今度こそ、夢に向かって
こうして、それぞれの戦いは終わった。
俺が命懸けで掴んだ内部データは決定的な証拠となり、山瀬、三國、そして黒いコートの男・梅田が次々と逮捕された。
とくに三國と梅田については、過去に手を染めてきた数々の違法行為や暴行事件が次々と明るみに出て、両名とも長期の懲役刑は免れないと報じられた。
その一方で、炎刃組に話を通して裏社会からの圧力を断ち切り、俺たちの動きを陰で支え続けた真央は、今回の結果を誰よりも喜んでいた。
数日後――。
真央の呼びかけで、俺、亮、伊川をはじめとしたドリームフューチャーの被害者たちが一堂に会する祝勝会が開かれた。
店の奥では笑い声と乾杯の音が響き、まるで長い悪夢の終わりを祝うように、みんなの表情は晴れやかだった。あの地獄のような日々が、確かに“終わった”のだと実感できる瞬間だった。
「さてと、今日はみんなに一つ報告があるの」
真央がグラスを掲げ、にっこりと笑う。
その笑みは、あの夜の暗闇を共に歩んできた戦友たちへのものだった。
「私ね、そろそろ“キャバ嬢・真央”は卒業しようと思ってるの。今度は自分の店を出すつもり。ちゃんと、まっとうな商売で勝負してみたいのよ」
「マジかよ、それはすげぇな!」と亮が声を上げると、真央はいたずらっぽく彼を指差した。
「でね、絶賛フリーターの亮くん。もしよかったら、うちで働かない? 力仕事でも雑用でも、君みたいな真っすぐな子、絶対必要だと思うの」
亮は驚いたように目を見開き、それから、ふっと笑って頭を下げた。
「……ありがとな。俺、マジで一からやり直すわ」
そのやりとりを聞きながら、俺はグラスの中の炭酸が静かに弾けるのを眺めていた。
終わりじゃない。ここから始まるんだ。
「私たちも、もう二度とあんな思いはしたくないよね」
明石がぽつりとつぶやくと、伊川がゆっくりと頷いた。
「ええ。だから……今度こそ、本当に“自分の力で”夢を叶えましょう。私は、本気でウェブデザイナーとして勝負したい。会社を作りたいの」
「会社……?」
「ええ、私たちで。ゼロから、ここから始めるの」
その言葉に、俺と明石はしばし顔を見合わせ、そして静かに笑った。
「……いいじゃん、それ。最高だよ」
「私もやる。過去はもう捨てて、未来を自分の手で掴むんだ」
そして俺も、心の奥底にある本当の気持ちを口にした。
「俺の夢は、やっぱり絵の仕事に就きたい。小さなイラスト一枚でも、人の心を動かせるような作品を描きたい」
誰も笑わなかった。むしろ、仲間たちの表情は力強く、温かかった。
ここには、同じ痛みを知り、同じ夜を生き抜いてきた仲間たちがいる。
もう恐れるものなんて、どこにもない。
こうして俺たちは、それぞれの「再出発」に向けて歩き出した。絶望の果てで掴んだ希望を胸に、過去とはまったく違う、自分たちの未来へと。
数ヶ月後――。
伊川はついに、自らの手で会社を立ち上げた。
その名も Luceo
ラテン語で「光る」を意味する、希望に満ちた社名だ。
小さなオフィスには、窓から差し込む光が温かく差し込み、白い壁と机の上には紙とペン、パソコンが整然と並ぶ。そこには、かつての悪夢の影はなく、ただ前を向く強い意志だけがあった。
ある日――。
元のファミレスでアルバイトをしていた俺のもとに、伊川から電話が入った。
「快晴、来てほしい。私たちで、新しいものを作ろう」
迷いはなかった。俺は即答し、Luceoに入社する。
オフィスに足を踏み入れると、明石もすでにそこにいた。かつての過去を乗り越え、今度は同じ未来を目指す仲間として――。
Luceoの扉を開けば、そこには自由と挑戦が待っていた。見慣れた顔の人物もいる。ドリームフューチャーで働いていた明石みなみだ。
「やほー、森峰くん」
「明石さん!明石さんも来てたんだ!」
「まーね、改めてよろしく⭐︎」
代表取締役・伊川美咲
そして俺と明石の三人の新たな挑戦が、静かに、しかし確かな足取りで始まる。
過去の痛みを力に変え、希望を胸に抱き、未来への第一歩を踏み出す。
――これは、俺たちの、本当の物語の始まりだった。




