運命に抗うもの4
「逃げられそうな感じはあるけど……」
この部屋につながっている道は三本ある。
イースラたちが来た方の囲みは薄く抜けていけそうな雰囲気はある。
ただ問題がある。
「う……腕が……」
デムソの状態が良くないと言うことである。
熟練した冒険者なら腕がやられようと自ら止血ぐらいするものだけどデムソは腕がなくなったショックに何もできないままでいる。
一般的な反応であり悪いと非難するつもりはない。
けれども止血もしないでただ地面にうずくまっているだけでは足手纏いにしかならない。
出血が多くてデムソの体力を奪い、すでに顔色が相当悪くなっていた。
逃げられる状態かどうかかなり怪しいものである。
見捨てるという選択肢もイースラの頭の中には浮かぶ。
「デムソさん、動けますか!」
「なんでこんなことに……」
「くそっ!」
もはやイースラの言葉はデムソの耳に届いていない。
「こうなったら……」
「燃えなさい!」
このままデムソにこだわれば全滅の可能性が出てくる。
こうなったら引きずってでも連れて行こうかとイースラが考えていると後ろから炎が飛んできた。
ケイブアントに炎が当たって炎上する。
「バルデダル、イースラ!」
「ベロンさん!」
見るとベロンとスダーヌも来ていた。
どうやら二人も意外と近くまで運ばれていたようだ。
「デムソ! 腕が……」
ベロンはデムソの状態を見て顔をしかめる。
腕を失ったデムソは自分の血で血まみれになっていた。
「……スダーヌ、腕を焼いてやれ!」
「…………そんな」
「放っておけば死んでしまう!」
「……分かったわ」
一気にイースラたちのところまでベロンとスダーヌは駆け寄ってきた。
「ごめんなさいね」
「うわあああああっ!」
スダーヌは手に炎をまとうとデムソの腕に押し当てる。
治療の魔法を使える人がいない以上止血する方法は別の手段を使うしかない。
悠長に包帯を巻いている暇もないのでサッと止血しなければデムソは失血で死んでしまう。
スダーヌは炎でデムソの傷口を焼いて血を止めようとしている。
傷口が焼ける嫌な臭いが辺りに広がる。
スダーヌも言われて仕方なくやっているだけでかなり嫌そうだ。
「う……うぅ……」
「とりあえずこれで血は止まったはずよ」
腕が焼かれてどうにか出血は止まった。
しかし荒い止血方法にデムソはもう動けなくなっているようだった。
ベロンのことだ、止血までしてデムソを見捨てるという選択はないだろうとイースラは思った。
「……ベロンさん、バルデダルさん、ボスを倒しましょう!」
こうなったら生き延びるための選択は一つしかない。
それはボスを倒すことだ。
ボスを倒しても周りの魔物が消えることはない。
しかしボスを倒せば統率が取れなくなり周りの魔物は弱体化したり逃げたりする。
今この状況で全てを倒してからボスを狙うのはかなり厳しい。
無理にでも突破してボスのみを先に狙う方がいいだろうとイースラは考えた。
「俺がボスをやります! 道を作ってください!」
「……バルデダル、スダーヌ、やるぞ!」
「もう私も若くないんですがね」
「子供に託すしかないのね……やってやるわ!」
「クライン、サシャ! 聞こえたな!」
「分かった!」
「怪我しないでよ!」
スダーヌが魔法を使い、ベロンたちが一気にボスの方に駆け出す。
行かせまいとする赤いケイブアントをベロン、バルデダル、クライン、サシャで攻撃して道を開けさせる。
「くふっ……!」
「バルデダル!」
バルデダルが突如として血を吐いた。
まとっていた茶色のオーラが不安定になって消え去った。
「大丈夫です……頼みましたよ」
「任せてください!」
みんなが作ってくれた道を進んでイースラがボスケイブアントの前に飛び出した。
ここまで誤魔化すように不安定にまとっていた白いオーラを今はぴたりと薄く体にまとっていた。
剣にも同じように白いオーラをまとわせてボスケイブアントを切りつける。
硬い顎を切り裂き、そのまま頭、体と切っていく。
「おりゃあーーーー!」
ボスケイブアントの体液が噴き出してイースラにかかる。
だけどイースラは止まらずボスケイブアントの全身を何度も切り付けた。
『あれほんとに子供かよ?』
『完全にオーラ操ってる』
『あんなのありえないだろ』
『どうなった? 配信の位置遠くてよく見えないよ』
ボスケイブアントが大きく一鳴きした。
その瞬間切りつけられたところから激しく体液が噴き出してゆっくりと地面に倒れた。
「回帰前なら細切れになってたのにな」
まだまだ力も魔力も足りていない。
無事もただの剣だし想像していたよりもボスケイブアントは硬かった。
だけど倒した。
ボスケイブアントが倒されて周りのケイブアントに動揺が走る。
黒いケイブアントは逃げ出して赤いケイブアントは狂ったように暴れ出す。
「バルデダルさんは下がっていてください! やるぞ、二人とも!」
残っている赤いケイブアントは多くない。
限界を迎えたバルデダルには下がっていてもらいイースラはクラインとサシャと共に暴れる赤いケイブアントを倒しにかかる。
「あいつら……何者なんだ?」
「……分かりません。ただあの子たちを連れてきた選択は間違っていなかったようですね」




