交流大会予選7
「きゃーーーー! 勝っちゃいました!」
イースラの勝利に沸き立つ観客が一人。
エティケントは、想像もしていなかったユリアナの歓声に耳をやられていた。
見事なものだとエティケントも感心してしまう。
自身が想像していた動きを上回って、イースラは一人で三人を倒してしまった。
想像をはるかに上回る実力をしている。
ユリアナが執着して探し出したのにも納得してしまう。
ゲウィル傭兵団で見たものが本当なら、イースラはまだオーラという奥の手も隠している。
相手がランダムな以上確実なことは言えないが、イースラが予選突破する可能性は高そうだとエティケントも見ていた。
「どうですか! すごいですよね!」
最近、王女らしく品格を備え、大人しくしていたユリアナがただの女の子のように騒ぎ立てている。
大人しくなったことはいいのだが、ほんの少しの寂しさもあったりした。
だがやはりこうしたところを見ると変わっていないのだなと笑ってしまう。
「イースラさん、強いです!」
ただ一つ気になることがエティケントにはあった。
ユリアナの顔が赤っぽいと思った。
興奮しているから、と言われればそうも見えるのだけど、それにしては応援にも熱が入っている。
「カッコ……いいですね」
だがエティケントはユリアナの顔が赤いのには別の理由があると思った。
ユリアナぐらいの年代の子にありがちな憧れ、あるいは憧れから来る甘酸っぱい感情かもしれない。
(イースラと言いましたね……消してしまいましょうか)
エティケントの中にもこれまであまり感じたことのない感情が湧き起こる。
こんなに感情に揺り動かされるのは久々だと自分でも思う。
「いけない……このようなことを考えては……」
冷静になろうと自分に言い聞かせながらエティケントは配信画面を見る。
分かってか、分からずかイースラがカメラアイに向かって微笑んだ。
それにユリアナがまた悲鳴のような黄色い声を上げる。
「……あのガキ……」
「エティケント様? お紅茶が……」
エティケントが手にしているカップの中身が凍りついていた。
「あ、ああ、少し考え事をしていました」
エティケントは笑顔を浮かべて凍りついた紅茶に指先で触れる。
すると氷がみるみる溶けていき、また熱々の紅茶に戻る。
「珍しいですね、エティケント様が」
「少し宝石に近寄る虫について考えていたもので」
「宝石に近寄る虫……? また何か難しいことを考えてらっしゃるのですね」
「ええ、とても難しいです」
エティケントは熱さを取り戻した紅茶を一口すする。
「……私がこのような問題に頭を悩ませることがあるとは」
エティケントは小さくため息をつく。
「予選ではもう一つ試合があるのですよね? 楽しみです!」
「もし勝ち抜いたら……お呼びになるつもりですか?」
「はいっ!」
ユリアナは屈託のない笑顔を浮かべる。
「お話聞いてみたいです! エティケント様も気になりませんか?」
「…………そうですね。私も気になります」
またしても紅茶の温度が急速に下がっていく。
ユリアナにバレないように慌ててエティケントは紅茶の温度を上げる。
「あの人に言われたことがこんな時に理解できるとは……面白いものですね」
エティケントは波打つ紅茶を眺める。
その後イースラは次の交流大会予選も勝ち抜いて、本戦出場を決めたのであった。




