交流大会本戦2
「勝ちすぎるなってのもなかなか難しいことを言うよな」
ブラームスと別れて控え室に向かう。
イースラが控え室に入ると、何人かがイースラのことを見る。
普通なら軽く相手を確認して終わりだろうが、イースラに向けられた視線はなかなか外れない。
「そりゃ子供入ってきたら気になるよな」
むしろイースラに向けられる視線が増える。
出場者とも思えないような子供が来たら気になるのは当然の話である。
しかし今回はちゃんと出場者の証である番号付きの布を腕に巻いているので、迷子だろうと絡んでくる人もいない。
「ん?」
イースラが控え室に入ったすぐ後に別の人も入ってきた。
どこかで見覚えがあると思ったら、手に白いカメラアイを持っていた。
交流大会の予選の時にイースラの戦いを配信していた執事風の人である。
「……映されてる? まさかな」
執事は部屋の隅に立ってカメラアイを部屋の中に向けている。
画角的には控え室を広く撮っているようにも見える。
ただなんとなくイースラは画角の中心に自分がいるような気になっていた。
「んー……」
イースラは少し横に移動してみる。
すると執事はカメラアイを少し動かす。
今度は逆に動いてみる。
すると執事はイースラに合わせてカメラアイの向きを調整する。
「やっぱり……俺か?」
交流大会予選の時から考えるとカメラアイで配信されている対象は自分だとイースラは考えていた。
ただイースラが王族専用カメラアイで配信される理由はわからない。
子供だから物珍しくて、という理由は考えられる。
しかしわざわざ予選から目をつけられていたなんて不思議でたまらない。
本当は偶然なのだけど、今のイースラがそれを知る由もない。
「一番の方、試合となります」
心の準備も何もあったものではないが、一番という番号を引いてしまったので仕方ない。
呼ばれたイースラは係員についていく。
そしてそのイースラの後ろを執事がついてくる。
もはや確定である。
「すごいな……」
会場となっている場所についた。
真ん中に大きなステージがあり、今はそれが四分割されている。
そしてステージは観客席で囲まれている。
これが城の一部としてあるのだから驚いてしまう。
多くのカメラアイもステージに向けられて設置してあり、観客である人たちが放つ独特の空気感があった。
正直イースラとしてはあまり緊張していない。
ネヴィル傭兵団を背負っているものの、イースラに本気で優勝を期待している人なんていないだろう。
本戦に出た時点でよくやったというところで、負けても文句を言われることもない。
要するに勝てば褒められ、負けてもお咎めなしの気楽な状態なのだ。
それに予選の感じを見るに、組み合わせが良ければオーラユーザーでなくとも勝ち抜ける。
逆を言えば負けた上級隊員のようにオーラユーザーでも、組み合わせで強い人にあたれば本戦に出ることができないのである。
勝ち抜いていけばきっとオーラユーザーばかりになるだろうが、一回戦はオーラユーザーでない人と当たる確率も十分にあった。
「王族は……」
あくまでもイースラの目的は王族の招待だ。
今でも目をつけられているならかなりの確率で目的は達成できていると思うが、もう一押ししておきたい。
「あっ! 目が合いました!」
王族を見つけるのは簡単だった。
みっちりと座る観客席の中で、そこだけ周りからぽっかりと穴が空いたように人が少ないからだ。
イースラが目を向けるとユリアナと目があった。
気のせいでもなんでもなく、ユリアナが熱心にイースラのことを見ていたのである。
イースラと目が合うとユリアナは嬉しそうに手を振っていた。
今回ではまだ顔を合わせたことはない。
なのにどうしてそんなに友好的に手を振ってくれるのか分からずイースラは困惑してしまう。
「ユリアナはともかく……なんでエティケントはあんな顔……」
ニコニコとしているユリアナを見れば、カメラアイで見ていたのはユリアナなのかなと思った。
ただユリアナの隣に座るエティケントの表情は固い。
イースラのことを冷たい目で見ている。
回帰前のイメージでは二人の印象は逆だった。
ユリアナはあまり笑顔を浮かべなくてクールな印象があった。
対してエティケントはいつも柔和な笑みを浮かべていて、人当たりもいい。
そんな感じだったのに今は二人とも真逆である。
なんでエティケントにそんな冷たい目で見られるのか理由も想像できない。
「ま、まあ今は目の前の戦いに集中するか……」
ほんのちょっとショックではあるが、分からないものを考えても仕方ない。
負けてもアピールになるような一戦にしたい。
イースラの相手は体つきのいい中年の男性だった。
装備の感じから推測するに傭兵とかそんな雰囲気がある。
見た目だけの印象で戦ったら、イースラに勝てる要素などない。
「ガキが相手か……どうやってここまできた?」
「実力。当然だろ?」
貴族のガキが自分に箔でもつけるために汚い手を使ったのかもしれない。
男はそう考えていた。
交流大会の本戦にまで残ったことがあるというだけでも、ある程度の力があると誇示できる。
「本当に実力だとしたら大会の質も下がったものだな」
「確かに、俺もそう思うよ」
子供というだけで相手を見下す奴がまだ残っているのかとイースラは男とは別の意味で同意する。




