助けたのは2
「では何か欲しいものはあるか?」
「んー……今の所物で欲しいような物はないです」
欲しいと思う物はたくさんある。
優れた名剣や装備品、安定して支援してくれるパトロン、回帰前苦楽を共にした仲間たち。
他にもたくさんの視聴者や来るべき敵の情報とか欲しいと思うものはあるけれど、それをブルームスに言ったところで応えられないだろう。
強いて言えば武器が欲しいといったところではある。
けれども子供の今に良い武器を手に入れることは難しい。
普通の武器は基本的に大人の体格に合わせて作られている。
子供の体格に合わせたものを作ってもすぐに合わなくなってしまう。
ある程度体格に合わせつつ、それなりの武器を使って大きくなるまでは誤魔化していくしかない。
「じゃあ三つ……いつかお願いができたら三つ叶えてくれますか?」
「三つ?」
「魔物と戦って助けたこと、ポーション使ったこと、それと頑張る後輩へのボーナスだと思って」
イースラはニカッと浮かべる。
子供なら子供らしく、それも活かしておく。
「ははっ、分かった。三つだな。俺の力で叶えられることなら叶えてやろう」
「ありがとうございます!」
ブルームスも笑って受け入れる。
イースラの腹の中など知らずに子供の可愛らしいお願い程度に思っている。
何をお願いするのか決まっていないのでどんなものが待ち受けているのか分かっていないが、きっと簡単なお願いじゃないことはブルームスは知らない。
「君はどこに所属するのか決めているのか?」
「いえ、まだ決めてません」
ゲウィル傭兵団には四つの大隊がある。
本来なら五級、四級の仮入団の時期に能力や適性を確認し、三級から一級までの間に色々経験をして本人の希望や大隊からのスカウトなどでどこに所属するかを決める。
けれどもイースラは全てをすっ飛ばして上級隊員となった。
現在仮団員と一緒になって訓練を受けているが、どこの大隊に所属するのか考えておかねばならない。
「花形は第一大隊だ。だが第二大隊も負けてはいないぞ。正直な話では第三大隊は第一、第二に比べて一つ劣る。第四大隊は支援部隊だ」
全ての中から自由に選べるならば第一大隊か、第二大隊だろうとブルームスは思う。
「第一大隊はメインで色々とやるが、その分自由が少ない。大隊長も小難しい奴だ。第二大隊は多少第一大隊に譲るところもあるが、その分自由だ。俺は細かいことは気にしないぞ」
ブルームスはフッと笑う。
確かにブルームスなら堅苦しい感じにはならなそうだとイースラも感じる。
「今すぐに決めろとは言わない。だが考えておいてほしい」
こんなに熱烈にお誘いいただけるなら嬉しいものだとイースラも思う。
「考えておきます。ただ条件もあります」
「条件だと?」
「俺と一緒に入ったサシャとクラインも、入ることになったら一緒に入ることが条件です」
「彼らのことも噂には聞いている。三人まとめて……ならば嬉しいが少し難しいかもしれないな」
「どうしてですか?」
望めばきっと三人とも同じところに入れるだろうと思っていたイースラは不思議そうに首を傾げる。
「クラインは問題ないだろう。だが問題はサシャの方だ」
「サシャの方がですか?」
なんの問題があるのか考えてみるけれど、クラインならともかくサシャの方に問題なんてない。
「彼女は魔法師団長も目をかけている。兵士師団を望んで来ることもできるだろうが……魔法師団の方から反発があるかもしれないな。君も同じだ。三人とも同じ大隊……となると厳しいかもしれない」
「はぁ……なるほど」
大きなギルドにおける内部での権力闘争や政治というものがある。
クラインは兵士の方でのみ合格しているので、兵士師団の中でしか問題にならない。
おそらくどこに入るのかはクラインの意思が大きく反映されることになる。
兵士大隊同士での駆け引きはあろうが、最終的には本人の意思次第なところは大きいのである。
対してイースラとサシャに関しては魔法師団の方でも合格している。
オーラを使える人材も貴重だが、優秀な魔法人材というのもまた貴重である。
クラインはどこの大隊を選ぼうとも兵士師団に所属することに変わりはない。
だがイースラとサシャに関しては魔法師団の方でも合格をもらっている。
どこの大隊、もっと言えば魔法と兵士どちらに所属するのかはかなり大きな問題である。
どちらの師団でもイースラとサシャは欲しいだろう。
せめてどちらかにそれぞれ一人ずつなら面目も立つだろうが、全員兵士師団というのは多少話がこじれてしまう可能性もあった。
イースラとクラインとサシャの仲が良いことは理解しているが、貴重な才能が偏ることをよく思わない人は少なからずいる。
「両方所属するってことはダメなんですか?」
「両方だと?」
「ええ。どちらからも合格はもらっているわけですし」
「…………それは考えたことがなかったな」
ブルームスはアゴに手を当てて悩む。
考えてみるが過去に実例はない。
そもそも魔法と兵士の才能は別であり、同時に二つの入団テストを受ける人もいなかった。
受けようとした人はいたのかもしれないが、どちらかに受かればそちらに入るし、両方受けたところで両方受からない人の方が多い。
「まあ検討しといてください。案外そんな感じで問題解決できるかもしれませんよ」
イースラはにっと笑う。
思わぬところで縁を得た。
今後の立ち位置を考えるべき必要があることも分かった。
どうするかはのんびり考えていけばいい。
お願いもどう使おうかなとご機嫌になりながらブルームスの部屋を後にしたのだった。




