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買われた真の目的1

「いいか。今から魔物の討伐を行うがお前たちは後方で荷物の管理をしていればいい。前に出ることはないし、大人しくしているんだ」


 日々掃除に料理と任された仕事をこなして目立たぬように過ごしていた。

 まともな料理が食べられるようになってギルドの雰囲気はかなり良くなった。


 掃除なんかもしっかりこなして真面目さを見せているのでイースラたちに対する態度もだいぶ良いものになった。

 表ではそんなふうにしているが次の配信もすでに投稿していて再び愛の使者が現れてくれた。


 ウイがなんなのか特別なことはしなかったのだけど次もウイとレビューとパトロンをくれた。

 最初の配信も含めて視聴数は増えていて予想よりも良い感じで推移している。


 そんな中でようやくイースラたちが孤児院から引き取られた本当の目的を果たす時が来た。

 イースラは大きめの荷物を背負ってギルドのみんなと共に町を離れていた。


 昼過ぎまでかかって移動したところで荷物を下ろし、イースラたちが焚き火で軽く料理を作った。

 これから行われるのは魔物の討伐だった。


 ギルドのみんなも遊んで過ごしているわけではない。

 冒険者として魔物を倒して生計を立てている。


 イースラたちもだいぶ生活に慣れてきたのでそろそろだろうと駆り出されたのである。

 ただしイースラたちがやることは戦うことではない。


「今からあれをあちこち向ける。あの目がついた箱だ」


 バルデダルがポムの方を指差す。

 目のあたりを青く腫れさせたポムは持つための棒がついたカメラアイを持っていた。


 イースラが買ったものより棒の分お高いカメラアイである。

 クラインはあの棒いいなと思っていた。


 事前にさせられた同業者申請といいロクに説明もするつもりはなさそうである。


「基本的には何も喋らず大人しく作業していればそれでいい」


 イースラたちがやるのは画面の端に映ることである。


「スダーヌ、準備はいいか?」


「いいわよ。バッチリ」


 魔法使い用の赤いローブに身を包み、しっかりとメイクアップしたスダーヌが髪をかきあげながらポムが持つカメラアイの前に立つ。


「それじゃあ始めるぞ。配信開始だ」


 バロンが配信画面を操作して配信を開始する。


「はーい、スダッティランギルドのスダーヌでーす!」


 スダーヌはパッと笑顔を浮かべてカメラアイに向けて手を振る。

 イースラは配信画面を開いてカメラアイを通しての映像を確認する。


 スダーヌも顔は悪くない。

 むしろ配信向けの派手な顔をしているので画面越しで見ると映えていい感じである。


「今日は魔物のハイウルフを倒そうと思います。人も襲う獰猛な魔物なので倒してみんなの安全を確保しようと思います」


 スダーヌがゆっくりと歩き出す。

 ポムはそれに合わせてカメラアイを動かしてスダーヌを枠内に収め続ける。


「あっと……映っちゃったかしら?」


 画面の端にチラリとイースラたちが映ってスダーヌはわざとらしくイースラたちに手を振る。

 イースラも笑顔で小さく手を振ってサシャとクラインも同じようにする。


「あの子たちは孤児院出身の子なの。身寄りがなくて……孤児院も大変だから私たちギルドが引き取ったのよ。ただ魔物を倒すだけじゃない。こうした活動も必要だと私たちは考えているの。よければパトロンよろしくね」


 イースラたちの役割はこれで終わりである。

 ちょっとしたアピールのためにイースラたちはこの場に連れてこられていた。


 他の配信者で子供を多く引き取って訓練し、冒険者として育て上げるというチャンネルがあった。

 子供たちのためというところで応援する声も多くて人気も博していた。


 スダッティランギルドはそうしたものを取り入れ、子供を引き取っているというところをアピールしてより多くのパトロンを引き出そうとしているのだ。

 参考にしたチャンネルはのちに虐待行為が暴露されたり子供を戦わせることに対しての批判を浴びて消えてしまった。


 いろいろ雑用は欲しかったしついでに子供を引き取る良いギルドという印象を与えてパトロンが増えれば御の字といったところである。

 そんなことしないでもっと冒険者として腕を磨けばいいとイースラは思う。


 ただその考えのおかげで孤児院から脱することができたのだから一概に悪いとも言えない。


「お前たちはこのままここで待機だ。焚き火を消さないように気をつけろ」


 流石にイースラたちを戦わせることはしない。

 イースラたちに荷物の管理を任せてバロンたちは今回討伐するハイウルフを探しにいった。


「えと……これで終わり?」


 初の大切の仕事だと聞いていたのに結構拍子抜けで終わってしまった。

 サシャはキョトンとしたままみんなの背中を見送った。


「まあこんなもんだ」


 スダッティランギルドにもっと実力があったのならイースラたちを連れて行ったのかもしれない。

 けれども流石に子供を抱えての戦いは厳しくて置いていかざるを得なかった。


 配信しているというのもネックになる。

 子供を連れて上手くやれば動画としての注目度も上がる一方で配信を回している間に子供が死んでしまえば批判は避けられない。


 どんな残虐な配信でも止められるわけではないのでそれを逆手に取って残虐な配信を行なっているキラーと呼ばれる人もいる。

 さらにそんな残虐な人を突き止めて倒すキハンターと呼ばれる人なんかもこの先には出てくる。


 なんにしてもスダッティランギルドには子供を連れていく力もなければ批判で注目を浴びようという気概もない。

 せいぜい配信の端で映して同情を引くの関の山なのである。

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