食事会を抜け出して1
予選を勝ち抜いて本戦に出場しただけでもかなり頑張ったといえるが、本戦も上手いこと一つ勝つことができた。
イースラの中では十分すぎるぐらいの結果となった。
どうやらユリアナには目をつけられたみたいだし、ここまですれば上級隊員の先輩たちも文句はないだろう。
二回戦は別の大きなギルドから出場した人だった。
ギルド的にはライバル関係であり、頑張れという熱は感じたものの、割としっかりとしたオーラユーザーだったのでそのままイースラは負けることにした。
全力を出せば分からないが、ここで全力を出して後々動けなくなっても困る。
ほどほどに戦って負けた時に、またユリアナから黄色い声援が飛んでいたりしたのだった。
「一番、イースラ様ですね?」
負けたイースラが控え室に戻る途中で声をかけられた。
見てみると予選で白いカメラアイを持っていた執事の人であった。
「こちらを。大会後に行われます、食事会の招待状でございます」
執事はトレーを持っていて、トレーの真ん中には薄ピンクの封筒が置いてあった。
封筒の隅には王家の紋章の印が押してあって、イースラは平静を装って封筒を受け取る。
来るとは思っていたものの、ちゃんと招待状が来てホッとしていた。
王族からの招待状をそこらへんで開けるわけにもいかない。
イースラは招待状を大切に懐にしまって控え室に戻る。
「さてと……」
もう試合に呼ばれることはない。
気楽な立場となったイースラは控え室に置いてある料理に手をつけることにした。
試合前にお腹いっぱいになって動けないじゃ笑い話にもならないので、美味しそうな料理を前に我慢をしていた。
あとは後日開かれる食事会に行くのみなので、今は好きにしてもいい。
とりあえず片っ端から食べていく。
はしたないとか、プライドが邪魔する人もいるけれど、孤児院出身のイースラは食べられる時に食べておくという方が優先である。
出来るならサシャとクラインにも持って行ってやりたいところなのは山々だが、流石にそれはマナー違反なことは分かっている。
「美味かった……」
気に入ったものがあればそれを重点的に食べようと思っていたのに、全部美味かった。
お腹も満たされたのでイースラは控え室を出て観客席に向かう。
参加者用の観客席というのもあるのだけど、要するに負けた人が集まっている席ということになる。
言い方は悪いかもしれないが、試合が進めば勝った人負けた人が近くになることもある。
あるいはあいつが相手だったら勝ったのに、なんて思いも渦巻くことだろう。
言ってしまえば雰囲気が悪い。
だからイースラは別の観客席に向かった。
「おっ、イースラ!」
「よっ!」
向かう先とはもちろんゲウィル傭兵団に割り当てられた観客席である。
「お疲れさん!」
「ありがとう」
「君がイースラ君か。こうして直接話すのは久々だね。ゲウィルだ」
「あっ! イースラです!」
ゲウィル傭兵団のことは知っていたが、そのトップであるゲウィルに関してイースラはあまり知らない。
実際に顔を合わせるのも、入団の時に少しだけだった。
「話は聞いている。非常に有望な若者だとな。礼儀もしっかりしているようだ」
ゲウィルは目を細めて笑う。
「今はどんな気分だ?」
「今……ですか?」
「そうだ」
「えっと……」
不思議な質問をするものだなとイースラは思った。
今の気分としてはお腹いっぱいというところであるが、たぶん聞きたいのはそれじゃない。
「自分としてはよくやった方かと思います」
結果には満足している。
流石にこれ以上は目立ちすぎになってしまうので、いいところで終わらせられたはずだ。
「そうか。今ある結果を客観視して満足できる。とても良いことだ」
ゲウィルはポンとイースラの肩に手を置いた。
なんだか知らないけれど、すごく前向きに捉えてくれている。
「君のような存在は周りにも良い影響を与える。一勝したのだ、あとで君には何か褒美を与えよう」
「ありがとうございます!」
「あとは……何かあったりしたかな?」
「……はい。招待を受けました」
何かというのが何なのかイースラはすぐに察した。
「君のことを気に入っているお方もいたようだし、当然の話か。ウチとしてもちろん残ってほしいが、向こうも君ほどの人材ならば欲しがるだろう。どうなって君の意思は尊重しよう」
懐の深い良い人である。
もしかしたらこうして良いところを見せておいてイースラを引き止める作戦かもしれないが、今のところ割と成功である。
「……それとあの子は知り合いだろ?」
ゲウィルがイースラに顔を寄せて声をひそめる。
あの子とはサシャのことである。
今イースラも気づいたけれど、サシャはブスーッとした顔をしていた。
一目で不機嫌であると分かった。
「俺に聞かれても分からないぞ」
「俺もだよ」
イースラは何で不機嫌なのかという視線をゲウィルとクラインに送るけれど、二人とも知らないと答える。
「だが君絡みだ。君がどうにかしなさい」
「……人生の先輩として何かアドバイスは?」
「俺は妻と子に愛想尽かされて逃げられた身だ。アドバイスは期待するな」
「たぶんだけどさ、あのお姫様のせいだよ」
クラインはサシャに聞こえないようにと口に手を添え、声をひそめる。




