オオカミを捕まえろ5
「ようこそいらっしゃいました、お客様」
「えっ?」
「あっ、下でございます。下下」
割と高めの声が聞こえてきた。
だけど人はいなくて困惑していたイースラが下を向くと、そこにネズミがいた。
変なネズミだった。
まるで執事のよう燕尾服に身を包んだ、拳よりも一回りほどデカいネズミなのである。
「どうも、私チューミットと申します」
立ち上がったネズミは名前を名乗って頭を下げる。
「ネズミが喋ってる……!?」
「なんだこれ?」
「私はこの家の使用人をさせていただいております。あ、いえ、使用人ではなく使用ネズミかもしれませんね。チュチュチュチュ!」
チューミットは独特な笑い方をする。
みんなは喋るネズミにイースラも含めてみんなは困惑する。
「お入りください、お客様」
「……入りましょうか」
チューミットに促されてイースラたちは家の中に入る。
「ただいまお茶を用意いたしますね」
「……魔法」
チューミットはかまどに火をつける。
ネズミがどうやってお茶を沸かすのか疑問だったが、チューミットは魔法を使っていた。
程なくしてチューミットはお茶を乗せたトレーを持って走ってきた。
テーブルの上までトレーごと飛び上がったのだけど、お茶は一滴もこぼれなかった。
「つきましては何のご用で?」
ネズミが淹れたにしては美味しいお茶。
「魔女さんに会いに」
「魔女、でございますか?」
魔女なんてもういないかもしれないという意見の方が強かった。
イースラも魔女はいないだろうと思っていた。
しかし、チューミットを見て少し考えが変わった。
喋るネズミなんてまずいない。
まして無人の家に燕尾服をきた喋るネズミが勝手に住み着いていることなんて、あり得ないと断言してもいい。
つまりこのチューミットは誰かに生み出された存在だと思った。
そんなことをやるのは魔女と呼ばれている人だろうと繋がった。
「……魔女はいらっしゃいません」
「いないんですか?」
「だいぶ前に亡くなられました」
「…………そう、ですか」
チューミットは少し悲しげな顔をしているように見えた。
「じゃあチューミットさんはここに一人で?」
食べ物食べたりと嫌われがちなネズミであるが、チューミットは割と愛嬌があって可愛く見える。
一人でここにいるのだとしたら、ちょっとかわいそうだとサシャは思った。
「いいえ、私一人ではございません!」
「誰がここに?」
「魔女のお弟子様である、リフェン様がご一緒に住んでおられます」
「リフェン……その人は今どこに?」
「それにつきまして、みなさまをこうしてお招き入れた次第でございます」
「んん? どゆこと?」
「理由を聞かせてもらっても?」
クラインは首を傾げる。
イースラもどういうことなのか分からずに眉をひそめる。
「そちらのお客様、とてもお強い魔力を感じます」
チューミットはエティケントのことを見る。
「ええ、この人すごい人ですよ」
「どうか少しばかりお助け願えないでしょうか?」
チューミットは深々と頭を下げる。
何だか少し焦っているような感じがあった。
「何をどう助けたらいいのかも分からないのに、助けようもないですよ」
ただ助けてと言われても何も分からない。
流石にそれで何かを安請け合いするなんてことはできなかった。
「リフェン様がお帰りにならないのです」
「さっき言ってた魔女の弟子……って人?」
「その通りです。お薬を作るための薬草を取りに行ったのですが、もう何日も……」
「薬? もしかしてだけど……リフェンって人、こんな瓶を使ってない?」
薬と聞いてイースラはライアンウルフの薬瓶を荷物から取り出す。
「ああ、それはリフェン様がお使いになられているやつですね」
見つけた。
イースラはそう思った。
エティケントと視線を合わせて頷く。
これはリフェンという人がライアンウルフだろうとほとんど確信を持った。
「リフェンさんという人が戻ってこないんですね? それを探せばいい……ということですか?」
こうなったらチューミットのお願いを断るわけにはいかなくなった。
ただ、何があったのか詳細に話を聞かねば何が起きているのかも分からない。
「その通りでございます」
「この森の中に?」
ただ探せと言われても結構難しい。
もう少しヒントは欲しいものである。
「実は…………」
チューミットは言い淀んだ。
何か言いにくいことがあるのか、イースラやエティケントの顔をチラチラと確認する。
「秘密は守りますよ」
「……分かりました。あなた様をご信頼いたします」
悩んだようだったが、探してほしいというのに情報を出さないこともできなかったのかチューミットは観念した。
「実はこの森にダンジョンがあるのです」
「ダンジョンが?」
町や村ではそんな話を聞かなかった。
初耳なことでイースラは驚く。
「中には色々な薬草が生えておりまして、魔女コーデリア様の時から秘密にしていたのです」
「リフェンさんはそのダンジョンに入っていって帰ってこない……ということになるんですね?」
「はい、その通りでございます」
チューミットは深いため息をつく。




