交流大会予選5
控え室はイースラがいる部屋以外にもあるようで、思いの外参加者多いようだ。
大型ギルドは参加者を制限しているが、それ以外においてはほぼ制限などないのだから当然の話である。
控え室は全部四つ。
それぞれの控え室から一人ずつ呼ばれて、合計四人が連れていかれる。
ディラインハルトギルドのギルドハウスの中には大小様々な部屋があり、剣を振り回せるような訓練室もいくつかある。
四人集められた交流大会参加者はこうした訓練室に通された。
「今から四人で戦っていただきます。勝ち残った一名が次の戦いに進めます」
ディラインハルトギルドのギルド員が簡潔に説明する。
交流大会本戦は一対一で戦うトーナメント方式であるが、予選は人数を絞るために無作為に選ばれた四人で戦う勝ち残り戦であった。
「配信も……されてるのか」
訓練室の中を見ると持ち手のついたカメラアイを持って撮影している人がいた。
予選の戦いも配信するようだ。
本戦はヒーラーが置かれて自分の武器で戦うが、予選では大きな怪我のリスクを下げるために木製の武器を使う。
ただ木製でもかなりの種類の武器が用意されている。
長さや重さの違う木剣がズラリと並んでいて、極力自分の普段使っているものに近いものを選べるようになっていた。
「ん?」
イースラを含めた四人がそれぞれ武器を選んでいると部屋に人が入ってきた。
ギルドの人っぽくない身なりのいい執事のような男性で、手には白いカメラアイを持っている。
「あれは王族の……」
男性の正体についてイースラは知っていた。
正確には男性が誰なのかは知らないのだけど、手に持っている白いカメラアイについて知っているのだ。
カメラアイは基本的黒色なのだけど、時々他の色にカラーリングされたものや紋章のようなものが入った特殊なカメラアイが見られることがある。
それはいわゆるVIP専用のカメラアイである。
独自の色に染めたり、家紋をカメラアイに載せておいたりできるのだ。
この国において、白のカメラアイが使えるのは一ヶ所だけ。
ブリッケンシュト王族だ。
「王族がわざわざ見てる……? まあ、気まぐれかな?」
交流大会を見るにしてもちゃんとカメラアイがある。
適当に気になった試合でも見ればよくて、わざわざ人を派遣して配信させる必要はない。
何か理由があるのかなと普通は思うところだけど、王族がやることに理由なんてない場合もある。
深く理由を考えるだけ疲れるだけなので、イースラは気にしないことにした。
「さてと……どうするかな?」
正方形に区切られた中で戦う。
それぞれの辺の真ん中に立たされて、試合開始を待つ。
「俺から来るか……それとも俺は無視か」
明らかに四人の中でイースラは子供だと見下されている。
簡単に倒せる相手だと思われているのだから、最初に倒してしまうか、あるいは最後に軽く倒してしまうかだろう。
どちらでもイースラにとっては変わりなく、どっちでもいいと思っていた。
強いて言うならば後回しにしてもらったほうが楽である。
カメラアイの向こうではサシャとクラインも見てるのかなとイースラはチラリと視線を向ける。
大きな目玉のようなカメラアイと目があったけれど、こんな予選の一試合を眺めている暇な人はいないだろう。
「まあなんにしても……全員倒せばいいか」
ーーーーー
「いよいよ始まりますね! こうした時にはお菓子とお茶がいいと聞きましたので用意しました!」
「……それは大変よろしいのですが、昨日出した宿題はどうなりましたか?」
「朝全部終わらせました」
「普段からそれぐらいやる気を出していただければ嬉しいのですがね」
エティケントは目の前に置かれた紅茶を軽く口に含む。
ユリアナに長く仕えている侍女のハルシーの淹れた紅茶は、美味いものだとエティケントも認めている。
ユリアナは真剣な目をして配信を見ている。
「先日の彼ですか」
「はい、そうです! いつ出てくるか気になっていたので調べてもらったんです」
「よく調べられましたね」
「何事にも方法はある。そう言ったのは先生ですよ」
「ふっふっ、覚えていてくださって光栄ですよ」
勝利を収めたイースラが交流大会の予選に出てくるだろうことは、エティケントも分かっていた。
しかしまさかどこの会場に行くのか調べ上げて、直接カメラアイを送り込むなんて行動力には驚いてしまう。
とんと忘れていたが、お転婆娘だと最初に紹介されたことを思い出す。
体を動かすのが好きで、頭が良くて抜け穴を見つけるのが上手い。
意外な行動力を発揮することもあるのだけど、ここでまたそんなものを出してくるとは思っていなかった。
せいぜい配信を探し出してくる可能性はあるぐらいだと考えていた。
ここ最近おとなしく、真面目に授業を受けていたのもこのためだったのだろう。
少しぐらいはいいじゃないかと言われればエティケントも弱い。
宿題も終わらせたと言うのならユリアナを咎めることもなかった。
「始まるのですか?」
「はい!」
ユリアナが画面の共有をしてイースラの姿が映し出される。
イースラはまだ子供なのに非常に落ち着いた態度に見える。




