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異世界ダンジョン配信~回帰した俺だけが配信のやり方を知っているので今度は上手く配信を活用して世界のことを救ってみせます~  作者: 犬型大


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助けたのは1

「いきなり呼び出して悪いな」


 結果的には新人研修も死人は出なかった。

 たった数日でも新人研修での噂は色々と広まっていた。


 主な話は引き時を見誤ったことによる失敗についてだが、一部でイースラが見せた圧倒的な実力についても話が出ていた。

 クラインとサシャも強かったけれど、やはりイースラの実力はその中でも目を引いていたのである。


 ただ戦いを見ていない人からしてみればマユツバものだ。

 本気でイースラが強いと信じている人も多くはなく、噂の広まりも悪かった。


 部屋でのんびりと休んでいたらイースラは呼び出された。


「第二大隊長のブルームスだ」

 

 なんだろうと行ってみると待ち受けていたのはブルームスという大柄な男性だった。

 短めに整えた髭の目つきの鋭い人で、背中に大きな剣を背負っている。


 大隊長ということは結構上の役職になる。

 呼ばれた理由が分からない。


「先日の事故について感謝の言葉を伝えたくてな」


「先日の事故というと……」


「新人研修での魔物討伐についてだ」


 呼び出されるのに思い当たる節といったらそれぐらいであったので驚きはない。

 ただわざわざ呼び出されることはなかったはずだと思い返してみる。


「君が使ってくれたポーション……かなり良いものだったそうだね? ソドイが運び込まれた時点でもうすでに怪我は完治していたそうだ」


 ゲウィル傭兵団で用意しているポーションも悪いものではない。

 しかしゲウィル傭兵団で用意していたポーションだけならばソドイは助かっていなかった。


 命を助け、怪我を治したのはイースラが用意したポーションであったのだ。


「……周りで知っている奴は一部しかいないが、ソドイは俺の息子だ」


「え、あっ、そうだったんですか」


 ソドイは胸を刺されて死にかけていた子だ。

 まさかそんな関係だったとは知らなかった。


 隠していたのなら知らないのも当然である。


「あのバカ……良い成績を焦ったようだな」


 ソドイは大隊長であるブルームスの息子であることを隠してゲウィル傭兵団に入った。

 父親のコネであるという色眼鏡で見られたくなかったからである。


 しかし父親の影響というものは強い。

 せめて早く正式入団となる三級以上に上がりたいと焦ってしまった。


 結果として魔物を探して奥まで入っていって、運悪くホーンラビットベアに遭遇したのだ。


「たとえ功績を上げられずとも生きていられれば一番なんだ。それに仲間まで危機に晒したとあっては目も当てられん……」


 ブルームスは深いため息をつく。


「魔物を倒して救ってくれただけじゃない。高級なポーションまで。この関係をバラしても直接礼が言いたかった」


「いえ、生き延びられたのは彼の運が良かったからですよ」


「あんな目に遭って運が良いものか」


「生きてるんだから運は良いでしょう。死ななきゃ全部、運が良いんです」


「はははっ! 良いな、その考え方!」


 死ななきゃ運が良い。

 まだ子供にしては大人びすぎているような気はするが、悲観的でもなければ楽観的でもない面白い考えだとブルームスは笑った。


「ともかく言葉だけではなく、しっかりとした礼をしよう。あいつはまだ金にも困るぐらいだから俺が代わりに何かする。欲しいものなんかはあるか? それにポーションの代金も支払おう」


 呼び出しておいて口で礼を終わりでは、大隊長としても父親としても面目が立たない。

 自分の力でできる限りの願いを叶えるつもりであった。


「さらに一つ階級を上げて小隊長補佐になるのはどうだ?」


「いえ、それは考えてません」


「そうか?」


 昇級すれば貰える給料も増えるし、権限も大きくなる。

 イースラが喜んで引き受けるだろうと思っていたブルームスは驚いた顔をした。


「昇級したくはないのか?」


「したいですが適切な時期があると思います」


「時期?」


 昇級すれば給料なんかは増える。

 その一方でやらねばならないことや責任というものも増える。


 責任を嫌がって、ある程度以上の昇級を嫌う人も存在していた。

 だがイースラはそんな理由から拒んだのではない。


「いきなり上級……ということで周りからの目は良くありません」


「あっ……」


 別に後悔も何もしていないが、飛び級で上級になったことでイースラは周りから色々な感情を向けられている。

 嫉妬、憎しみ、羨望などあまりいい感情ではない。


 これでさらに昇級してしまえば周りとの確執はより大きくなってしまう。

 昇級するということは個人の問題だけでもなくなる。


 責任ある立場として人を率いていくこともあるだろう。

 認められていない人間が率いようとしたところで、ちゃんと言うことを聞いてくれる人がどれほどいるものか。


 今はまだ周りと馴染みつつ、上級にもふさわしい実力があるのだと認めてもらう時期である。

 サシャとクラインが上がってくるのも待ちたいし、昇級するメリットよりもデメリットの方が大きい。


「そうだな。確かに少し焦りすぎた提案かもしれない」


 圧倒的な才能を見せつけたって嫉妬する人はいる。

 まだ子供のイースラがあまりにも早く昇級してしまえば、不和を生むとブルームスも気づいた。

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