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異世界ダンジョン配信~回帰した俺だけが配信のやり方を知っているので今度は上手く配信を活用して世界のことを救ってみせます~  作者: 犬型大


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観戦者

「ふふふ……」


「楽しそうですね、姫様」


 王城の一室。

 開け放たれたドアから大きな杖を持った白髪の男性が入ってきた。


 大きな杖を持ち、白いローブをきた男性はエティケント。

 椅子に背筋正しく座って空中を眺める王女のユリアナに優しく声をかけた。


「あっ……もうお時間ですか」


「何を見ておいでなのですか?」


「少しばかり配信を」


 ユリアナは何もない虚空を見つめて笑っているのではない。

 配信を見ていた。


 画面が共有されていないのでエティケントには見えていなかったのである。


「なんの配信を見てらしたのですか?」


 珍しいこともあるものだとエティケントは思った。

 配信といえば血生臭いものが多い。


 ユリアナはそうしたものを好まないので、配信なんてものを見ないで本でも読んでいることが多い。

 最近のんびりと見れるものを見つけたと言っていた気がするけれど、エティケントもあまり配信というものに興味がなかった。


「ちょっと待ってくださいね」


 ユリアナは手を伸ばして配信画面を操作する。

 するとエティケントにも画面が見えるようになった。


「これは……なんでしょうか?」


 人が多く映っている。

 何かのステージのようなものが見えていることはエティケントにも分かる。


「交流大会が近々ありますよね?」


「ええ、そうですね」


「その大会に出るための選抜大会? みたいなものらしいです」


「大型ギルドが誰を交流大会に出すのか選んでいるところですか。……あの紋章はゲウィル傭兵団ですか」


 画面の端に映った紋章からどのギルドのものなのかエティケントは見抜いた。

 そういえばそんなことをやっていたな、とエティケントはゲウィル傭兵団のことを記憶から引っ張り出していた。


「何が面白くて?」


 何を見ているのか分かったが、なぜ見ているのかは分からない。

 ギルド内部で手合わせしているならば血生臭さはいくらか少ないだろう。


 しかしユリアナが好むような配信でないことは確か。

 それを穏やかに楽しそうに見ているなんてとてもじゃないが信じられない。


「ああ、実は!」


 ユリアナは興奮したような目をしている。


「ええと……先ほど終わっちゃったのですが……映るでしょうか?」


 ユリアナは画面を熱心に見つめている。

 映るかどうか分からないようなものを探しているなら、うつるとしても短い時間だろう。


 見逃さないようにとエティケントも画面を見つめる。


「あっ! この人たちです!」


 ステージの上での試合が終わって周りの様子が映し出された。


「傭兵団にしては珍しく若いですね」


 画面に映し出されたのはイースラたち三人であった。

 思わずエティケントも小さく驚く。


 ゲウィル傭兵団は実力主義である。

 そのために年齢を問わずに加入できるものの、あまりにも若いと実力は入団水準に達しないことがほとんどだ。


 それなのに三人も若い隊員がいることに驚いたのであった。

 すぐに画面は切り替わってしまい、よく見えなかったものの、ユリアナの年齢にも近そうだと思った。


「すごいんですよ! 三人とも!」


 ユリアナは目をキラキラとさせている。


「なぜそのような興味を持たれたのですか?」


 年が近いから気になった。

 少しずつ理解が進んでいく。


 ただまだまだ完全な理解には遠い。


「私と多分年が近いのに、みんな一勝ずつしちゃったんですよ!」


「ほぅ」


 実力者揃いのゲウィル傭兵団はたとえ仮入団でもレベルが低いわけじゃない。

 子供でも勝ったというのなら素直にすごいことだとエティケントも感心する。


「姫様もそろそろ専任騎士が必要ですからね。気に入ったものがいれば声をかけてもいいでしょう」


 交流大会には、良い人をスカウトするための人材発掘の場であるという側面もある。

 たとえギルドに所属していようと声をかけるだけなら問題にはならない。


「おや? 先ほどの子がまたステージに」


 画面を見るとイースラが戦うところだった。


「なっ……! この子、オーラユーザーなのですか!」


 イースラはフリゲーラと戦い始めた。

 オーラをまとっている姿を見てエティケントは目を見開く。


「ふふん、すごいでしょう? しかもこの子は上級隊員らしいですよ!」


「上級隊員? ということは交流大会に出る可能性も……」


「さらに私、気づいちゃったんです!」


「気づいた?」


「この人たち例のお料理配信の子たちなんです!」


「お料理……配信……」


 どこかで聞いたことがあるような気がするが、パッとお料理配信とやらが思い出せない。


「もう! 少し前にお教えしたじゃないですか! 文字通りお料理の配信している子たちですよ」


「そういえばそんな話していましたね。先ほどの子が……その料理をしている?」


 イースラたちの料理配信は血生臭さなど皆無である。

 せいぜい生肉が映る程度だ。


 実は配信視聴者の中にはユリアナもいた。

 パトロンしたこともあるぐらいのファンであった。


 だからこそユリアナはイースラたちのことに気づいたのである。


「……勝ってしまった」


 そうしている間にイースラはフリゲーラに勝利していた。


「これはすごいですね」


 気に入っている配信に出ている年齢の近い子が、自分たちよりも年上の相手に勝利を収めている。

 ユリアナがどうして興奮しているのかエティケントにも理解できた。


「この子たちは交流大会に出るのでしょうか……」


「どうなんでしょうか? 来てくれたらご招待したいですね!」


「ぜひそのようになされた方がいいでしょう。引き抜けずとも関係を持っておくことは得策だと思います」


「なら!」


「ダメです」


「まだ何も言ってません!」


 ユリアナがパッと明るい顔をした。

 何をいうのかエティケントは先に察した。


「直接会いに行こうとでもお言いになるつもりだったのでしょう?」


「うっ……」


 ズバリ言い当てられてユリアナは渋い顔をする。


「第三王子のこともあります。今は大人しくしていてください」


「でも大魔導師のエティケント様がご一緒なら……」


「それでもです」


「むむぅ……」


 ユリアナは残念そうにうなだれる。


「仮に交流大会に来なかったら会いに行ってみましょうか」


「本当ですか!」


「ええ、その頃には第二王子も戻ってきているでしょう」


「約束ですよ!」


 ユリアナがこんなふうに屈託なく笑うのは久しぶりだとエティケントは目を細める。


「約束です。ですが……あの子は会えるような気がします」


「エティケント様の勘ですか?」


「ええ、そんな気がするのです」


 エティケントは画面を見る。

 イースラの姿は映っていないけれど、もはやエティケントの印象の中にはイースラの姿しか残っていないのだった。

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