交流大会本戦1
「期待はしていた。だが本当に予選を突破するとはな。運の要素が大きいとはいえ……よくやったな」
イースラは交流大会の予選を突破した。
しかしイースラ以外で選ばれた上級隊員のうち二人が予選で落ちてしまった。
予選は無作為に選ばれた四人で戦った。
二回目は一回戦を突破した人から四人選ばれるので少しキツくなる。
ただ一回戦にしても二回戦にしても対戦相手はランダムに選ばれる。
楽に終わる可能性もあれば激戦になる可能性もあるのだ。
イースラは比較的楽な組み合わせだった。
オーラユーザーはいなかったし、腕前そのものもさほど優秀な相手ではなかったのである。
それでも三人ずつ、合計六人を相手にして勝ち残ったのだから、かなり良くやったと言ってもいい。
予選を突破したら次は本戦である。
本戦は王城で行われ、ここでもし優勝まで勝ち抜けば色々ともらえたり栄誉が手に入る。
ギルドの中でもおそらく二つぐらいは役職を飛び越えることになるだろう。
王城ともなると流石に誰でも入れるとはいかない。
直接見ることができる観客として入れるのはギルド関係者、参加者が持っている招待枠、あるいは王族から招待された人ぐらいである。
イースラの招待枠は当然サシャとクラインに使った。
今頃ギルド関係者枠で入ってるゲウィル傭兵団の人たちと一緒にいるだろう。
役職の高い人ばかりなので緊張はしているかもしれない。
「組み合わせにもよるが、ここで一つでも勝てたら……お前が上級であることに文句をつける人はいなくなるだろうな」
一方でイースラは参加者として来ている。
ただやはり子供という信頼の無さがある。
予選の時はマジュエットが会場まで送ってくれたが、今回はブルームスが保護者役であった。
「予選を勝ち上がったことでお前に注目している奴も多い。俺が先に目をつけたこと忘れるなよ?」
ブルームスが保護者をやっているのは、押し付けられたからではない。
自ら立候補したのだ。
ギルド内での選抜に選ばれた時点でイースラへの注目度はだいぶ高くなっている。
あまり勧誘に積極的でない人まで、イースラに関心を寄せ始めていた。
正直な話では、ブルームスはイースラが自分の下に来て欲しいなと思っていた。
せっかく先に目をつけて、関係を持っていたのに他の人に余計な手出しされるのは面白くはない。
こうしたコツコツとした活動が、スカウト成功の秘訣なのである。
「もちろんですよ」
先に話しかけたからなんだという思いがないわけではないが、先に目をかけてもらった恩は多少ある。
「まずはくじ引きだな。ステージは四分割で四試合同時に進む。ある程度進むと二分割二試合同時、そして一試合ずつになっていく」
門の前で参加者が並んでいる。
一人ずつくじ引きをして、紙に書かれた番号が自分の番号となる。
そして自分の番号が書かれた細長い布を渡されていく。
くじを引いて番号の布を受け取るだけなので列はサクサクと進んでいく。
「ええと、参加者様のお名前は?」
「俺ではない。この子だ」
イースラの番が来たのだが、受付が見ているのはブルームスの方だった。
ブルームスと並んでいればそうなるよなとは思うけれど、それならイースラがこんなところにいる意味まで踏み込んで考えてほしいものだ。
しかしブルームスは大隊長にまでなった実力者であり、交流大会には参加しない。
ブルームスが肩に手を置いて、ようやく受付はイースラの存在に気づいた。
「ディラインハルトギルド会場、ゲウィル傭兵団のイースラです」
「あ、はい……」
イースラが登録情報を告げると受付は慌ててリストを確認する。
「確かにイースラ様ですね。くじをお引きください」
名前がリストにある以上、受付が疑問を挟む余地などない。
テーブルの上には三つの箱が置いてあり、好きな箱から一つくじを引くようだ。
どれでも変わらない。
イースラは真ん中の箱に手を突っ込んだ。
最初に手に触れた紙を取り出して、受付に渡す。
「一番ですね」
「ははっ! 分かりやすい数字が出たものだな」
何百人といる中で、まさかそんな数字を引き当てるとはイースラも驚いた。
1と数字の書かれた長い布を受け取る。
布をどうするかは人それぞれだが、戦う前なんかには確認されるために分かりやすい場所につけておかねばならない。
腕や手首に巻いたり、腰につけている人もいる。
イースラも邪魔になりにくいように腕に巻いておいた。
「参加者の控え室はそっちだ。そこまでは俺も入れない」
「じゃあ……ありがとうございました」
「ふっ、頑張れよ。だが……あまり勝ちすぎるな」
ブルームスはニヤリと笑ってイースラの肩に手を置いた。
活躍してほしくはある。
自分の目は間違っていなかったのだと周りに知らしめてほしいような思いがある一方で、活躍しすぎて周りの興味を引きすぎるのも良くはない。
ギルドとしてイースラのことを守るつもりではいるが、あまりに注目されてしまうとどんな問題が起こるか分かったものではないのだ。
ほどよく活躍してくれるのが一番である。




