回帰前とは違う選択2
「ベロンさんの家、商人やってるんですよね?」
「えっ、そうなの?」
「知らなかった……」
スダーヌもデムソも知らなかったようで驚いている。
「どうやってそれを……」
ベロンも別の意味で驚いていた。
仲間であるスダーヌやデムソも知らないことをイースラがどうして知っているのか不思議でならない。
「全部聞いたんです。ある時ベロンさんの様子を教えてほしいって人が接触してきて……その人が教えてくれました」
回帰前の記憶があるから知っているのだと言っても受け入れ難いだろう。
だから言い訳は常に考えてあった。
ベロンは実は大きな商家の息子として生まれた。
ただし長男ではなく次男であった。
兄は優秀でベロンが商会長として家を継ぐ可能性は低い。
昔から冒険者としての活動にも憧れがあったベロンは家を飛び出して覚醒者として活動を始め、出会った仲間であるスダーヌやデムソとともにギルドを立ち上げた。
ここまでなんとかやってきたスダッティランギルドではあるが、全て実力と運で成し得たものではなかった。
実は裏でベロンの家が手助けしていたことがあったのだ。
直接ではなくともベロンたちに仕事を優先的に回すようにしたり邪魔となる存在を排除したりと遠回しに助けていたのである。
同時にベロンの様子もバレないようにうかがっていたのだ。
ベロンにバレたくないから直接接触することはなかったのだけどギルドが大きな失敗をした時に一度だけ接触してきたことがあった。
口止め料も支払ってもらったのでベロンのことを報告してイースラもそのことは秘密にしていたのである。
後にベロンは実家が関わっていたことを知ってひどく怒ることになるのだが、回帰前よりも早めにそのことを伝えてしまう。
「これまでもベロンさんの家の手助けはあったはずです」
「バルデダル……」
「はい、知っておりました」
バルデダルは全てを知っていた。
スダーヌやデムソと出会う前からベロンと一緒にいるバルデダルも実は商家にいる時からの関係であったのだ。
ベロンの護衛として付けられていたのがバルデダルで家を飛び出してもベロンについてきた。
なんとなくそんな予感はしていたもののバルデダルの実力の高さはベロンも認めているところであり、完全に一人でやっていくことができなかったので疑いを持ちつつもバルデダルを利用していた。
せいぜい監視だろうと感じていたが、まさか助けまであったとは考えていなかった。
「俺の家が商人をやっているとしてどうしろというのだ?」
「ベロンさんは十分自分の力を証明しました。人集めてギルドを起こし、ここまで戦い抜いてきました。普通の人にとってはかなり大変なことです。もう終わりにしましょう。そして帰るんです。本来あるべきところに」
「俺に! ……俺に冒険者を辞めろというのか!」
ベロンはテーブルを殴りつけた。
スダーヌやサシャがベロンの怒りにびくりとする。
「そうです」
「なっ……」
けれどもイースラは怯えた様子もなくまっすぐにベロンの目を見て答えた。
逆にベロンの方がイースラの態度に怯む。
「もうポイントで強くなることはできません。デムソさんは片腕を失いました。頭打ちどころかこれからやっていくことも厳しくなりました」
誰にも怪我がなかったのならもう少し続けてもいいかもしれない。
しかしタンクの役割を担うデムソが片腕を失って冒険者としての活動が厳しくなった。
バルデダルも活動が難しい。
イースラたちがその穴を埋めるとして、今後オーラユーザーとして成長すると今度はベロンたちが足手纏いになり不和が生まれる。
オーラユーザーとしてやっていける実力があるなら田舎町で小さなギルドの中でやっていく必要もない。
誤魔化して続けてもスダッティランギルドには崩壊する未来しかないのである。
「今ならまだベロンさんの家もベロンさんのことを受け入れてくれると思います。冒険者としての経験や腕があればむしろ向こうとしてもありがたいでしょう」
「デムソはどうする……」
「そのまま雇ってあげたらどうですか? 片腕でも積み下ろしや荷物の護衛などできることはあります。力も強いので働けるはずです」
「わ、私はどうするのよ?」
スダーヌが慌てたように立ち上がった。
今の話でスダーヌのことには言及していない。
ギルドが無くなったらスダーヌはどうすればいいのか。
「スダーヌさんは魔法が使えるので他でもやっていけるでしょう」
「そんな無責任な……」
「じゃあ、素直になったらどうですか?」
「えっ?」
「スダーヌさんがギルドに入った理由、ありますよね?」
魔法が使えるということは大きな強みである。
やっていけるかどうかも分からないギルドではなくもう少し安定しているところにだっていけた。
なのにスダーヌはスダッティランギルドを選んだ。
いや、選んだのはスダッティランギルドではなかった。
「なんで……」
「見ていれば分かりますよ。スダーヌさんはベロンさんのことが……」
「待って!」
イースラの言葉の先が分かったスダーヌは顔を赤くして止める。