交流大会本戦4
「ブルームスが目をつけていると聞いていたが……ズルいものだ。あのような面白いものがあるなら教えてくれればいいものを」
ゲウィルはニヤリと笑った。
ただ笑っただけなのだが、怖い顔してるなとクラインは思っていた。
「にしても……」
「ん?」
「なんで不機嫌そうなんだ?」
クラインが肩身狭く感じていた理由がもう一つある。
なんだかサシャがすごく不機嫌なのだ。
試合が始まる前はイースラを応援するのだと意気込んでいたのに、今は鈍いクラインにも分かるほどのイラつきを見せている。
「きゃー! イースラ様ー! 頑張ってください!」
「何あの女……」
サシャが不機嫌な原因はユリアナだった。
明らかにイースラの名前を出して、イースラのことを応援している。
誰なのかは知らないけれど、なんだか鼻につくと思っていた。
ギルドのトップ、そして不機嫌な女友達。
両者に挟まれてクラインは試合にも集中できないのだった。
「ぐふっ!」
イースラの掌底がクルーンの胸を突いた。
ただの掌底ではない。
魔力が込められた掌底は一瞬クルーンの胸にイースラの手形を残すほどだった。
「こ、この……」
イースラが剣を振るたびにクルーンの体に切り傷が増えていく。
戦闘が継続可能なら止められることはなく、ただただ追い詰められていく。
「はっ……ぬぅっ!」
イースラが掌底の構えを見せるとクルーンは体をびくりと反応させた。
まともに食らったら体の中に衝撃が広がり、内臓が直接殴りつけられたようなダメージを負うことが分かってしまったのだからしょうがない。
けれども掌底はフェイクだ。
イースラは素早く剣を振ってクルーンの首を斬りつけた。
防ぐこともできなくてクルーンの首から血が飛ぶ。
イースラは審判のことを確認するが、これでも止める気配がない。
そうなると本当に殺してしまわねばならなくなってしまう。
ルール上相手が死んでしまうこともありうる。
故意に殺害でもしない限りは許されるし、故意かどうかなんて判断も難しいのでよほどの場合でなければ事故とみなされる。
でもなるべく相手を殺したくはない。
「まあ……しばらく入院でもしてもらうか」
クルーンも降参するつもりはないらしい。
力の差はわかっているはずなのに、子供相手だから意地でも諦められないのだろう。
「これで……終わり!」
剣を弾き返して、掌底をクルーンの胸に決める。
最初よりもオーラを込めた一撃。
見た目には子供の張り手で、ダメージなど大きいようにはとても見えないだろう。
しかし込められたオーラがクルーンの体を駆け抜け、体の中に強い衝撃を与える。
「ガハッ……」
クルーンが口から血を吐き、イースラは素早く下がって吐血を回避する。
「この……ガキ…………」
胸を押さえるクルーンは充血した目でイースラを睨みつける。
これで倒れないなら本当に命の危険が出てくる。
「なにも……の……」
これだけフラフラなら一発ぶん殴ってやろうかなと思っていたら、クルーンは再び血を吐いて白目を剥いて倒れた。
「しょ、勝者一番……」
ピクリとも動かないクルーンは誰がどう見ても戦闘不能である。
審判がイースラの勝利を宣言する。
「勝っちゃいましたよ!」
ユリアナは嬉しそうな顔をしてエティケントのことを見る。
直前までムッとした顔をしていたエティケントは、ユリアナが振り向くのを感じて爽やかな笑顔を浮かべる。
「ええ、すごいですね」
相手もオーラユーザーだった。
ギルド内での戦いは配信でもあったし、身内の戦いであるので信用できないところがあった。
しかし今は実際に目の前で、全く関わりのないオーラユーザーを倒してしまったのである。
イースラの実力を認めざるを得ない。
掌底で相手に直接オーラを叩き込むなんて、戦い方もかなりユニークだと感心してしまう。
「ああっ! 今こっちに向かって手を振ってくださいませんでしたか!?」
ともかく応援してくれていることはイースラも分かっている。
よかったら招待してくださいという意味も込めてユリアナの方に手を振っておいた。
配信におけるファンサービスと似たようなものである。
ただそれでサシャがより不機嫌になっていることをイースラは分かっていないのであった。




