表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/64

新人研修8

「足が動かない……!」


 動いたところどうするというのだ。

 最初に背を向けて逃げようとした人はホーンラビットベアのツノで背中から貫かれた。


 相手の方が速くて逃げきれないのに足が動いたところでほんの少し命が長らえるだけなのだ。

 いつも振っている剣が異様に重たく感じられ、何も考えられなくなってくる。


 ホーンラビットベアは真っ直ぐに女の子を見ていて逃してくれそうな気配もない。

 諦めて急所をさらけ出せば苦しまずに死ねるだろうかとまで考えて始めてしまっていた。


「退け!」


 ホーンラビットベアが突撃を始めた。

 その瞬間女の子の横から何かが飛び出してきて、爆発音のようなものが聞こえてきた。


 ホーンラビットベアの悲鳴。

 立派で太い一本角が砕けたように折れてしまっているのが女の子には見えた。


「チッ……おい、剣を貸せ!」


 女の子の横から飛び出してきたのはイースラであった。

 魔力を込めた剣を突き出して突撃してくるホーンラビットベアのツノと剣先を衝突させた。


 剣に込めた魔力を一気に解放させて爆発させることによってホーンラビットベアの突撃の威力を殺したのである。

 ホーンラビットベアのツノは砕けて突撃は止められたけれど代わりにイースラの剣も砕け散ってしまった。


 あまり上質なものではないから衝撃に耐えられなかったのだ。

 盛大に舌打ちしたイースラは女の子を見て手を伸ばす。


 どうせ使わないのなら少し剣を貸してもらえばいい。


「早く!」


「は、はい!」


 ツノが砕かれて動揺するホーンラビットベアだがダメージそのものは大きくない。

 すぐに立ち直ってしまう。


 イースラが再び声を荒らげて女の子はイースラの方に剣を投げた。

 もう手も足も限界でそうするしかなかったのだ。


「危ない!」


 立ち直ったホーンラビットベアが女の子の胴体ほどもありそうな腕を振り下ろした。


「……すごい」


 飛んでくる剣から視線を外したイースラはホーンラビットベアの腕を掻い潜るようにかわし、剣を掴んでそのまま脇腹を切りつけた。

 まるで流れるような動作であった。


 ほんの一瞬で剣とホーンラビットベアの動きを把握した上で適切な行動をとった。

 仮に先にこうするのだと教えられていたとしても同じような動きをできる自信は女の子にはない。


「火焔斬!」


 ホーンラビットベアの懐に入り込んだイースラは剣を引く。

 イースラの剣にまとわれた白い魔力が赤い炎に変わった。


「はっ!」


 炎をまとった剣で下から斜めに切り上げる。

 傷口や毛が焼けて不快な臭いがイースラの鼻に届き、ホーンラビットベアは悲鳴のような声を上げて大きく飛び退いた。


「イースラ!」


「二人とも、コイツを倒すぞ!」


 クラインとサシャも駆けつけた。

 周りの怪我人を見ている余裕はなく、それならさっさとホーンラビットベアを対処してしまった方が結果的には早い。


「オーラを解放させろ! 一撃離脱で戦うんだ!」


「任せとけ!」


「分かった!」


 クラインとサシャもオーラを爆発させるようにまとう。


「いくぞ!」


 イースラは炎を消して剣を白いオーラで包み込む。

 正面からイースラが突っ込んで、クラインとサシャが左右に展開する。


 日頃から三人で戦うことも想定した訓練も当然練習してきた。


「おりゃー!」


「はあーっ!」

 

 イースラがほどほどにホーンラビットベアを引きつけている間にクラインとサシャはホーンラビットベアを切りつけ、すぐに離れるを繰り返す。

 オーラを使えるとはいってもまだまだ子供の力で大きなダメージを与えるために深追いするのは危険だ。


 浅くてもいいから攻撃したらすぐに撤退することで安全に攻撃し、着実にホーンラビットベアにダメージを蓄積させる。

 ホーンラビットベアのやや薄汚れた白い毛皮が血で濡れて赤く染まっていく。


「足!」


 サシャがホーンラビットベアの足を切り裂いた。

 ホーンラビットベアの体がカクンとバランスを崩して倒れる。


「一斉攻撃だ!」


 チャンスとみたイースラは三人で一気に勝負を仕掛ける。

 クラインとサシャがオーラを込めた剣でホーンラビットベアを攻撃する。


「手を出した相手が悪かったな!」


 一斉にと言いながらイースラは攻撃のタイミングをずらしていた。

 二人よりも少し遅くに切り掛かった。


 クラインとサシャの攻撃で怯んだホーンラビットベアは隙だらけで容易く首を狙うことができる。

 ホーンラビットベアが気づいた時にはもうイースラの刃が首に迫っていた。


「なんと……本当に倒してしまったのか……」


 走ってきた教官の足元に切り飛ばされたホーンラビットベアの首が転がってきた。

 上級ギルド員のイースラと三級のクラインとサシャではあるが、子供だし厳しいかもしれないと思っていた。


 なのに三人とも怪我することなくホーンラビットベアを倒してしまっている。

 教官はもちろんムジオとコルティーも驚きを隠せない。


「なんもすることなかったね……」


 意気揚々とついてきたのに着いた時には終わっていた。


「教官!」


 戦いは終わったがまだ事態は終わっていない。

 なんとか攻撃をかわして無事だった人が女の子を含めて三人。


 残りの二人はホーンラビットベアにやられて地面に倒れている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ