先輩に認められよう1
イースラがゲウィル傭兵団に来て半年が経った。
体力作りや剣の構え方、雑務など色々な経験を積んできた。
基礎的な訓練も真面目に受けて五級から一級の人たちとはだいぶ打ち解けてきていた。
やはりムジオをコルティーを始めとして、新人研修の時に助けたブルームスの息子であるソドイやソドイを神はしていた女の子のレレムなどが良くしてくれたおかげも大きい。
多くの人が一級止まりになるので、ギルドの中でもボリューム層である人たちに馴染めてきたことは大きい。
ただイースラにはまだ馴染まなきゃいけないところがある。
それは上級隊員の先輩たちだ。
イースラは兵士師団として、すでに上級で合格をもらっている。
五級から一級に混じって訓練を受けているのはギルドや仕事、周りに慣れるためである。
一応上級合格したものの、イースラはここまで上級隊員の先輩たちと関わることはほとんどなかった。
ある程度馴染めてきたら今度は上級隊員の先輩たちと仲良くなる必要もあるのだ。
めんどくさいが、円滑な活動のためにはやらねばならない。
「つったってなぁ」
「何ため息ついてんの?」
悩ましげな顔をするイースラの顔をちょっと体を屈めたサシャが下から覗き込む。
「んー? いや、先輩たちと近づく良い考えが浮かばなくてな」
「イースラにもできないことあるんだね」
サシャは目を細めて笑う。
最近のイースラはなんでもできてしまう超人のようだと、少し遠くに感じることもあった。
でも悩んで、どうしようもないと感じている姿を見ると自分とそんなに変わりないと思えた。
「できないことはいっぱいあるさ。だから悩むし、足掻くし、頑張るんだ」
今のところ上級隊員の先輩たちと接触する機会がない。
「ふぅーん」
イースラは時折ドキッとする顔をするとサシャは感じる。
なんというか、子供っぽくない大人びた憂いのあるような表情をするのだ。
「そこ、イチャついてないで手伝えよぅ!」
「うっさい! いいじゃん、あんたカメラアイ構えてるだけだし!」
イチャついていると言われてサシャが顔を赤くする。
今イースラたちがいるのはとある一軒家。
イースラが借りているものであるが、住むための家じゃない。
動画配信のための家である。
イースラたちがのんびり料理する配信はいまだに好評だ。
血生臭さがなく、平和的にのんびり見られる動画は今のところ貴重で価値が高い。
子供が頑張って料理を作るところも評判がいい。
イースラが毎回美味しそうに見えるように工夫しているので料理そのものを楽しみにしている人や、配信を見ながら酒を飲んでいるなんて人もいる。
愛の使者というハンドルネームの人も、相変わらずウイと言いながらパトロンをくれる。
視聴者もパトロンも見込めるのだからご飯作り配信を止めるなんて考えはない。
ただスダッティランギルドと違って、ゲウィル傭兵団では台所をこっそり使うなんてことは不可能だ。
そこで家を借りて、訓練なんかの隙に配信を撮影していた。
今も一本撮り終えた。
片付けられるものから片付けて作った料理を食べよう、というところである。
「まあ分かんないこと気にしてもしょうがないか。飯冷めるし、片付けて食べよう」
無理に近づいても嫌われるだけである。
時がくれば先輩たちとも交流することになるだろうし、その時に頑張ろうとイースラは思った。
「ええと……今日は……あっ、やってる」
クラインが今行われている配信を探している。
ご飯を食べながら配信を見るのもすっかり習慣となった。
マナーが悪いなんていう人もいるし、配信はいまだに血生臭いものがほとんどなので食事中はやめた方がいいという人もいる。
ただ配信は上手く扱えば学びになる。
ぼんやりと攻略している人の配信なんか見ても勉強にならないが、考えて攻略する人の配信は勉強になることも多い。
能力が低くとも工夫でどうにかしている人の動きはイースラも面白いと思う。
ただイースラがクラインに見ろと言っているのは別の人の配信である。
「オルカーン・テネヘス……相変わらずだな」
クラインがイースラとサシャにも配信が見えるように共有する。
画面に映し出されているのは一人の中年男性である。
顔はまだ中年に差し掛かったばかりといった老いが見え始めたばかりの感じなのに、短い髪は真っ白になっている。
イースラはオルカーンと知り合いであった。
今の知り合いではない。
回帰前の知り合いだ。
師匠とまではいかないがいくらか指導してもらったことがあるし、強くなるために手合わせに付き合ってもらったこともある。
オルカーンはオーラの使い方が上手い。
非常に研ぎ澄まされたオーラとコントロール技術は、参考にすべきところが多い。
オーラの使い方を教えてくれる配信ではないので、なかなか何かを得ることは難しい。
それでもオルカーンのオーラの使い方は、まだまだオーラユーザー駆け出しのクラインとサシャには見ているだけでも学びがあるのだ。
戦い方も普通に上手い人なので参考になるはずだと、オルカーンの配信がある時は見るようにしている。




