勝ち残れ!3
「あなたいー子ねー!」
勝ったけれど釈然としない。
そんなサシャの頭をメルターは笑顔で撫でる。
素直に勝ったと喜べばいいのに、真面目に考えちゃうところが愛らしいと思った。
「確かに私の方が強かったかもね。でもオーラを使った一撃はサシャの方が強かったんだよ」
「そうかもしれませんけど……」
「それともなに? 私が負け認めてるのに今更負けましたっていうの?」
「う……」
「勝ちは勝ち。たとえ実力的に負けていたとしても、一瞬の何かが勝負を逆転させることもある。今回はサシャが勝ったの。それでいいの」
「うぅ……わかりました」
メルターは負けたことを特に気にしている様子もない。
オーラが使えることも見せたし、剣の実力も確かなことは戦いを見ていれば分かる。
それにまだ余力もありそう。
周りに対して十分なアピールはできたということなのだろう。
底が見える前に引いてしまうというのも一つのアピール戦略だ。
過程はどうあれ、クラインもサシャも一勝した。
ただそう上手くはいかなかった。
次の相手は共に一級隊員で、二人は頑張ったものの負けてしまったのである。
それでも最後までオーラに頼らず戦い抜いたのは良い根性だったと思う。
「二人が頑張ったんだもんな。恥ずかしいところは見せられないな」
番狂わせなんてものはなく、順当に一級隊員の人が優勝であった。
次は本番とでも言おうか、上級隊員の番である。
イースラはトーナメントの最初の戦いに組み分けされた。
クラインもサシャも必死に戦ったのだからイースラが情けなく負けるわけにはいかない。
「コトゥー・コンドウッドだ。対戦よろしくな」
「イースラです。よろしくお願いします」
イースラの対戦相手は体格のいい男性だった。
顔は知らないが名前は知っている。
なぜならマジュエットから聞いているから。
「お前はオーラユーザーなんだってな? 奇遇だな。俺もオーラユーザーだ」
コトゥーの体から茶色っぽいオーラが溢れてくる。
最初からオーラも使って戦おうという意思表示だ。
おそらくコトゥーはラッキーとでも思っているだろう。
イースラが相手なら簡単に勝てる。
オーラを使ってさっさと勝負をつけるつもりなのだ。
「オーラを使って戦おうか」
「いいですよ」
イースラも対抗するようにオーラを見せる。
真っ白なオーラはキラキラと綺麗だなとサシャは思う。
「それじゃあいくぞ!」
オーラを爆発させるようにしてコトゥーは加速してイースラと距離を詰める。
「……!」
「なんだ?」
イースラの目の前に迫ったコトゥーが体を逸らした。
まるで何かをかわしたようだった。
「はっ……あのガキ……」
戦いを見ていたルーダイが顔をしかめる。
「魔力の殺気……やっぱ偶然じゃなかったか」
イースラが何をしたのか理解している人は少ない。
「くそっ……!」
コトゥーの懐に入り込んだイースラが激しく攻撃を仕掛ける。
背が高く、体格のいいコトゥーは自分の得意とする間合いで戦うことを非常に得意としている。
普通の人よりもやや離れた距離から力で押していくのがコトゥースタイルであり、イースラに対しても自分の距離に持ち込んで戦おうとしていた。
しかし逆に距離を詰められるとコトゥーは弱い。
体格の良さが災いして近い距離での戦いが苦手であるのだ。
そもそも懐に入られた時の対応もあまり練習していないとマジュエットから聞いている。
今のイースラの体格はコトゥーよりもはるかに小さい。
コトゥーが苦手とする近い距離がイースラの得意な距離である上に、イースラはもっと近くたって戦うことができる。
小回りがきくイースラはコトゥーに距離を取らせない。
明らかに対応力が不足していることをイースラは感じていた。
「ゔっ!」
コトゥーの足元が疎かになっている。
太ももを木剣で叩かれてコトゥーは痛みに顔を歪める。
何もしていない木剣で殴られても痛いだろう。
魔力が込められていたら相当な痛みがある。
それでもイースラは手加減していた。
本気なら木剣であっても足を切断するぐらいは可能なのである。
「このやろう! 離れやがれ!」
普段から自分の苦手を理解して対策しておかないからこうなるのだ。
あるいはイースラを舐めてなかったことも悪い。
子供だからと油断していたが、子供が懐に入ってくると意外と攻撃しにくいのは考えておくべきだった。
「ううっ!?」
イースラに距離を取らせようと大きく振られた剣をかわして、コトゥーの胴体を斜めに斬りつけた。
「そこまで! イースラの勝ちだ」
「なっ! まだやれる!」
思いの外あっさりとした勝負にコトゥーは不満をあらわにする。
「やれるのは木剣だからだ。今のが真剣であってみろ。お前は今頃血まみれで床に倒れていることだろう」
審判を務める男性は大隊長補佐隊員である。
ギルドの中でもかなりの実力者であり、見る目もしっかりとしている。
イースラが手加減の上でコトゥーのことを切ったことを理解していた。
足を木剣で叩かれた時点で実際の勝負なら決着が見えていたことだろうと思っている。
刃を立てた剣で斬っていたらかなりざっくりとした傷になっていたはず。
まともに戦える状態ではない。




