魔剣1
第二王子失敗。
急報は瞬く間に国中を駆け巡った。
配信の負の側面として失敗も容易く広がってしまうというところがある。
実際に配信中に失敗してしまうと隠しようもないし、誤魔化しようもない。
意気揚々と出発した第二王子の配信を見ていた人も少なくなく、噂は簡単に人から人へと伝わって広まったのだ。
「お兄様は大丈夫でしょうか……」
ずっと第二王子を映していた配信が、今は止まってしまっている。
ユリアナは小さくため息をついた。
「言った通りになりましたね……」
「何か言いましたか?」
「いえ。お噂によると第二王子は生きているでしょう」
よほどのことがない限り王族は守られる。
失敗の瞬間までエティケントは見ていないが、基本的に第二王子も安全に動くはずなので兵士たちが見捨てない限りは死なないだろう。
噂でも王子は失敗したと聞くが、死んだとは聞かないので配信の限りでは死んでいないはずだ。
「死んだ……とも聞いていないですしね」
「お命が無事なら……他の兵士の方々も大丈夫でしょうか」
「……正直あまり状態はよくないでしょうね」
こんな時に変な慰めなどしない。
兵士が無事に撤退できたなら配信を継続して仕切り直す。
そうしないということは、兵士にも少なからず損害が出てしまっていると予想できるのだ。
「第二王子の立場も悪くなるでしょうね」
多くの兵を率いて出立し、道中も配信していた。
それだけの期待を背負っているとなれば、確実に成功させねばならなかった。
それを失敗して、おめおめと帰ってくるとなるとしばらく大きな顔をすることはできないだろう。
王位争いも大きく一歩後退となる。
「ゲートダンジョンの方はどうなるのでしょうか?」
「聞いたところによると出てきたモンスターの方は討伐が終わっているようです。中にも入ってモンスターを倒しているでしょうし、しばらくは安全かと」
「そうなんですね。それでも民は不安でしょう」
「成功があるなら失敗もある……仕方のないことです。どれだけ準備をしても不足の事態は起こりうるものです。今回はまた別にゲート攻略の部隊を組むか……あるいはギルドに委任するかもしれませんね」
「ギルドへの委任……ですか」
「ゲートダンジョンの攻略は冒険者たちの分野ですからね」
ギルドと聞いて誰の顔を思い浮かべたのかとエティケントは目を細める。
回帰前のこの時期は出会ってもないと聞いたのに、今回ユリアナはイースラのファンみたいになっている。
「もしかしたら両方かもしれませんね」
「両方……とは?」
「失敗したということを考えるに、国としてのプライドを守るためには国で解決することが求められるでしょう。ただ一方で失敗して、二度目はないとなると兵士だけでも不安……専門家たる冒険者の力と知恵は必要となるかもしれません」
「つまり合同で当たると?」
「その通りです」
説明すればしっかりと理解してくれる。
エティケントはユリアナに頷く。
「どこに任せるか……これは問題でしょう」
「確かにそうですね」
「もしかしたら……」
「もしかしたら?」
「ゲウィル傭兵団も候補に上がるかもしれません」
あまり勧めたくはないが今はしょうがない。
「彼……イースラ殿は上級隊員でしたね。こうしたゲート攻略にも同行する可能性は大きいです」
嫌な役回り。
ユリアナが目を輝かせるのを見て、エティケントは内心でため息をつく。
「……姫様の許可がいただけるなら私が推薦いたしましょう。さらに安全のために私が同行してもいいかもしれませんね」
「エティケント様が?」
ユリアナは驚いた顔をする。
なんとなくだけどゲウィル傭兵団、あるいはイースラのことをよく思っていないのだと感じていた。
さらにこうした状況でもエティケントが動くことはこれまでなかった。
こんなふうに動こうとするのはかなり意外なことである。
「他の王子が動けば第二王子の立場はさらに悪くなるでしょう。ですが姫様なら純粋に民のために私を動かした……そのように見えるでしょうしね」
「……何かおありになったのですか?」
「そのように見られるのはやや心外ですね」
「ですがエティケント様がそのような……」
エティケントが政治的な立場からものを考えて発言することもまずない。
ユリアナが動けばどうなるか、なんてあまり気にしたことなどなかっただろう。
「……私も色々考えているのですよ。少しゲウィル傭兵団に対して態度が悪かった負い目もあります」
「……本当ですか?」
「私が姫様に嘘をついたことがありますか?」
「たくさんありますよ?」
「ですが本気で騙そうとしたことはありません」
あっけらかんとしているエティケントを、ユリアナは目を細めてじっと見つめる。
しかし穴が空きそうなほどに見つめても腹の中を読むことはできない。
「イースラ殿を見られるチャンスですよ? もしかしたら……姫様に感謝をすることもあるかもしれません」
「そ、そうですか? イースラ様が喜んでくれるなら……」
ユリアナは頬を赤らめてもじもじとする。
必要なのかもしれないが、やはり気に入らない。
「しかし約束は果たしますよ……」
エティケントはユリアナにバレないように小さくため息をついた。
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