新人研修1
ゲウィル傭兵団に正式に所属することになったイースラたちであるがこれで全てうまくいくかと言えばそうでもない。
まだ子供のイースラたちが飛び級で入団したことをよく思わない人もいれば、イースラたちの実力を疑う人もいる。
飛び級で入団したけれどギルドに慣れていくために下働きのようなものから始めていくことはどうしても必要だ。
立場上でもスタートは他の新人たちと一緒である。
「おら! そんなもんか!」
「くっ!」
ゲウィル傭兵団は傭兵団なんて雑そうな名前がついているけれど中は思いの外しっかりとシステムが出来上がっている。
新人には基本的な戦い方から叩き込んでくれる。
ギルドに来る段階で自分の戦い方を確立させてから来ている人もいれば、基礎的なことがまだまだな人もいる。
クラインはイースラやバルデダルに教えてもらっていたとはいえまだまだ歴が浅く素人に近い。
ちゃんとした基礎を叩き込んでくれるのだからありがたいなとイースラは思った。
「そんなんじゃ魔物も倒せないぞ!」
ちょっとばかりキツく指導されている感じがあるような気はするが、いきなり仮入団を飛び越えてしまったのだから多少は仕方ない。
正式な団員としての実力がないと困るのはクラインの方である。
「よそ見している暇があるのか!」
一方でイースラとサシャも基礎訓練は受けている。
クラインとサシャよりも上の上級で入団を認められたイースラはクラインよりもさらに激しい指導が待っていた。
しかしイースラはクラインと違って素人ではない。
むしろ基礎から教えてもらえることを楽しんですらいる。
能力も上がっていくしキツい鍛錬も望むところだった。
魔法使いとしても受かったサシャも必死に訓練に食らいついている。
ちなみに訓練の様子はカメラアイによって配信されていた。
給料に加えて配信によるパトロンや視聴数のポイントもいくらかもらえるのだ。
「この後に勉強なんかしても頭に入んねぇよ……」
訓練が終わってもまだやることはある。
次は基礎的な勉強がある。
具体的には文字や計算といったものである。
クラインはいまだにそこらへん苦手なのでしっかりと学んでおかねばならない。
イースラとサシャはできることをテストで証明したので魔法使いとしての座学が待っている。
「頑張れよ」
「うぉん……」
クラインと別れて魔法使いの基礎を学びにいく。
「それじゃあ始めようか」
クォンシーが先生となって魔法について教えてくれる。
「魔力の扱い方については一般的にオーラと魔法がある。オーラは留める才能、そして魔法は放出する才能が必要だね」
オーラも魔法も魔力を使うという点では同じである。
しかし世の中一般的にこれらは違う力として認識されている。
オーラは留める力である。
体から解放されて拡散してしまう魔力を体のそばに押し留めて体を強化する。
対して魔法は魔力を放出するものだ。
体から魔力を出して拡散しないようにコントロールするのが魔法の基礎となっている。
入団テストで使った水晶は手を触れると触れた相手の魔力を強制的に引き出す力があった。
これによって魔力を放出しやすい体質であるかどうかを判別するのだ。
イースラもサシャも魔力を放出しやすい体質で魔法を扱う才能がある。
一方でクラインは魔力を放出しにくい体質で魔法を扱うには不向きなのであった。
一見すると魔法とオーラの性質は反するようにも思えるが、もっと細かく違いはあって完全に反するものでもないのだ。
オーラが扱えるからと魔法が扱えるわけでもなく、魔法が扱えるからとオーラが扱えるわけでもない。
けれどもオーラが扱えるから魔法が扱えないわけでもなく、魔法が扱えるからとオーラが扱えないわけでもないのである。
「魔法には属性というものがある。それぞれ得意な属性があって、得意なものほど扱いやすくなる。属性は火、水、風、土、光、闇がある。そしてそれぞれから派生した属性もある」
魔法使いの新人はイースラたちの他に二人いて、サシャを含めて真剣な顔をしてクォンシーの授業を聞いている。
「体は衰えていくけれど魔法は一生磨くことができる。決して弛まず修練を続けていくことだね」
クォンシーぐらいの人が言うと説得力があるものだとイースラも思う。
剣の道はどこかで体に限界がきやすい。
魔法も体に限界が来ることもあるけれど、上手く付き合って修練を続ければどこまでも成長できる可能性がある。
「魔法には魔力も大事だが魔法をイメージする力も大事だ。日常から火なら火、水なら水を見て魔法を使う時にそのものをイメージしておけるようにしておきなさい」
イースラは魔法についても知っているので真剣に聞いているふりをしながら今後のことを考えていた。
ゲウィル傭兵団に入ったはいいけれど今後どうするかについては少ない情報を必死に思い出して組み立てねばならない。
ひとまず自分の能力向上とクラインとサシャにも強くなってもらわねばならない。
活動するならもう一人ぐらい仲間に引き入れたいなとも思う。
ぜひ引き入れたい人は何人かいるけれど、それは回帰前に出会った人たちで今どうしているのかは確実なことは言えない。
確実な人もいるけれど今の状況で会いにいくのは現実的じゃない。
やはり地道に戦力アップしてもうちょっと階級上げて自由度を上げるしかないなとイースラは思っていた。
「イースラ、聞いてるかい?」
「もちろん聞いてます」
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