勝ち残れ!6
「コトゥーにも勝ったようだし……噂はただの誇張ではなかったのね」
「いえ、たまたまですよ」
「そうなの? でも悪いわね。私、偶然ってやつは信じないの」
油断してくれたらなと思ったけれど、フリゲーラはイースラのことを見下したような目では見ていない。
しっかりと敵として見ている。
「ここで私の実力を証明してみせる。悪いけどあなたには……踏み台になってもらうわね」
それでもイースラに勝てるとフリゲーラは信じて疑っていない。
負けると思って勝負に挑むことはないだろうが、どこかでイースラのことをみくびってはいるようだ。
それでいいとイースラは心の中で思いながらも、表情はやや硬めに保っておく。
「それじゃあ行くわよ!」
フリゲーラがオーラを放つ。
黄色にも近い明るい緑色のオーラをまとう。
コトゥーはオーラをほぼコントロールしていなかった。
ただ放っていただけで、オーラの扱いとしては最低レベルだった。
対してフリゲーラはオーラを体の近くに留めてまとおうとしている。
イースラから言わせればまとうというレベルにすら達していない。
コトゥーと比べればマシというぐらいだ。
だが笑えたものではない。
オーラを扱うことは難しく、オーラを発現してもオーラを扱う才能がないなんて人もいる。
掴みようもないオーラをコントロールすることは、途方もない集中力と努力を必要とする。
オーラを発現することは急に山に放り出されるようなものだ。
何も分からないのにただ山に登らされるのだから、難しくて当然なのである。
クラインやサシャについては呼吸法を通じて魔力を集め、オーラを発現させるという山の麓からゆっくり登っていくような方法をとっているので慣れるのも早かった。
「はあっ!」
フリゲーラが一気に距離を詰めて剣を振り下ろす。
動くたびにフリゲーラの緑のオーラが大きく波打つように動く。
特に剣に魔力をまとわせているわけでもない。
コトゥーの時にも思ったがオーラを使えても、ただオーラのスタートラインに立っているだけのようだ。
そんなものかとイースラは内心で思ってしまった。
あまりオーラを綺麗にまといすぎて周りから警戒されても、今後活動がしにくくなる。
イースラも白いオーラを放つ。
フリゲーラに合わせるように自分の周りにオーラを留める程度にコントロールする。
「くっ! なかなかやるわね!」
イースラは無理することなくフリゲーラの攻撃を受け流す。
攻撃の基礎となる剣術は流石にレベルが高い。
決して油断できるものではない。
「この!」
イースラは防御に徹する。
たとえ女性でもオーラを使った大人相手では力で敵わないので、攻撃を受け流したり回避することに集中した。
剣を振るうたびにフリゲーラのオーラが不安定に揺れる。
「はぁはぁ……逃げてばかりじゃ勝てないわよ!」
フリゲーラは肩で息をし始めている。
苛立ったようにイースラのことを挑発するけれども、イースラはそれでも防御で耐える。
そろそろだなとイースラは思った。
「うっ!」
剣を受け流して、そのまま反撃でフリゲーラを狙う。
素早くコンパクトに振られた剣をフリゲーラはなんとかかわしたけれど、剣先が頬をかすめた。
その瞬間フリゲーラのオーラが大きく揺れ、拡散して消えてしまった。
「今だ!」
イースラは一気に攻撃を仕掛ける。
マジュエットから聞いていたフリゲーラの弱点は持続力だった。
フリゲーラはオーラの量が少なく、長時間オーラを保っていられない。
オーラを消耗してしまう瞬間をイースラはひたすらに待っていた。
予想通りフリゲーラはオーラを消耗して、イースラの些細な攻撃で完全にオーラを維持できなくなってしまったのである。
「ふっ! ううっ!」
オーラありのイースラとオーラなしの消耗したフリゲーラに大きな力の差はない。
「くそっ!」
フリゲーラはまたオーラを放とうとするけれど、戦いながらではうまく集中力を保てない。
イースラを包み込むような白いオーラは、イースラが剣を振ったとしても揺れることもない。
オーラの量が少なく持続力に問題があるのなら使い方を工夫すべきだ。
ずっとまとい続けるのではなく時に爆発させるように使うとか、あるいはもっと完璧に薄くまとって消耗を避けるべきである。
オーラを出そうとするたびにフリゲーラの体力はさらに奪われる。
戦うほどにフリゲーラは不利になっていく。
焦りがフリゲーラを安易な攻撃に導いた。
フリゲーラはオーラもなく、これまでのような鋭さもない鈍い一撃をみせた。
「なっ……」
フリゲーラの攻撃は受け流され、気づけばイースラの剣が首元に突きつけられていた。
「そこまで!」
「あっ……」
審判が試合を止める。
「勝者イースラ!」
文句のつけようもなく、イースラの勝利が宣言される。
周りの反応は様々だ。
イースラが勝ったことに喜ぶ人、驚く人、険しい顔をして見ている人などイースラの勝利は明らかにゲウィル傭兵団に新たな風を巻き起こしたのであった。
次の試合、イースラは適度なところで負けたものの、準決勝までの四人に入ったので交流大会に出場することになったのである。




