01S.鳴神蜃気郎 前編
☆「右側神の世界」と、バランスを取るように、この世界は出現した。
☆その世界の人々は、思春期を迎えると別の性に変わった。
この世界の魔人類は、思春期を迎えると、生まれた時とは違う性に、変わりました。そしてその性で、人生の終わりまでを、生きました。この世界の魔人類達は、生きて居る内に、男女どちらの「性」も、経験することが、出来ました。即ち娘として生まれた者は、思春期を迎えると、男子に変わり、男子の場合は、女子に変わりました。その変化は「この世界を創造した〝神の特質″を、体現して居る」と、言われました。
そこは「左側神ミカエフ」が、支配する世界でした。そして、そこに1人の人物が、登場しました。彼の名前は「鳴神蜃気郎」と、言いました。「ゼビスの人類」世界で言うと「今年還暦を、迎えたばかりの初老の男」でした。しかし彼の見た目は、20代前半位の若者にしか、見えませんでした。
彼は、もちろん人間では無く、ミカエフの世界を生きる、魔人類の1人でした。彼は、自分の父親が、亡くなった年齢に、近づいたので「これからは、好きなことをして、人生の終わりを迎えたい。」と、考えました。☆「ゼビスの人類」とは、中央神ゼビスが創った、人間のことを言いました。
彼の父親も祖父も、人間の歳で言うと、74歳で他界しました。特に父親が、69歳のときに脳梗塞と成り、半身不随の「寝たきり状態」に、成ったので彼は、父親のその状態を、見たことも有り、ああなってしまったら、それはもう事実上「死を迎えたものと、同じだろう。」と、思いました。
その為、彼は「自分も、その年齢に近づいたので、そろそろ準備をしよう」と、思いました。彼は高血圧でした。「終わりの時が、近づいたのです。」人には、それぞれ個別に、寿命が有るので、一概には分かりませんが、彼の家系がそうでしたので、彼は自分の身体が、動く内に「準備に入ろう」と、思いました。
しかし「鳴神蜃気郎」は、この世界の神で有る「左側神ミカエフ」に、創られた存在でしたので、生物的な「雌雄の両親」は、存在しませんでした。その為その記憶は、彼の元と成った人物が、持つ「記憶の一部」でした。その記憶に依ると彼は、会社員でした。今まで自由な時間を取れずに、日々仕事に、追われました。その為「やるときは、今しかない」と、思いました。
また彼に取っては、幸なことに、隣国の「パルティア・シナール」から、致死率の高い「殺人ウィルス」が、発生したので、彼の会社は、感染防止をする為に、時差通勤に、成りました。その為「遅く行って、早く帰る。」と言う、勤務状態に、変わりました。個人的な、習い事を始めるには、丁度良い、タイミングでした。☆「左側神の世界」にも、浮遊大陸が有りました。そこは「パルティア」と、呼ばれました。
そこで、予てから彼は、楽器が何も弾けなかったので、最後に「楽器を習いたい」と、思いました。楽器とは「ピアノ」「ギター」「ドラム」のことでした。楽器以外では、この世界の武道のような「総合格闘術」で有る「〝秘拳バクラチオン″も、習いたい」と、思いました。それから「絵画も習いたい」と、思いました。これらが今、彼の思い付く「やっておきたいこと」でした。
ピアノは、もう既に1年位習って居たので、来月で止める予定でした。ドラムは半年習って、もう辞めました。これも予定通りでした。ギター教室は、2週間に1度のレッスンだったので、まだ続けて居ます。このギター教室では「ウクレレ」も、教えて居たので、ギターが、弾けるように成ったら、次にそれも習おうと、思いました。
それら楽器のレッスン教室は、それぞれ違う場所に在りました。一番レッスン期間の長い「ピアノ教室」は、楽器販売店の中に有りました。そこの店員には、若い女性が多くて、何人かの者とは、顔馴染みに成りました。その店員の1人に、既婚女性の若い人が、居ました。彼女は主婦でしたが1番、彼の話し相手に、成りました。彼女とは「気が合いました」彼女が、既婚女性で無かったら、彼は「口説いていたかも、知れません。」
そして、そこには「染谷サキエル」と言う、若い女性店員が居ました。彼女は、楽器の修理も出来ました。彼女の先祖は、遥か昔に嘗て、この世界に災厄を齎したと言う「エバンの使徒」と言う「殺人強化魔人類の先祖」を持つ、店員でした。そしてこの女性には、1人の助手が付きました。彼女の名前を「中山ココア」と、言いました。彼女は、サキエル専属の部下でした。
この世界には、何千年もの昔に、発生した「災厄の記述」が、記されたものが、有りました。その記述に依ると、その災厄を「エバンの災厄」と、呼ばれました。太古の時代に、この世界に突如「正体不明の強化魔人類達」が現れて、この世界の魔人類達を「悉く、殺戮した」と、書かれました。
その殺戮者集団のことを「エバンの使徒」と、呼びました。特に手強かった強化魔人達が、総勢13体、存在したことから、その強化魔人類達を、畏敬を込めて「エバンの13使徒」と、呼びました。それらの存在は、当時の古代人からは、大変恐れられたものでした。そしてこの使徒には1体に付き、数十体規模の「ファミル(眷属)」達が、従いました。このファミル達も大変、殺傷能力が高い怪物でした。
しかしこの世界は「善なるオーラ」に包まれた「善人と善なる空間」に、支配された世界でした。「闇の本能」に、支配されて、その本能の赴くままに、この世界に「悪質な災い」を、齎すと、この世界を覆う「空間」に、処分されました。処分とは「対象者に、大変な撃痛を与えて、藻掻き苦しみながら、空間の圧縮により潰されて、死に至る」処分を、言いました。
このときの「空間の処分」が、それでした。殺戮をした使徒達は、突然の「空間の収縮」に依り、圧し潰されて悲鳴を上げながら、この世界から消滅しました。ファミル達も同じでした。しかしこの「エバンの使徒」の中には、魔人類達の殺戮に、参加しなかった使徒と、そのファミル達が居ました。それは何故、殺戮をしなかったのか、理由は良く分かりませんでした。
その使徒の名前を「エバンの第3使徒」と言い、そのファミル達でした。そしてこの楽器店の販売員の中にも、その末裔達が居たのです。彼女達は、そのときの「空間の処分」を、免れた存在の子孫でした。言い換えれば、この世界の「エバンの災厄」は、まだ終わって居ませんでした。
「第3使徒の覚醒」が有れば、何時でも何処でも、あの時の災厄が再現されました。第3使徒の末裔達は、今では膨大な数に増えており、全員が覚醒すれば直ぐにでも、あの災厄は、再現されました。しかし蜃気郎は、その災厄の意味を知りました。それは「左側神ミカエフ」が、この「空間のクビキ(処分)」を、試す為に行った、初めての行為でした。その為、もう2度と、この「最大規模の災厄」は、起こらないことを、彼だけは知りました。
そんなことは「鳴神蜃気郎」しか知らないことでした。彼はどうした訳か、誰も知らないようなことでも、知ることが、出来ました。それはいつものことでした。実は、この世界に於いて彼は、全てを知ることが出来る存在でした。