大都市へ3
「分かりました。魔力障害を治す方法を教えてあげます。その代わり疑問は忘れてくださいね」
「誓おう。ただ一つだけ聞かせてほしい」
「何ですか?」
「イースラ君、君がやろうとしていることは……私たちを害するためのことはないのですね?」
全ての疑問は忘れよう。
そうバルデダルは心に誓った。
しかし不安はある。
イースラが何の目的でこんなことをしているのか分からないのだ。
なんとなくだがイースラが望んだように進んでいるような気がする。
肩の重荷を下ろして平穏な道を進み始めたが、その先にイースラが何を見つめているのか。
それだけは気になった。
「もちろんじゃないですか。俺は……みんなに良い道を歩んでほしいんです」
少なくともイースラが何もしなければベロンもみんなも破滅に向かう悲しい道を歩むことになっていた。
「これから進む道が良い道なのかは分からないけど……少なくとも最悪じゃないとは思います。まあ悪い道だったとしても害する目的があるわけじゃないことだけは確かです」
「……君のことを信じよう」
確かにあのまま冒険者を続けていると良くない結末に辿り着いた可能性は高いとバルデダルも思った。
「イースラ君、これを」
「これ……? えっ?」
急にバルデダルが配信メニューを操作し始めた。
するとイースラにポイントが送られてきた。
結構多めのポイントである。
「これは……一体」
「私はポイントで能力を買わなかった。それどころかこれまでもらったポイントもほとんど使っていない。それを君にあげよう」
「どうして……」
「年寄りが少し能力を上げようと何も変わらないさ」
バルデダルはまだ年寄りというほどの歳でもないだろうとイースラは思う。
「それに魔力障害でオーラも上手く扱えなかった。治すために他の手段があるんじゃないかと取ってあったんだ。だがもう必要なくなった。若い世代に託すのも悪くはないだろう。まあ負担に思わず治療代だとでも思ってくれ」
「……分かりました」
もらえるものならもらっておく。
配信におけるポイントはいくらあっても困ったものじゃない。
頼りすぎてもいけないが頼れるところは頼っていくのがいいのである。
「それじゃあ早速始めましょうか」
「今からできるのか?」
「治療といっても一発で治せるような手段はありませんよ。ここからはバルデダルさんの努力になります」
「この歳で努力させられるのか」
「口で言うほど歳でもないでしょ?」
ーーーーー
「バルデダル、なんだか気分良さそうだな?」
「ええ、長年の胸のつかえが取れました」
ベロンはバルデダルの表情が柔らかいなと感じた。
元々無表情なことが多くて表情が分かりにくいが今日は明らかに機嫌が良さそうだ。
イースラはバルデダルにアルジャイード式魔力運用方法を教えた。
アルジャイード式は外の魔力を取り込んで自分のものとする効果があるけれど、その過程で他にも色々とプラスの効果もある。
バルデダルの魔力障害は昔魔物と戦った時に無理をして魔力経路と呼ばれる魔力を流すためのものがねじれてしまったことが原因だった。
そのためにオーラを使おうと体力の魔力を体に流すとねじれた部分に負担がかかって最終的に反動として体がダメージを受ける。
アルジャイード式は体に魔力を流して循環させるが、オーラを使うような大量の魔力を一気に使うものとは違う。
ゆっくりと確かに力強く体の中で魔力を循環させるのだ。
アルジャイード式で流れた魔力はねじれた魔力経路を少しずつ元に戻してくれる。
ついでに魔力経路の強化にもなる。
一回のアルジャイード式で魔力障害が治りはしないがねじれて流れが悪くなっていた魔力が流れるようになってバルデダルの胸の痛みはかなり軽減されていた。
機嫌も良くなるはずである。
「そうか。ならよかったよ」
滅多にないバルデダルの上機嫌を邪魔してはいけない。
ベロンはそれ以上追及することをやめた。
「予定ではもう数日もすればカルネイルに着くはずだ」
「カルネイルってのが首都……だっけ?」
「おっ、よく覚えてるね」
「俺だって多少はな」
これから行こうとしているのはカルネイルという都市だった。
イースラたちがいるブリッケンシュトという国の首都になる大都市だ。
そんなところで商人やっているのだからベロンの家も実はそれなりにすごい商家なのである。
「はぁ……でもカルネイルが近づくと気が重いよ」
ベロンはため息をつく。
まだ家に戻れると決まったわけでもない。
デムソやスダーヌのこともある。
これからのことを考えると気が重いのは仕方がない。
「イースラたちもカルネイルで活動するのか?」
「そのつもりです」
「まああそこなら大きなギルドもあるしなオーラが使えるならどこでもいけるか」
旅の中でもイースラがしっかりしていることが再確認できた。
サシャもそれなりにしっかりしているし三人ならばどこへいっても心配ないだろうとベロンも思えた。
「ただ……今日も野宿だ」
「えー……」
「しょうがないだろ、スダーヌ」
ベロンが不満そうな顔をするスダーヌの腰を抱き寄せる。
「そうねぇ……」
「次の町についたらいい宿に泊まろう」
「……あなたと一緒ならどこでもいいわよ」
「……早くカルネイルに着かないかね」
「仲が良いのは良いことだろ」
「どうだかな……」
仲が良いのは良いけれどやるなら二人きりの時にやってくれとみんなは思うのだった。