愛」だ。


「次の試験は『実技』です。……彼らの本質を、道具たちに聞かせてもらいましょう」


 私は立ち上がり、セバスチャンさんが寝込む前に走り書きした「特製採用試験メニュー」を広げた。


「では皆さん。これから実技試験を行います。それぞれの得意分野で、私たちを、そして『この城』を満足させてください!」

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