勝ち残れ!1
いつも使っている訓練所のど真ん中にステージが作られた。
大きな石畳を並べただけのちょっと高くなっているだけの簡易的なステージは、交流大会に出場する人を決める選抜大会のために設けられたものである。
交流大会に出る人を決めることが目的であるが、ギルド内での交流、あるいは実力を確かめたり、下級隊員は戦いを見学して経験に繋げたりと細かく見れば色々な他の目的もあった。
「頑張れよ、サシャ、クライン」
「うん、やるだけ頑張るよ!」
「見てろよ! お前に追いついてやるからな!」
下級隊員は交流大会に出ることはない。
しかしせっかくステージを用意して戦い合うのだから、下級隊員にも刺激を与えたい。
ということで下級隊員もトーナメント方式で戦うのである。
優勝すればちょっとした賞金も出るし、実力が認められれば今よりも昇級、うまくいけば上級隊員も狙える可能性がある。
サシャもクラインもやる気を見せている。
オーラを使えるのだし順当に実力を伸ばして、ギルドに認められれば上級隊員にもなれるだろう。
けれどやはりイースラに追いつきたいという思いはあった。
回帰前はただ人の背中を追いかけるだけだった。
こうして追いかけられる側になるというのも面白いものだとイースラは思った。
「オーラもありらしいけど、ギリギリまで使うなよ?」
「分かってるよ」
クラインは口を尖らせる。
オーラも立派な武器であるが、多用しすぎ、頼りすぎてもいけない。
今の段階でオーラばかり使って戦えば、剣の技術が疎かになってしまいがちになる。
オーラを使いすぎれば周りから様々な目でも見られる。
その目はきっと良くない感情のものである。
嫉妬や不満など多くの負の感情になってしまう。
必要なら使えばいいが、ここは剣の技術で戦うことも必要だ。
「クライン、行ってこい!」
「おうよ!」
まずはクラインの番だった。
相手は五級隊員。
退院の等級としては一番下となる。
すでに三級として認められているクラインが負けられない相手である。
「始め!」
優勝までは望めなくとも、下の階級の隊員にとって上の階級の隊員を倒せれば昇級のチャンスとなる。
クラインなら相手も倒せそうと狙えるようにも見えるだろう。
油断はできないぞとイースラは思った。
「はああっ!」
若い隊員はクラインに斬りかかる。
五級ということはほぼ入りたて、経験もないに等しい。
ただクラインもさほど変わりはない。
「はっ! やっ!」
クラインは相手の剣を受けると反撃を繰り出す。
経験にはそれほど差がないのかもしれないが、クラインにはイースラが直々に剣を叩き込んだ。
イースラとの手合わせを通じて比較的実戦にも近く鍛錬してきた。
ゲウィル傭兵団も成熟した組織で体系的な教え方をしているが、個々人それぞれを見て訓練してくれるわけじゃない。
イースラがサシャとクラインをしっかり見て教えてきたので簡単に負けるはずもない。
「くっ……くそ!」
明らかに年下のクラインの押されて若い隊員は悔しそうな顔をする。
よく見ればクラインの攻撃も粗が多くて反撃の隙などたくさんあるのだけど、相手も熟練度合いが低くて隙を見出せないでいる。
「このやろう!」
クラインが一方的に攻める展開になった。
若い隊員はなんとか防いでいたけれど、木剣が体を掠めたり完全に防げていない。
年下のクラインにいいようにやられることに苛立ちが募り、無理に反撃を試みた。
「待ってたぜ!」
クラインはニヤリと笑う。
激しく攻撃していたのもクラインの作戦で、相手が反撃してくるのを待っていた。
力量として大きな差がないことはクラインも分かっていた。
ただちょっとだけ上なこともクラインは感じていた。
攻撃の隙を突くほどに相手も上手くない。
となると相手が焦りを抱くことはイースラから言われいた。
正確にいうと攻撃を続けたり、防御を続けて糸口が見えなくとも焦らないようにと教えられていた。
反対に言えば同じような状況になったら相手が焦りを抱くということなのだ。
焦りを抱くのをクラインは我慢強く待った。
そして若い隊員は焦りで無理に反撃してきた。
「なっ! うぐっ!!!」
若い隊員は体格的な差を活かし、力でクラインの剣を弾き返そうとした。
オーラを使えば別だけど、何もなく逆らってもクラインの力では敵わない。
逆らわない。
クラインは上手く力を抜いて若い隊員の剣を受け流す。
対抗すると思っていた若い隊員は、クラインが力を抜いたことで体が大きく流れてしまった。
その隙をついてクラインは若い隊員の胴を切りつけた。
木剣なので斬れはしないが、思い切り切られたのでかなり痛いだろう。
「勝者クライン!」
「しゃあ!」
クラインは両手を振り上げて喜ぶ。
オーラを使わずとも五級隊員に勝った。
まだまだ体格的にも劣るのに、それでも勝てたのだから実力として少なくとも五級以上はあると言ってもいい。
「イェーイ!」
戻ってきたクラインとハイタッチして喜びを分かち合う。
何もなかった孤児院の少年が年上の青年に勝てたのだから成長を自分でも感じるだろう。
「次は私だね!」
クラインに続けと次はサシャの出番となった。




