先輩に認められよう2
「……なんか良いもんないな」
イースラも配信を漁る。
オルカーンの戦い方も参考にはなるが、もう回帰前に散々経験しているので今更見る必要もない。
イースラが配信を見るのは他の状況を知るためである。
配信を通して他国の状況やゲートダンジョンの状況を知ろうとしていた。
なかなか配信を見ているだけで外がどうなっているのかの把握は難しい。
けれども中には独り言や会話が多い人もいたり、噂話が好きな人で語る人や配信のコメントから分かることもある。
情報が得られそうな配信を見つけるのは簡単ではないが、こうしてコツコツと情報を集めておくことは大事だ。
イースラはこの時期ほとんど活躍らしい活躍はしなかったが、目立った噂ぐらいは聞いたりしたことはある。
配信を見てこんな話聞いたなと回帰前のことを思い出したこともあった。
イースラは配信者等級も一つ上のものなので、配信も二つを同時に見ることができる。
回帰前は二つ同時に見れてどうするんだと思っていたけれど、今は二つぐらいなら同時に情報収集できるのでありがたい。
「んん? ……あっ!」
「どうした?」
「びっくりするじゃない」
急に大きな声を出したイースラのことを、サシャとクラインが不思議そうな目で見る。
「あっ、いや、悪い」
一つ配信は固定して、もう一つ何かいいものはないかと探していた。
そんな時にある配信が目についた。
ブリッケンシュト王族チャンネルという配信者名で、配信を見ている人が結構多い。
それは名前の通り王族がやっている配信であった。
といっても王族の個人的な生活を見せるようなものではない。
普段は国政の状況や国におけるニュースなどを垂れ流しているつまらないチャンネルだ。
政治に興味があるような人でない限りは見るものではないが、時につまらない垂れ流し以外のものも見られることがある。
攻略が難しいゲートやモンスターの大量発生といった事態に対処するのに、国が出てくることがあるのだ。
軍を率いて一気にモンスターの討伐を行う。
今回もそうした大規模討伐が予定されていて、その出征の様子が配信されていた。
「エティケント……それにユリアナ……」
出征の様子に映し出されている人の中に、イースラは見知った顔を見つけた。
「ユリアナはいいとして……エティケント……こんなところにいたのか」
イースラが注目しているのは、配信の端に映し出されている白髪の男性であった。
白いローブを着ていて、大きな杖を持っている。
隣には金髪碧眼の少女が立っていた。
白髪の男性がエティケント、金髪碧眼の少女がユリアナである。
配信を見つめていると画面が移り変わった。
兵を率いるのは第二王子らしい。
王族がわざわざ出るまでもないのだけど、権力的なアピールや王子間の勢力争いのための功績のために王子が出ることもあるのだ。
エティケントもユリアナも少し映ってから、次に映ることはなくなった。
出征するメンバーではないようだ。
「……なに? 可愛い子でもいた?」
あまりにもボーッと配信を見ているものだから、サシャは訝しげにイースラの顔を覗き込む。
イースラが見ている配信はクラインのものと違って共有されておらず、サシャとクラインには見えていない。
「別にそんなんじゃないよ」
ユリアナは美人だった。
回帰前にイースラが出会った時点ですでに大人で、周りの人が振り向いてしまうほどに綺麗な人だった。
配信に映ったユリアナはイースラが記憶しているものより小さかった。
イースラが子供時代に戻っているのだ。
ユリアナも子供であっても何らおかしいことではない。
でもパッと見た感じでも整った顔をしていた。
やや幼さは強かったけれど、すぐに分かるぐらいの面影はあったのである。
ただ別にそんなこと言う必要はない。
「興味深い人がいたんだ」
ユリアナも注目すべき人である。
しかしイースラが注目していたのはユリアナではなくエティケントの方である。
「ふぅーん」
サシャは目を細めて疑うようにイースラを見る。
「……可愛いぞ、サシャ」
「なっ……」
イースラはフッと笑う。
軽い男になるつもりはないが、一度目の人生で思いは口に出さなきゃいけないことを知った。
それを分かっても口に出せなかった後悔もある。
多少の恥ずかしさなど後悔には及ばない。
言えるなら言ってしまえばいい。
子供らしい嫉妬も可愛いものである。
イースラに可愛いと言われてサシャは顔を真っ赤にする。
「ちぇっ……こいつらよぅ……」
クラインはイースラとサシャを見て渋い顔をしている。
「それにしてもエティケントが近くにいるのか……どうにかして会えないかな?」
思っても見なかった人を見つけた。
エティケントには会えるなら会いたいとイースラは思った。
「ただ難しそう……だよな」
イースラが今いる国はブリッケンシュトである。
そして今いる町はカルネイルである。
そしてブリッケンシュトの王族が住んでいるのは首都のカルネイルだ。
つまり出征式も実は思っていたよりも近くでやっていることになる。
ただ今はギルドに所属しているし自由な身ではない。
加えてエティケントのいた場所を見るにかなり王族に近いところにいた。
簡単に会えそうもない。
「……どうにかならないかな」
悩みばかりが増えていく。
イースラは小さくため息をついたのだった。
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